ハッハッハッハッハ・・・・・・っ!ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。バゼットから逃げ、視界から消えてようやく足を止めた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。―――なんで、こんな事に」
改めて考える。あの時のオレはどうかしていた。一時の感情に身を任せて、自分から運命をねじ曲げる行為に及んだ。結果はどうなるか分からない。やはりバゼットは言峰の闇討ちを防げずに脱落するかもしれない。きっと、その公算は高い。でも、オレは忠告してしまった。確率を揺さぶって、分散させてしまった。それは紛れもない事実。
オレの知るFateの史実には、きっともう、辿り着くことはないのだろうと直感した。
それは、即ち―――
―――――終わり。
そう、終わり。終わる、終われば、終わるとき、終わろう、終わるなら。そんな強迫観念がオレを苛んだ。終わるという事・・・つまり、死ぬという事。
死ぬ・・・死ぬ・・・死んじゃう、死んでまう死んだのか死のう死ねば死のうよ死にやがれ死ねよ死なないの死にさらせ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死に尽くせ!!!
「どうしよう―――」
もう、引き返せない。賽は投げられた。水面に一石投じてしまった。だから後は結果を待つしかない。それが例え、オレの死であろうとも。待つしか―――ない。
ふと右手に、さっきバゼットに奢って貰った肉まんを持っていた事を思い出した。
あの出会いがなかったら、若しくはオレが出しゃばらなければ、運命をねじ曲げないで済んだかも知れない。たら、ればのIF。下らない水掛け論だった。
「―――――っ!!」
怒りに身を任せ、オレは持っていた残り半分になっていた肉まんを地面へ叩き付け―――
「―――――」
られなかった。肉まんに罪はない。嫌な事を思い出すからさっさと食べてしまおう。そう思った。
はむっ。・・・もぐもぐもぐ。
「―――不味い」
とっくの昔に肉まんは冷め切っていた。だからだ。だから―――
―――――だから、オレは不味さに泣いているのだ。
「・・・冷たい・・・グスッ・・・しょっぱい・・・グスッ・・・不味い」
肉まんに涙がブレンドされて、更にしょっぱくなった。不味さに拍車が掛かった。
「不味い・・・不味いねん、こんな肉まん。グスッ・・・不味い・・・ねん。う・・・ぐ、うぅ・・・」
でもオレは、ひたすらもそもそと肉まんにかぶりついた。しょっぱいけど―――冷たいけど―――勿論不味いけど―――
オレの生涯で、これほどまで心が暖かくなる肉まんは、これが初めてで―――きっと、これが最後の肉まんなのだろう。そう思った。
それが、どうしようもなく嬉しくて、悲しくて、楽しくて、辛くて――――どうしようもなく、美味しかった。
『Fate/The impossible world』
2月2日(月)。
チュン・・・チュン・・・チュン。チチチチ・・・♪
朝が来た。日曜日は何処にも行かずに、ひたすら泣いていた気がする。女々しい。思い出すと顔から火が出そうだ。それどこの失恋した乙女?って感じだ。それももう終わり。なら、後は謳歌しよう。オレの、生を。
今日の勉強道具と、後いつも入れてるマジックのデッキとサイドボード群を入れて・・・と。準備完了。
「はよー母さん!」
「あ、おはよー陣。どないしたん今日はハイテンションやね〜」
「ん、まぁたまにはそんな日もあるんじゃないの?ビバ都会〜(σ・∀・)σイェイ♪ってな感じで」
「・・・ゲッツ寒っ。・・・3点やね。100点中」
こ・・・このクソ女・・・。
「まぁ元気あるのはええ事やけどね。・・・ほい、今日のおべんとー。今日はサイコロステーキとトンカツやで〜」
「珍しいね、肉多めなの」
「ん〜なんやの?何となくステーキとカツで『敵に勝つ!』みたいな気合い入れた物入れたいテンションやったんよ」
「―――――」
「ん?陣どないしたん?」
「え?あ、あぁいや別に。ま、美味そうやから期待しとくわ」
気付くわけもないのに、凄い偶然もあったものだ。心の中で母さんにありがとう、と言っておいた。
「あ・・・っと、そろそろ時間や。んじゃ母さん、弁当ありがとうな〜」
ホンマに・・・ありがとうな。
「はいは〜い、気ぃつけてな〜」
バタン。
陣が家を出た直後、七海は気付く。
「あ、そう言えば陣―――」
それは、中々お目にかかれない違和感。それに気付いた。
「―――"行ってきます"言わんかったな」
不審に思いはしたが―――
「挨拶くらい言わんと大きぃなれんでホンマに〜」
が、そこまで。陣の持つ違和感を感じ取れただけでもたいした物なのだ。これ以上を望むのは、正直言って彼女にとって酷な話なのだ―――。
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪
「連絡事項は以上だ。では今日はここまで。日直、礼を」
きりーつ、礼!・・・さようなら〜!
「・・・・・・」
終わってみれば、何か拍子抜けだった。昼休みに弁当を全部平らげてさぁいっちょこーいって感じだったけど、いつも通りの授業、いつも通りの学校だった。
「・・・ま、良いか」
起こらないのならそれに越した事はない。そろそろ家に帰るかな。
・・・と、校舎を出て校庭の隅に目をやると、衛宮と何か青いウェーブ入った・・・ワカメ?臭い髪の男が話をしている。即誰か分かった。間桐慎二だ。どうでもいい取り巻きの女の子も何人かいる。
「僕は今忙しいからさ、衛宮が道場の片付けやっておいてよ」
「え〜、間桐先輩それ先輩が藤村先生に頼まれたんじゃありません?まずくないですかぁ?」
「でもさ、道場の片付けなんてやってたら日が暮れて店閉まっちゃうぜ?」
「あぁ良いよ慎二、片付け引き受けるからさ。行って来なよ」
「あ、ホントに?助かるよ衛宮〜。やっぱ持つべき物は友達ってね」
ニヤニヤしながら嘲笑混じりに感謝する慎二。PCの前では「ヘタレ慎二タン萌え〜」とか思ったりしたけど、実際見てみるとムカツク事この上ない笑いだ。オラオラしてやりたい気分。
「じゃあ行こうかみんな!今日は僕が全部奢っちゃうよ〜」
「「「「は〜い♪衛宮先輩、失礼しま〜す」」」」
「あぁ、楽しんで来てね」
「当然さ、僕がいるんだ楽しくないわけ無いだろ?じゃ、行こうぜ」
「でもさでもさ、普通部員全員でも1時間は掛かる片付けを1人でやろうとする?キモ〜イ」
「さきっぺ、言い過ぎ。それにほら、聞こえちゃうよ」
「ははは、良いんだよ。アイツは人に無償でご奉仕するのが大好きなんだよ」
「え〜信じらんな〜い。ぶっちゃけありえな〜い、キャハハハハ」
「・・・ふぅ」
なんでそこで「・・・ふぅ」の一言なんだよおまいは。あそこまで言われたら、オレなら女だろうとアイアンクローかまして道場の壁に叩きつけてるぞ絶対。・・・あぁもう!部員何人いるか知らんし、ちんたらやってるから1時間なんだろうけど、たった1人で必死にやっても何時間かかるんだよおい!
ドスドスドス!ムカついているので足音が荒くなるけど無視した。ズカズカと弓道場へ入っていく。
「・・・あ、あれ?七枷?なんで弓道場に―――」
「衛宮!」
ビシ!っと、指を突き立ててやった。
「お・・・おう?」
「なんでムカつかんわけ!?」
「・・・って、な、何がさ?」
「さっきのやり取りに決まってるやろが!ん!?」
ぐい!と、両手で襟元を掴んで持ち上げる。
「な・・・七枷、ちょっと待った。け、頸動脈締め・・・締めて!ギブギブ!!」
うるさい黙れ。知るか。
「さっきのクソブサイクに、『おどれ掃除さぼって遊びに行く分際でキモイ?死ねクソ豚!!』・・・ってなくらいメンチ切って無駄無駄ラッシュ叩っ込むくらいの気概がおまいには無いんか!!あぁ!?てか何でオレが怒らなあかんねんホンマ!」
バッ。と、襟元を離してやる。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ!な、七枷・・・」
「―――何やねん?」
ちったぁアイツらにムカツキましたって思ったんk―――
「―――女の子にそんな言葉を使ったり殴ったりするのは、良くないと思うぞ」
ぷちん♪
はいキタ━(゚∀゚)━!!来ますたー!滅多に完璧なマジ切れなんてしないオレが、パー壁に怒り心頭になって、めっさキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n'∀')η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!
「・・・掃除用具」
「―――へ?」
「掃除用具入れどこやねん!教えんかい、殺すど!!」
「は、はい!こっちです!」
用具入れからモップと水切りバケツをふんだくって、バケツに水入れてモップを浸し、水を切って道場をモップ掛けしていく。
「お、おい七枷!ここは弓道部の道場なんだぞ?部外者が掃除なんてしなくて―――」
「あ゛ぁ!?」
「・・・ナンデモゴザイマセン」
「・・・ちんたらしてる暇があるんだったら、お前も掃除すれば。オレはオレで勝手にやるから」
「あ・・・。お、おう、分かった」
ゴシゴシ。トットットットットット・・・。衛宮に何処をモップ掛けすれば良いか指示を貰いつつ、掃除を進めていく。
半ば終わった頃に、オレは言ってやった。
「ほら、もうすぐ掃除も終わるぜ。1人だったら、まだ4分の1も出来て無いっしょ?」
「あ、あぁ・・・。まぁそうなんだけど」
「何もかも1人で抱えて塞ぎ込んでも、時間掛かるだけで良い事無いし、2人しかいないけど、3人4人と増えればさ、何だって出来るんだ。」
「・・・・・・」
「1人より2人、2人より3人、3人より4人っていう考えで行けばさ、きっともっと早くお前の目指してる目標に辿り着く事、出来るんじゃないの?」
「!!」
「意固地になるのは分かる。1人でみんな救えたなら、そりゃ最高だろうさ。でも、そんな事出来ない。出来ないのに無理矢理やって、最後はみんな救えない。・・・もしかして、わざと救いたくなくて1人でがむしゃらにやってんの?」
「な!そんなわけあるか!!オレは、みんなを救える正義の味方に―――」
「なりたいねんな?みんなの事を思って、なりたいって思ってんよな?」
「当たり前d「嘘やね」!?」
悪い、衛宮。オレは知っててお前の傷口を開く。言峰と同じ最低の行為をする。すまん。
「じゃあなんで1人に固執するん?みんなの為を思ってんよな?1人っていう定義は誰の為?・・・みんなの為か?答えてみぃ」
「それ・・・・・・は」
「答えられんか?それとも答えたくないんか?オレは後者や思うけどな。じゃ代わりに言うたるわ、『自分の自己満足の為』やろ」
「っ!!」
「目指すのはええねん、1人で全部救うって目指すのは。でも実行すればいずれ破綻する。割りを食うやつが出る。そこから怨嗟が始まる。そして全て、自分に返ってくる」
「七・・・枷」
「だから、せめて。みんなを思うのなら自己満足に固執しないで譲歩して欲しい。手を抜くんじゃなく、複数で、みんなで正義の味方を目指そうって思えるようになって欲しい。それがきっと、一番みんなを救える正義になるんだと思うから」
「・・・・・・」
呆然と、衛宮はその言葉を受け止めていた。さて、ケジメをつけないとな。
「衛宮」
「あ・・・あぁ、何?」
「オレを殴れ」
「―――――はい?」
「悪意は無いつもりでも、オレはお前の心の傷を抉った。血まみれにしたから、そのケジメ。気が済むまで殴ってくれ」
ん・・・と、衛宮の前に顔を出す。
「い・・・いやいやいや!止めてくれよ七枷!オレはお前を殴る気なんてないぞ!?」
「いや、だからケジメを―――」
「要らない要らない!ケジメなんて要らないから!怒ってもないから構わない!」
「そか・・・悪い」
「しかし、そんな正義の目指し方もあるんだな・・・う〜ん」
「いや、その、直ぐに変えられるとは思ってないからさ、少しずつで良いから見つめ直して欲しいなぁ・・・という事であってですね?」
「いや、七枷の言う事も一理あるぞ。・・・うん、オレも正義の味方についてすこし考え直してみる。あ、勿論諦める気は無いぞ」
「ん・・・そか。あ、掃除再開しないとな」
「おう、ちゃちゃっと片付けようぜ」
それから暫くして、掃除はもう終わった。衛宮は「弦の張り直しもするから」と、弓道場に残ってしまった。流石に、弓道のきゅの字も知らないオレにはお手上げなので別れる事にした。
「他人にもやれる事は分担して、自分にしかできない事を頑張ればいい。ほら、その方がもっと楽で効率もいいやん」
と言う捨て台詞を残して(衛宮は苦笑いしていたが)、オレは学校を出る事に―――って、あれ?
何か忘れてるような―――ゴソゴソ。
あ゛!マジックのデッキ、教室に忘れてしまった!
「―――あったあった。」
偶に忘れるんだよな。さて、遅くなってきたしそろそろ帰ると―――
―――キィン。
―――アレ?
視界の隅で、何かが、光った。カメラのフラッシュみたいな光が。校庭の方角から。
―――ガキン。
―――コノ光景ッテ、マサカ。
そっと、視線を窓際へ移す。そこには―――
―――キキキキィン!
―――ソコニハ
そこには―――
ソコニハ―――
無限の殺劇が、繰り広げられていた
無限ノ殺劇ガ、繰リ広ゲラレテイタ
見る物を魅了するその円舞。青い男によって、一撃一殺の信念で繰り出される赤い魔槍。それを、白と黒の肉厚な剣を振るう赤い男が捌く。捌く、捌く、捌く、捌く、捌く、捌く、捌く、捌く、捌く、捌く。
ごくり、と唾を飲み込んだ。演奏の最中に失礼ではあったが勘弁して欲しい。校庭とこの教室からは何メートルも離れているが、それでもなおその演奏は美しかった。
じゃあ、間近で見る事が出来たらどうだろう?きっと、演奏が終わっても、スタンディングオーベーションでアンコールを連呼するだろう。いや、する。
ふと、気付けば青い男が後ろを振り向いた。その視線の先に小さい人影―――衛宮?
あ、ここで青い男が衛宮を突き殺しかけるのか。ふーん。
・・・。
・・・・・・。
あ!
てことは、ここは非常に不味い場所になるのではないか!?衛宮がどこで刺し殺されるか知らないけど、ここにいた事がバレでもしたら、オレも始末―――
―――衛宮を追っている筈の槍兵の視線が―――
され―――――る。
―――何故か、オレと重なったような気がした。
見つかった!?まさか、あそこから教室まで何十メートルあると思っている!分かるわけ・・・いや、あり得るかも知れない。相手は英霊だ。やばい・・・やばい・・・やばい!!
どうする、隠れるか?いや、そんなの愚行も良いところだ!最初にここは調べられる。そこで発見されて死亡だ。じゃあ直ぐに移動するか?その方がまだマシか?今は衛宮に集中しているはずだ。あまり足音を立てなければ何とか・・・!
廊下に躍り出て、衛宮が来た方角と逆方向に走る。階段まで来たら、話し声か何かを聞き分けて階数を予想。それから足音を立てずに外へ―――!
「―――――よう」
―――トンッ。
階段に差し掛かろうとした時、何かに押されて階段を通りすぎ、廊下の奥に吹き飛んだ。いや、アイツなりに手加減してくれたんだろうが、結構痛い。
「い・・・つぅぁ・・・・・・げふっ」
「あぁ、わりぃな。それなりに手加減したんだが。怪我はねぇか?少年」
軽く悪ふざけしたような、そんな何でもないような口調で、目の前の槍兵はオレに問う。
分かっていた・・・分かってはいた。分かってはいたが・・・キツイ。当たり前だ。誰だって目を逸らしたい。
―――閻魔が「地獄行き」と、その判を下す瞬間など、誰だろうと。
「因果なものだな全く・・・。気に入ったヤツはみんな殺す側に回っちまうってのはよ。オレに与えられた運命か、はたまた偶機のオンパレードなのか。後者ならつくづく運がねぇって事だな。笑っちまうぜ。なぁ少年?っと、返せる訳ねぇk―――」
「―――――そうかも・・・・・・ですね」
オレが返事を返せたのに、少なからずランサーは驚いたようだ。
「―――ハ、こんな状況下でよくもまぁ肝が据わってる事だ。益々殺すのが忍びねぇな」
「けど―――見逃す事は―――出来――ない。でしょ?・・・げふっ」
と、その言葉にランサーの空気が一変した。
「・・・その通りだ少年。今回はタイミングが悪かった。最低すぎだったんだよ、直ぐに家に帰っていれば、こんな事にはならなかったろうに」
すちゃ・・・と、その愛槍を構える。・・・ごめん、母さん。折角敵に勝つって弁当作ってくれたけど、ダメだった。オレ、ここで死ぬわ。
ごめん、母さん。・・・と、その呟きが聞こえたのか、ランサーがまた苦い表情をする。
「・・・・・・七海姐さんの事を考えても、お前をここで殺すのは本当に忍びねぇ。あの人は本当に良い女だ。誰であろうと勿体ないくらいにな。―――だが、これはこちら側の掟でな。神秘を秘匿する為には、例え誰であろうと始末しなきゃならねぇ。わりぃが、諦めてくれ」
そんなの知るか!と言いたいが、どうしようもない。もう結果が分かっているんだ。どうしようもない。本当に・・・どうしようも。
「せめてもの情けだ。可能な限り細胞を傷付けずに、綺麗な身体のまま殺してやる。それが、バゼットを助けてくれたお前に、オレがしてやれる最大限の手向けだ」
そうか、バゼット助かったんだ。まだ救いがあるかな・・・。
「刺し穿つ―――――」
大気が震える。空気が凍結する。走り出したいのに動けない。例え動いても回避出来ない。だって、アレは―――
「―――――死棘の槍」
どう避けようと問答無用で殺す、必中の宝具なのだから。
でも―――やっぱりオレ、死にたくなんてな―――――
くちゅり。
「あ―――――ハ」
息が、吸えない。視界が―――ぼやける。涙が―――溢れてくる。
流れる涙が零れ落ち、オレの心臓を貫いてる真紅の魔槍にパタリ、パタリと打ち付ける。まるで、
「抜いて!お願い抜いて!抜いて下さい!!痛いんだ!!もの凄く痛いんだ!!!抜いてよぉぉぉ!!!!うわああああああ!!!!」
と、最後の抵抗としてオレの代わりに代弁し、悲鳴を上げているように思えた。オレは他人事のようにそれを見ている。・・・滑稽だった。抜いても、もう戻らない。死ぬだけなのに、懇願する。つくづく生き汚いんだな、オレは。
「これで終いだ。じゃあな、恨むんならこの場に居合わせてしまった自分を少し―――」
ぞぷり。
と、ゲイボルクを抜いた。初めから穴があったかのようなオレの心臓から、とくとくトクトク溶く溶く融く融くと、血が流れていく。
「―――そして、後の全てをもってオレを恨め。それくらい背負ってやる。英霊の座に戻ろうとも、未来永劫・・・背負ってやるよ」
ゆっくりと、最後の力を振り絞って、天井を仰ぐ。それは、アイツなりの救いの方法だったのだろうか。確かめる術はもう無い。だって、オレは―――七枷陣は―――
今日、この袋小路のような廊下の奥で、静かに息を引き取るのだから。
月明かりが雲によって徐々に遮られる。今まさに灯火を消す彼を、霊安室の白い布のように闇が覆い被さって行く。尤も、白ではなく黒の布だという事実は、何とも皮肉であった・・・。