日々は過ぎ去っていく。早く幕を開けろと急かすかのように、意図的にすら思えるほど早く時間は過ぎていく。日曜日は、ぼんやりしていたこの冬木市の地理状況をきちんと把握するために、主に深山町と新都を歩き回っていた。大抵は覚えたので、迷うことも無いだろう。多分。
今日は1月26日。あ、そうそうオレはこの世界じゃ学生らしい――オレ、ホントは23なんだけどなぁ――ので穂群原学園にも行かないといけなかった。少し驚いたのは、

「おぉ七枷、おはよう。母君は息災か?親父殿がまた今度酒を飲もうと言っておったぞ。今度こそ勝つとも言っていた。いや全く、あの人の飲みっぷりは俺も尋常ではないと思うぞ。親父殿を打ち負かすくらいだからな。まぁ見ていて爽快ではあるが」

善哉善哉と、柳洞一成。・・・てかこの世界じゃ母さん、一成の親父と顔見知りかよ。確かに元居た世界で母さん、キ●ガイじみたザルだったけど、この世界でも同様らしい。・・・ジン、ウォッカ、スピリタスのストレートを三段ちゃんぽんにして飲み干し、軽く顔が赤くなっただけでコロコロ笑っていた姿を見たとき、「・・・コレ、本当に人間か?」と疑ったものだ。

「お、七枷。おはよう、珍しいなお前が早く登校してるなんて」

工具片手に一成と一緒に現れたのは、衛宮士郎。剣製の魔術師。アーチャーの原点となる可能性を秘めた、正義の味方を目指す・・・異常者。当然、今は成功率1%程度の強化しか使えないんだろうな。
まぁとにかく、この2人と(この世界の)オレが顔見知りだったとは思わなかったわけだ。







『Fate/The impossible world』





「あぁ、おはよう柳洞、衛宮。いやまぁ早く起きすぎて暇だったし。2人はいつもの修理行脚?」

「修理行脚って・・・何か響きが微妙に嫌だぞ」

「確かに備品修理に出向いてはいるが・・・ふむ、言い得て妙だな。いつも衛宮に任せっきりで力になれず、俺としては少々申し訳なく思う。俺もまだまだ修行が足りん」

喝。とFateでも良く見た一成の喝。口癖なんだろうか?

「まぁ頑張って。オレは教室でまったりするわ」

「うむ、またな七枷」

「おう、頑張るぞ。それじゃあな七枷」

えーとオレのクラスは・・・っと。手帳をパラパラめくって確認する。2−A・・・か。
それほど苦労せずに教室に到着出来た。まだ誰も来ていない。座席は・・・っと、後ろから2番目で窓側の席か。鞄を置いてぼへーっと窓の外にある空を見上げた。







まぁ、そのですね。また驚いたわけですよ。

「あ、七枷君おはよ〜。どうしたの今日は早いね〜」

「む・・・本日は七枷某が既にご登校か。しかも一番乗り。皆が遅刻・・・しているわけではないな。うむ」

「お、ナナカッチがいる。明日は電撃波の雨あられかね?うん?」

三枝由紀香、氷室鐘、そして黒ナマモノ。

「蒔寺楓だ!覚えろよコノヤロー!!」

黙れ、モノローグに突っ込むな。つか、女っぽいあだ名もしくは某格ゲーに出てくる白毛皮の雪男みたいな名前をつけるやつなんぞ、ナマモノ呼ばわりでもまだお優しいですよ?

「ちぃーす。お、七枷じゃんか。今日は珍しく新人出勤かい?」

美綴綾子。Fateのサブキャラの面々とも知り合いか。同じクラスだからかな。
段々と登校してくる生徒が増え、教室も賑やかになってくる。
そして一番驚いたのが、

「あ、と、遠坂さん。おはよう〜」

「おはようございます三枝さん。今日も良い天気で気持ちの良い朝ですね」

遠坂凛も、この教室に入ってきた。あ、そう言えば確か2−Aが彼女のクラスって設定だったっけ。・・・って、え?あの・・・遠坂さん、何デワタクシノ所ニ向カッテ来ルンデショウカ?
遠坂はオレの真後ろ・・・正確には後ろの席に着いた。あの、もしかしなくても・・・


「おはようございます七枷君。昨日はどうも」


ヤッパリソコガ貴方様ノ席ダッタンDEATHネ。

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪







「Did ken go to England what time on earth?・・・えーとこの問題の答えをね〜」

授業が始まった。何というか・・・非常につまらない。当然だ、こんな感じの問題なんて数年前に既に習っている。習ったことのおさらいと思えば少しは我慢できるが、やはり退屈だった。くあぁぁ〜っと欠伸してると、

―――ポト。

ん?何だこれ?後ろから丸めた小さな紙がオレの机に投げられた。勿論、こんな事を出来る人間は1人。遠坂だ。広げてみると、

『退屈そうね、藤村先生の授業で欠伸なんてしてると大変な目に遭うわよ』

ビリッ、サラサラ、くるくるっと。不自然に見えないように後ろへ同じモノを飛ばしてやった。中身は、

『全部分かるからつまんないんだよ('A`)』

ポト。また来た。

『ここって今日初めて習う所じゃない。貴方塾なんて行ってたっけ?ていうかこれ何?→('A`)』

サラサラ・・・ポイッ。

『前にも言ったけど、オレの居た世界じゃオレとっくに20歳越えてるんだよ。こんな所とっくに習ったよ。('A`)はだりぃって言う表現の顔文字、アスキーアートだよ。手書きだけど。PCでよく見るでしょ?』

ポト。

『あ、そうなんだ。それじゃあ確かに学園レベルの授業なんてつまらないでしょうね。PCって何よ?テレビの類?』

はぁ?パソコン知らないのか遠坂は・・・って、そう言えば電子機器は全般的にダメダメのアナクロ人間だったっけ、遠坂は。あ、そうだ。サラサラ・・・ポイッと。

『あ〜ゴメン、パソコンのこと。遠坂さんはパソコンとかの電子機器全然使えないんだったね〜。いや〜分かりにくくてゴメンゴメン』

「・・・っ」

後ろで息を飲む声が聞こえた。ちょっとからかい過ぎたかな・・・と思っていたら

ヒュ――ガツッ!・・・痛っ!

『電子機器くらい使えるわよ!・・・電子レンジとかビデオデッキの再生くらいなら』

・・・。サラサラ、ポイ。

『それは電子機器を使えるとは言わへん。てか、再生だけかい』

と、それを投げ終わった後―――



「い〜い度胸してるわね七枷く〜ん。先生の授業そんなにつまんない〜?」



タイガーに気付かれました。何か、青筋立てまくってて妙な迫力があるんですけど。

「じゃあ息抜きに七枷君、先生が授業の問題出してあげるわね。勿論英語で答えること。10秒以内に答えなかったら校庭20周ね。Where did king Arthur pull out the sword of the selection with a sword of the king in Disney movie?はい、カウントダウンスタート!10〜」

滑舌な本場物くさい英語で早口で問題文を仰ったタイガー。普通の学生なら何言ってるのかすら分からないだろう。現に、周りの生徒は皆「ご愁傷様・・・」と哀れみの目を向けてくれている。いや、一部「罰則キタ━(゚∀゚)━!!」って言いそうなにやけ笑い浮かべている黒いのがいた。後で吊すか?
まぁ、何とか聞き取れたから良いけどね。つまり、「ディズニー映画、王様の剣でアーサー王が選定の剣を抜いたのはどこか?」って言ったのだこの炊飯器メーカー先生は。てか、授業と関係ないやんと一応突っ込んでおこう。

「んっふっふっふ、9〜は〜」



「It's an open space before the church in the town of the martial arts meeting(訳:武術会のある町の教会前にある広場です)」

「・・・ち?」

敢えてこっちも本場っぽい発音で答えてやった。・・・しーんと場が静まりかえる。

「答えましたけど、どうすか?」


「せ・・・正解」


おぉ〜〜〜!!!歓声が沸き上がった。「すげぇ!七枷あんなに英語出来たっけ?」「藤村先生負かすイベントって滅多に無いんじゃない?」「ある意味英雄だよな、アイツ」「俺達は・・・刻の涙を垣間見た・・・っ!」
みんな大絶賛だった。あ、勿論黒いナマモノが「・・・ちっ」って発言しやがったのも聞き逃しませんでしたよ?やっぱ吊そう、アレ。

「う・・・ぐぐぐ・・・今度はもっと難しいわよ!絶対負かしてやるーー!」



―――5分後。


「That command is called a young lady kick and another name gangster kick.(訳:そのコマンドはお嬢様キック、別名ヤクザキックと呼ばれるものです)」

「せ・・・せ・・・正解〜・・・」

都合5分間で計15問の英会話で答える問題を、オレは全て答えきってやった。多分、この先生は一問でも間違えれば校庭20周を言い渡すだろうからな。オレも少し必死でした。
そして授業はいつの間にか静まって全員による七枷陣VS藤村大河の英会話聴講会となっていた。

「はい、次は?」

それがトドメになったっぽかった。


「う・・・うわーん!もう出せる問題が無いよ〜!生徒に負かされた〜〜!!」


ふ・・・勝った。この七枷陣が最も好きな事のひとつは、「お前にこの問題解けるわけねぇよな?」と決めつけてくる高慢ちきなヤツに「NO!」と言い切ってやる事だ!・・・なんてね。ちょっとやりすぎた。反省。

「あ〜元々オレが遊んでいたのが悪いんで、これから気をつけますから。そう気を落とさずに・・・」

「うぐ・・・グスグス・・・。ちゃんと授業聞いてくれる?」

「えぇ、ちゃんと聞きますから」

「うむ、なら良し」

けろり、と元に戻る虎。小学生かアンタは。

「じゃあ、教科書の続き行くよ〜。57ページの・・・」

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪

「あ、もうチャイムが鳴っちゃった。じゃ今日はここまで」


きりーつ!礼!着席―。


途端、ドッとクラスの連中が押し寄せてきた。

「おいおい、どうしちゃったんだよ七枷!お前今日おかしいぞ!良い方向で!」

「先週までそんなに英語得意じゃかったじゃない〜。ジョッカーに拉致られて改造手術でもしてきたの?」

うわ、タイガー言い負かしただけでこんなに人が来るか。ていうか、ジョッカーってノリダーかよ濃いなぁ。

「いや〜、藤村先生ヘコますなんてやるね〜七枷。ギアナ山中にでも行って修行してきたのか?」

こいつー!と、美綴が面白すぎって感じでバシバシ背中を叩いてくる。・・・って、ちょっっっっおまっっっい、痛い痛い痛ぐほっ!

「はあぁぁ・・・いいなぁ七枷君英会話上手で。私英語苦手だから尊敬しちゃうよ〜」

「由紀香が微妙に的外れな事を言っているが気にしないでくれ。ふむ・・・確かに昨日までの七の字とは別人のようだな。まぁ面白いモノを見させて頂いた事だし、何も詮索せずに感謝を述べるのが礼儀であろうな」

「ちぇー。ナナカッチの都合8kmマラソンがオジャンだよ〜。ブーブー、つまんね〜〜」

同じく祝福(?)を述べてくれる3人娘の2人。そして文句を垂れるナマモノ。あ、そうそう忘れるところだった。

「蒔寺さん」

「ん〜?何さ七かs―――」


―――――ガシ!ギリギリギリ・・・!!


「ぎゃあああああああああああああ!!!」

手のひらを最大限に広げ、健康的な日焼け顔を覆い尽くし、マシンアームの如く折り曲げ絡み付く。食い込み始めれば回避不可。後は望みのままに力を加えて彼の少女を料理する。
まだるっこしい表現で申し訳ないが、簡単に言えば、蒔寺にアイアンクローしてやった。はい、それだけです。

「さっき『・・・ちっ』とか『つまんねー』とか言ってくれやがってんな?蒔寺さん。ボクの心はブロークンファンタズムってやつですよ?」

ギリギリギリ。

「―――――だから締めるの。ムカツクから」

「あああ骨!骨に食い込んでますよーーー!?ゆ、由紀っち―!ヘルプ!ヘルプミー由紀っちいいい!」

「あ、あわわわわ・・・な、七枷君〜、蒔ちゃんが痛そうだよ。あのその・・・その辺でそろそろ止めてあげて欲しいなぁ」

う、そんな切なそうな顔せんといて。こう、罪悪感が・・・。と、そこへオレにとっての救世主が現れる。クールレディ、氷室鐘。その人だった。

「待ちたまえ由紀香。彼が悪意を持って蒔の字にアイアンクローをかけてると思っているのか?」

「ほえ?」

「いいか?由紀香も知っての通り蒔寺楓という人物は破天荒で思いこみが激しい。そんな性格だと後々損をするだろう?彼はそんな蒔寺を不憫に思って矯正してやろうと考えているのだよ。そのための愛の鞭。それを今実行しているだけだ。そうであろう、七枷?」

くるり、とオレの方を向いて三枝さんに見えないようにニヤリ、と冷笑を浮かべる氷室さん。


MAGI、検証に入りました。

バルタザール、メルキオール、カスパーのいずれもが無条件賛成を判断しています。

よし、承認。

了解です!


オレの脳内思考も全会一致でアイコンタクト受諾。オーケー、協力感謝する。

「・・・そうなの?七枷君?」

コクコク。頷きで返した。

「じゃあ、しょうがない・・・よね?頑張って〜、ファイト?蒔ちゃん」

「由紀香あああ!あたしはそんな純朴なお前が好きだが、今だけはちょっぴり汚れる事を許す!真に受けないでぇぇぇ!!て言うか覚えてろ鐘っぺ!後でペットショップの仔猫コーナーに強制連行してマタタビぶっかけて放置してやるからなー!」

「ほう・・・どうやら仕置きの程度が甘すぎるようだ。七枷、締め上げのレベルを3段階強化してくれ。相手は蒔の字だ、壊れはせんよ。私が許す。」

「アイ、マム」

ギリリリリィ!!

「ウッキャーーーーー!!!」


私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。

我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない(中略)

――――許しはここに。受肉した私が誓う


――――"この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)"



いや、それ言峰の台詞な?目の配色が似た者繋がりな気はするけど。

「好奇心で偶々聖書を読んでいた時に覚えた一節を適当に読み上げただけだ。他意はない」

ホントか?



みんながみんな、笑いの渦に包まれている。馬鹿笑いしているやつ、必死で笑いを堪えているやつ、うわぁ・・・といった感じで苦笑いしているやつ。でも、みんながみんな、楽しそうだった。実際楽しい。吊し上げられている蒔寺も、どことなく楽しそうだった。遠目に傍観していた遠坂も、みんなに悟られないように気を付けつつ笑いを堪えているようだった。
と、遠坂と目が合った。


―――――中々やるじゃない。面白かったわ。


―――――お褒めに預かり恐悦至極。なんてね。



そんな感じのアイコンタクトを交わし、オレ達はニヤリ、と不敵に・・・でも、とても楽しそうに笑ってやった。

ああ、なんて―――――なんて、楽しいんだろう。



―――願わくば、このひとときがずっと・・・ずっと、続いてくれますように・・・。


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