すたすた。
「・・・」
「今日は何処へ行きましょうか?」
すたすたすた。
「・・・・・」
「まぁ貸しはいくつかあるんだけど、私も鬼じゃないからそんなにオドオドしなくてもいいですよ」
すたすたすたすた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
すたすたすたすたすたすたす―――ぷちん。
「どうかしたんですか七枷君。さっきから鳩が豆マシンガンを食らったような顔して黙りこくってるようですけど、何かあったんですか?」
青筋立てながら疑問を投げかける隣の女性。尤も、意味合いとしては『おいあんちゃん、ワシが折角喋ってるのに何シカトこいてすたすた歩いてん、ヌッ殺しちまうゾ♪』と、そう聞こえた。ついでに言わせて頂くと、このまま放置すれば生命身体の危機に晒されちゃうよ、助けてママン。
『Fate/The impossible world』
最初は・・・まぁなんていうかあれだ。ドッキリ。そう思ったんだ。今年はなんか電車男とかアキバ系ヲタとか良い意味でも悪い意味でもネタにして取り上げられ、空前の萌えとかヲタブームだ。それに乗っ取って、Fateの遠坂凜に限りなく似た女優さんが演技してオレを騙して、そこへ看板持ったロンブーとかアンタッチャブルとかの芸人リポーターが『どーもー、○○のアキバ系ドッキリで〜す』とか言って出て来てパッパパー♪っていうお決まりのSE(多分収録してから当てるんだろうけど)で締める。そんなとこだろうと思ってた。
でも実際この状況はどうよ?いつまで経ってもカメラも何も出てきたりしないし、遠坂(仮)はネタばらしの素振りすら見せない。というか、演技調な所が一切無いっぽい。普通・・・そう、完全と言っても過言ではないくらい普通の雰囲気を持っていた。
「あ、いやごめん。ちょっと考え事してたからさ」
「考え事・・・ねぇ。それでもちょっとはこちらに配慮しなさい、無視されたように思うから」
なんか地が出たっぽい言葉を投げかける遠坂(仮)。一瞬本物かなと思ったけど、直ぐに失笑に伏す。何を考えてるのだオレは。ゲームのキャラがこんなとこ・・・っていうか現実に居るわけねーだろ。白い壁のある病院に搬送されるわ。ドッキリじゃないなら、この女の子は何者?・・・嫌だけど、分かるまで向こうに合わせた方が無難かな。
「えっとさ、遠坂さん」
「?何?」
「あ〜、うん。借りってさ、何を借りにしてたんだっけ?」
ぽかーん。なんていうか、「1+1は?」「えっとね、たくさ〜ん」と答えた可哀想な子を見るような生暖かい目をされる遠坂。
「いやあの、ちょっと寝ぼけ気味というか何というか・・・まぁ具体的に教えてくれると有り難いんだけど」
「はぁ〜、しっかりして下さいね七枷君。別に低血圧な訳でもないでしょうに。男の子なんだから朝はしっかりと起きないとダメですよ」
『そう言うおまいは毎朝超低血圧で、目の下にこの程度の餌に私は釣られないクマーな隈を携え、幽鬼の如く屋敷内を闊歩してるくせに人の事言えんのか?』
(・・・て言いたいけど、言ったら確実に殺される気がする)
「あ〜・・・まぁ努力します。すんません」
てかなんでオレ謝らなあかんねん。それに朝早くの起床に男の子云々って関係あるんか?
「まぁいいわ。それじゃあ貴方が私に借りてる内容ですけど―――」
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
要するに、オレは遠坂に一部教科の課題を見せて貰ったり、少額ではあるが学食・購買の購入物に掛かる金銭の賃貸(金利は知り合い特別価格でといち若しくはとにらしい。あくまだ・・・)等々ちんまい借りが積もっているらしい。で、その清算を済ませるためにオレが今日新都で色々奢る・・・のだそうだ。全く身に覚えがない訳だが。
そうこうする内に、ビルの繁華街・・・というかショッピングモール(?)に足を踏み込んでしまった。覚えがない借りを返すのは納得いかないが仕方がない。財布の中身には茶褐色の兵士が気持ち多めに配備されている。大丈夫だとは思うがさて・・・。
―――――二時間後―――――
「ま、こんな所で許してあげるわ。これ以上は私も忍びないし」
よくもまぁ色々と連れ回してくれたものである。最初はよく分からない小物周りを物色していって、まぁ値段はそこそこだしこれならそれほどでもって感じだったけど、MT車のギアを上げるようにグングンエスカレートして挙げ句の果てには・・・・・・・・いや、思い出したくもねぇ。
取りあえずさようなら・・・・・・福沢の四天王。
「あ、ちょっと本屋に寄って良いかな?読みたい物あるから」
「えぇ、別に構わないですよ。私も寄りたかったですし」
あ・・・ていうか。
「・・・?どうしたんです七枷君、いきなり立ち止まって」
「あ〜・・・本屋どこだったっけ?」
ダメダメだった。
てなわけで、遠坂に案内して貰って本屋に到着。まずは週刊誌コーナーに直行。確か今週のジャンプはもう発売されてるはずだ。ローカルな地域限定特典のフライングゲット、略してフラゲってやつだ。しかし、最近のジャンプは最早ワンピースとデスノートとブリーチ・・・後は敢えて言うならハンター×ハンターくらいしか見る価値無いよな。他のヤツはどうか知らんけど。質が落ちたもんだよ全く・・・ん?こち亀?ハ―――論外(嘲笑)。
っと、さて、今週のニアとライトの対峙はどこまで盛り上がるのか楽し―――
―――――――――ナンダコレハ。
週刊少年ジャンプ『2004年新年第06・07合併号』――――だと?
おい―――おいおいおいおいおい!!ちょっと待てよ、今年は2005年だろ?なんで1年も逆行してるわけ?おかしいだろ!てかここ古本屋か?・・・んなわけない、只の書店だ。取りあえず中身の確認――っ!
―――パラパラパラ。
確かに中身は本物だ。デスノートやその他諸々の作品が載ってある。いちご100%もある。オレはあんまし寸止めエロ漫画は好きくないけど。・・・ていうかさ、ちょっと前にいちご100%『完結して連載終了してるんですけど』。
ハッとなったオレは、コミックスの棚を漁る・・・というか、漁るまでもなく棚に張られた張り紙を見た瞬間、また異常に気付いた。
デスノート最新刊!第4巻入荷しました。好評発売中です。
は・・・はは。なにそれ。デスノートはもう8巻まで出てるんだぞ、なんで4巻が最新なんだよおかしいよ。店員に年号聞いても今日は2004年の1月24日ですって返ってくるし訳わかんないよつーかさそもそもオレ会社辞めたの秋頃つまり11月くらいだぞ時間すらあわないじゃないかどうなってんのなんであわないんだなんで連載終わった漫画が話数戻って掲載してるんだなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで―――――!!
目眩がする。ぐにゃぐにゃと身体が溶けるようなざわつきを感じ、少しよろけた。ふと視界に捉えた古書・・・というか、伝記物のコーナー。とは言っても、挿絵多めの難しめな絵本といった所だ。その中の中身が開きっぱなしになっている一冊を目にした。それはアーサー王伝説の物語。ディ○ニーちっくなビジュアルの王がガラハッド始め円卓の騎士達に聖杯探求の命令を出している絵。
「・・・・・・聖・・・杯・・・か」
無意識に吐露した蚊ほどの大きさもない声。だがそんな声に―――ドグン!!
「―――――――――アンタ、今なんて言った?」
「―――――――え?」
ビキリ、と身を焦がす・・・いや凍らせ、息の根すらも止めさせるような声を放ち、さっきまであくまっぽい笑みや年相応な微笑みを浮かべていた筈の女の子―――遠坂凛が、まるで機械の、ような、冷たい瞳で、オレを、睨んで、いた、んだ。