「こんばんは〜、鳳千さん。またお酒誘ってくれておおきに〜」
「おぉ七海殿いらっしゃい、待っておったよ。今日もいい酒取り揃えてあるよ。今日も葛木の御仁と遅くまで・・・お?今日は陣坊も一緒かい?久しぶりじゃの〜」
「ど・・・どうも、お久しぶりです鳳千さん」
すいません、(中身の)オレ初対面です。というかですね・・・熊?スキンでヘッドな超豪快な熊ですか?目の前のコレ。
「折角来て貰ったんだ、一成のヤツも呼ばないといかんなぁ。おーい、一成!!」
トットットットット・・・。スー・・・パン。
「なんだ親父?もう夜中だ、大声は他の修行僧にも迷惑であろう?・・・ん?七枷?なぜお主が家にいるのだ?」
「いやまぁ、オレは寝たかったんだけど、成り行きで」
「一成君こんばんは〜。今日もお邪魔します〜」
「おぉ、七海さん。どうもご無沙汰しております。今日も親父を飲み負かしにきましたか」
「生意気言うな小童、今度こそ儂が彼女に勝ってみせるわい!」
と、息巻いてるのはいいが、対戦相手の当の本人はと言うと・・・。
「?勝つとか負けるとか何の事言うてるん?今日も楽しく飲む『だけ』やないのん?」
「・・・親父、今まで勝負と認識すらされてないようなのだが」
「む・・・・・・うむぅ」
「?・・・??」
この按配だ。ある意味無視されてるのと同然の鳳千さんが少しヘコんでいる。哀れだ。
「失礼、所用が済みましたので約束通りこちらへ参りました」
と、葛木も入ってきた。
「おぉ、葛木殿。待っておったよ。お、今日はご婚約者の方もご一緒ですか?」
―――まぁ、予想はしてましたけどね。これ以上驚いていたらホントに身が持たないし。葛木の後ろから、どっかで見たセーター他色々な出で立ち。青く長い髪の毛など、目を奪われる美しさ。キャスターこと、本名メディアが姿を―――
「こんばんは、皆さん。宗一郎様が酒宴を催すと仰いましたので、その晩酌に参加させて頂きま―――」
表した途端、キャスターがある一点を見つめたまま固まっていた。
えっと・・・。その・・・。何で母さんの方をずっと見たまんまなんでしょうか?
『Fate/The impossible world』
Interlude
現在時刻、午後19時30分。場所、柳洞寺住職、柳洞鳳千氏私室。広さ、約15畳。
収容可能予測人数、最大で8名程度。現在この部屋にいる人物、柳洞一成、柳洞鳳千、葛木宗一郎様、私、そして名称不明の男女2名。外的容姿から兄妹と推測。的中確率、90%オーバー。容姿の正確な情報収集開始。男性は容姿レベル高め、母性本能も多少くすぐるものもあり、及第点。但し、宗一郎様と比較すればランクは断然低い。女性の方は―――――。
あり得ない。
短くて整った艶やかなのにふわふわした黒髪、凹凸は無いけれど、決して貧相と呼ぶには相応しくない愛らしいスタイル。全体を総合的にバランス良くに引き立てるためにある低めの身長。あぁ、この子に私秘蔵のホワイトシリーズ40作品を全て取っ替え引っ替え着せて、更に白色のネコ耳付けさせたら、それなんて固有結界?って感じでもう・・・もう!おおおお持ち帰qあwせdrftgyふじこlp。
はぁ・・・はぁ・・・。とにかく、彼女は私がまだ堕ちる前・・・皆に愛されていたあの頃に思い描いていた全てを持っていた。
そう、敢えて言うなら、彼女は私の
もう届かぬ理想像
(
アルカディア
)
なのだ。
こんなチャンス、世界と契約した
輪廻の輪
(
ろうごく
)
の中でも数少ない。絶対逃がす物か。
差し当たっては、彼女の名前を聞かねばならない。時間は限られている。アサシンは既に召還して山門にくくりつけたし、新都に張った魔力搾取も念には念をで、最初に想定していた量より下げて、超微量にしてバレないようにした。聖杯戦争の準備はほぼ終えているから猶予はあるが幾ばくもない。早急に、且つ誰にも悟られないように行わなければならない。
更なる情報を収集後、また報告を行う。
2004年1月26日、M
出典:英霊の座に保管された、とある反英霊の記録の一節より。
Interlude out
じーっと母さんを見つめ続けるキャスター。なんかバックに「萌え〜♪」と、どでかく出て来そうだ。
「・・・どうしたキャスター?」
「ひゃ、ひゃい!?い、いえ・・・失礼しました。私、宗一郎様の婚約者でキャスターと申します。お見知りおきを」
「ど・・・どうも。七枷陣です。よろしく」
「こんばんは〜、七枷七海です〜。葛木センセの婚約者さんですか〜。ええですね〜こう、初々しくて♪」
「そ、そうでしょうか?七海ちゃんこそ、素敵なお兄さんがいるじゃないですか」
・・・はい?おいおいまさか・・・キャスターは母さんの事、オレの妹だと勘違いしてないか?・・・いや、気持ちは分かりますけどね?
「?うちのお兄ちゃんって誰です?うち一人っ子やし」
きょとん、と受け答える母さんと、これまたきょとん、とその答えを聞くキャスター。
「え?その、陣君がお兄さんじゃなんでしょう?同じ名字だし」
勘違いしたままならその問いは当然だった。まぁ、ちゃんと答えたらキャスターもすぐに納得するだろう。
「えーとですね、キャスターさん・・・」
「えぇ、何かしら陣君。この子貴方の―――」
「親です」
――――――――――。キャスターは何を言っているのかワカリマセン、といった感じの顔をなさっていた。
「えっと・・・陣君。この子貴方のいも」
「親です」
「・・・・・・。冗談、よね?」
もう、何言ってるのこの子は?ってな表情のキャスターは、
「ホンマやで?」
と、母さんの一言で瓦解した。周りのみんなを見回しても、一成も鳳千さんもコクコク、と頭を上下するのみ。
「事実だ、キャスター。彼女は七枷陣の母親だ。授業参観にも三者面談にも来たことがある。いずれも私が担任として担当した」
淡々とした葛木の答えにダウン寸前になり、
「あ、それと母さんの年齢30ピー歳なので」
かくん。オレの耳打ちでKOした。
「あり得ないわ・・・30・・・ピー歳?それであの可愛さ?―――εμο。・・・魔術回路は・・・2・・・本?くらいあるけど、使用してないどころか解放すらされてないようだし、神秘に少し敏感なだけの一般人同然・・・の筈。じゃああの若さも可愛さも天然・・・だというの?・・・ブツブツ」
じーっと母さんを見たて何か分からない言語を呟いたかと思うと、何やら独り言を始めてしまった。というかですね、何やら聞き捨てならない一文があったのはオレの気のせいでしょうか・・・!?
「ま、まぁキャスターさんが驚くのも無理は無いでしょう。オレも七枷の事を知らねば当然妹かと思いますし」
「がっはっは、修行が足りんわ一成。人の人に対する思いを敏感に察知することが説法の極意よ。そのような体たらくでは、まだまだ青いわ。さあ、では飲もう皆の衆!」
酒盛りを始めだした大人達。オレ達は未成年(オレは違うけど)だから飲むわけにも行かず、適当に炭酸ジュースとさきイカ等のおつまみを貪っていた。
「しかし、向こうは凄い勢いだな、一成の親父さん一升瓶一気飲みかよ・・・」
「現実逃避するな七枷。七海さんの飲み方を見ろ。大ジョッキに数種類の吟醸をちゃんぽんにしてゴクゴクと行っているではないか。しかも急ピッチで。地味ではあるが、クイッ・・・トクトク・・・クイッ・・・トクトクといった大量生産機械の様相は、ある意味尤も恐ろしいと思うぞ。宗兄やキャスターさんは自分のペースで静かに飲んでいるようだが」
「言うな、アレは人としての範疇を越えてしまっている」
「んく・・・んく・・・ぷは〜♪やっぱ吟醸はええね〜。ちゃんぽんするのも久しぶりや〜」
頼む、これ以上喋るなナマモノ。それにアンタいつもちゃんぽんして飲んでるじゃねーか。
「アレは無視しよう。しかし暇だな・・・」
「ふむ、将棋でもするか?」
「いいね、やろっか」
――――30分後。
「ん・・・これで王手だ七枷」
「ぎにゃー!」
20戦、0勝20敗。10戦目からは一成に飛車・角を外してハンデつけて貰ったのにこの体たらくだった。言わせて貰えば、一成の打ち手はえげつない。桂馬取ったらいつの間にか銀に討ち取られる。で、そんな展開が続いて気付いたらはい、詰み。
「もうお前とは将棋やらね・・・」
「はは、まぁ親父殿に付き合わされているからな。経験の差というやつだ」
ちきしょう。・・・って、そう言えば母さん達まだ飲んでるのかな。くるりと向こうを向いてみると―――
「はぁぁぁ☆この新酒メーカーさんの『八点衝』と『迷獄沙門』、それに『極死・七夜』。どれも美味しいわ〜。鳳千さん、コレどこで手に入れたん?うちも一本買っときたいねんけど」
「―――――」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。多分母さんに負けじと飲みまくって限度を越したのだろう。キャスターは多少顔が赤いが、葛木は平然としている。あまり飲まなかったのだろう。後その新酒のメーカーさんって、裏では魔の暗殺家業とかしてないですよね?
「鳳千さん?・・・もう、また酔い潰れてる〜。誰やのん、鳳千さんに無理矢理飲ませたん」
いや、自業自得なんだけど、間接的にアンタのせいですよ?
「宗一郎様ぁ〜・・・メディアは、メディアは不幸なんですぅぅ。う゛わ〜ん・・・」
「・・・そうか」
「あのアフロディーテのクソ女神のお陰で、花も恥じらう私の青春みぃ〜んなオジャンなんでふよ!聞いてまふか!?宗一郎様!」
「・・・あぁ」
「宗一郎様は、メディアの味方ですよね?信じても、良いんですよね?」
「・・・・・・あぁ」
「えへ〜、宗一郎様好き〜♪」
―――うわ、キャスター酒癖悪っ。それと一般人いるのに真名晒してるぞおい。
時計を見ると、もうすぐ21時になる所だった。
「母さん、もう結構夜遅いしそろそろ帰らへん?」
「え〜つまらんな〜」
「いや、オレ明日学校」
「むぅ〜、しゃーないか。一成君〜、うちらそろそろお暇しますね〜」
「あぁ、はい。後の処理は任せてください。親父も放置して問題ないでしょう」
「あ、また鳳千さんに新酒メーカーさんのお酒どこで手に入れたか教えて貰ってくれます?陣に伝えてくれたらええんで」
「えぇ、承りました。あ、帰りの車を出しますのでそれでお帰りください」
「何から何までおおきにな〜♪」
「あ、一成オレは歩きで帰るよ。母さんだけ車乗せてって」
「え〜?陣一緒に帰らへんの?」
「まったりしながら帰りたいの」
「・・・つまらんなぁ」
「そうか、ではまた明日会おう。七枷」
「ん、また明日」
夜の街を闊歩する。空には月が照らし出され、良い感じで周りはうっすらと明るい。あぁ、今夜はこんなにも、月が綺麗だ・・・ってやつか。
まぁ、これでクソ寒い冬じゃなければ最高なんだろうけど。
ふぅ・・・と、月から目を離して、我が家に通じるなだらかな登り坂を視界に移し―――
―――――そこに、銀と紫の妖精が佇んでいた。
あ――――――れ、は―――――
―――――妖精は、こちらに気付いていないかのように悠然と歩みを進め近付いてくる。
―――イリヤ―――スフィール。
まだ聖杯戦争は始まっていない。問題ない、バーサーカーを連れてる気配もない。もしいれば、霊体化しててもオレはきっと恐怖で狂ってしまうだろうから。何の興味もないフリをしてすれ違うだけ。それだけだ。簡単だ。失敗なんてするはずない。
カツカツカツカツ。
コツコツコツコツ。
申し合わせたかのように同じタイミングで静寂の街に靴の音が響く。
カツカツカツカツ。
コツコツコツコツ。
3メートル・・・2メートル・・・1メートル・・・。そして何事もなくオレ達は、目の前に誰もいないかのようにすれ違
―――早く『帰らないと』死ぬわよ、貴方。
刹那、鈴の音のような可愛らしいのに何処までも冷たい・・・底冷えする声。あの時聞いた遠坂と同じ、魔術師の声。バッと振り返る。でも、誰もいなかった。
言い様のない寒気が身を包む。それが恐怖になり、狂気に昇華するのに時間は掛からなかった。
「あ―――あ、ああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
走った。脱兎の如く疾走した。いや、その様は手負いの獣みたいな醜い遁走。幸いにも、家は直ぐ近くだった。母さんはもう戻って眠っているっぽい。家に入り、玄関の鍵を閉め、すぐさま自分の部屋に戻って布団を被った。震えた。震えて何もせずに死を待つ病人のように蹲った。
早く帰らないと死ぬ。・・・帰る?どこに?この家に?そんな意味じゃない。じゃあどういう意味?決まっている。『元の世界に』帰れと言ったんだ。イリヤは。
何故?どうしてオレがこの世界の住人じゃないと?聖杯として何か感じたのだろうか?あの声は、異物が入ったことに対する嫌悪感のような響きを受けた。確かに異物だろう。オレは本来ここに居るはずのない存在なんだから。
「―――オレだって、帰れるもんならとっくに帰ってる」
そうして、オレは疲労がぶり返してきて意識のスイッチをオフにした。