また・・・またなのか?また、あの感触を、味わえと?あの痛みを、味わえと?狂うほど吐いて泣き叫んで、精神も肉体も摩耗して、それでようやく忘れることが出来たのに・・・。

「まぁ、迷い出ちまったもんはしょうがねぇか。悪いが少年、もう一度その心臓を貰い受けるぞ」

捨て鉢に、溜め息混じりに、かったるそうに再度の死刑宣告をするランサー。

「じゃ―――そのまま動かねぇでく「―――やだ」・・・あん?」

もう、嫌だ。厭だ・・・イヤだぁ・・・っ!あんな痛み、もう知りたくない!受けたくない!!折角生き返ったのに・・・それなのに!もう・・・あんな暗くて冷たい場所に戻りたくない!!絶対、イヤだ!!!

「―――なまじ生き返ったから、死の恐怖を覚えちまいやがったか。いや、それは正しい反応だ少年」

ひとりごちり、ランサーは無情に告げる。


「だが、また受けて貰う。その恐怖を―――もう一度な」


槍を下方向に構える。大気が震え、空気が凍る。ついさっき見たばかりのアレを、またやろうとしている。あの、必殺必中の宝具を。

「もう迷い出るなよ少年。今度こそ、これで最後にしてくれ。頼むから・・・これ以上オレにお前を殺させてくれるな」

やだ・・・やだ・・・。



刺し穿つ(ゲイ)―――――」



止め、やめて・・・ヤメテクレ



「―――――死棘の(ボル)



誰でも良い・・・誰か・・・誰か助け―――



「やああああああああ!!!!」


その真名を解放しようとした刹那、奇跡は起きてくれた。蒼い疾走と共に繰り出される見えない斬撃。ランサーは紙一重で真名解放をキャンセルし飛び退いた。

「ちっ!てめぇ・・・セイバー!」


「罪も無き一般人を殺害しようとしますか。・・・しかも己が誇りでもある宝具で。アルスターの御子も地に堕ちたな、ランサー」


月明かりの中現れた、銀の甲冑と蒼いドレスの所有者の、その姿は―――



只、無情で―――際限なく凛々しくて―――



その・・・目を奪われるくらい、可愛かった。







『Fate/The impossible world』





「・・・てめぇ、言いたい放題言ってくれるじゃねぇか。これはオレなりの礼儀だ、てめぇの物差しで測って決めつけるんじゃねぇよ」

フッ、とセイバーが嘲り、

「大した礼儀だな、貴様の持つ礼儀などその程度の愚物だと言うことだ」


「・・・ほう、良く言ったセイバー。少年の前に今度こそ貴様の心臓、貰い受けてやろうか?」


―――スチャッ。


「それはこちらの台詞だ。一度完全に(・・・)避けられ、しかも一般人にも使おうとする堕落した宝具など、取るに足らない」


―――ジャキッ。


「ハ―――その喧嘩、買った。死ねや貴様

一触即発。次の瞬間、2体のサーヴァントは互いを殺害せしめんとぶつか―――


「アーチャー、セイバーを援護して!」

「承った」

ヒュヒュヒュヒュ!

「ちぃ!」

―――る前に、矢の洗礼で遮られた。眉間へと正確に射出されたその4本は、何故かその殆どが軌道を逸らし、命中することが無かった。

「何あれ・・・?まさか、矢除けの加護!?」

ちっ!と遠坂が舌打ちする。アーチャーではランサーを遠距離で打倒するのは難しいと考えているんだろう。


「・・・アーチャーと嬢ちゃんも一緒か。お前ら、手を組みやがったのか」

「答える義務は無い、貴様はここで倒れるのだから」

「へっ、そうは行くか。だが2対1じゃ流石に分が悪すぎる・・・か。仕切り直しだ、離脱させて貰う」

と、ランサーが何やらヘンな文字を地面に書き記した瞬間、車のハイビーム以上の眩しい光が辺り一面に広がる。

「くっ!目眩ましのルーンか!待てランサー、臆したか!?」

「ちゃんと戦ってやるよ、1対1の時にな。その首、洗って待っておけ」

光が消えたとき、ランサーはもう何処にもいなかった。


た・・・助かった・・・のか?がくり、と地面にへたり込んでしまった。


「ふぅ・・・。怪我はありませんでしたか?・・・ナナカセ?で・・・合っていますよね?」

「は・・・はぁ。そうですけども」

何でセイバーがオレの名前を・・・。いや、どうでも良いけどその響き、『7貸せ』って聞こえるんですが・・・。

「おーい!七枷、大丈夫か!?怪我はないか!?」

衛宮が駆けて来た。あ、そうか、コイツがセイバーにオレを助けるように言ったんだなきっと。

「あ・・・あぁ、まぁ怪我は無いけど」

「っておい、嘘付け!左胸に孔が空いてるじゃないか!び、病院いや救急車だ!」

「や、もちつけ。この孔は別に何とも・・・あったけど、今は何でもないから落ち着け」

「そ、そうか。お前がそう言うんなら・・・って、と、遠坂?」

ずいっと、衛宮の横を通り過ぎ、へたり込んでいたオレの目の前に―――




あかいアカイ大魔神様が笑顔の仮面を着けて登場しました。




Interlude

士郎の家でセイバーと対峙したときには驚いた。セイバーに斬りかかられかけたけど、士郎が令呪を使ってくれたお陰で、私もアーチャーも助かった。何も知らないようなので、令呪の借りもあるし聖杯戦争の概要を教えて、ついでに綺礼の所に連れて行って事情も話し、士郎は聖杯戦争に参加した。アイツお得意の心の傷抉りは被ったけど、何故か士郎は怯まなかった。何か思い直す事でもあったのかも知れない。そして、橋を渡ってそろそろ別れようかなと思ったその矢先に。

「凛」
「シロウ」

「何よアーチャー?」
「どうしたセイバー?」

「「―――近くにサーヴァントの気配がする(します)」」

「・・・どこ?新手のサーヴァントなの?」

「ここからそう遠くない。300メートル程先にいる。・・・ランサーのようだな」

「さっさと逃げていったくせに、この辺をうろちょろするなんて・・・怪しいわね」

「シロウ、ランサーの傍に誰かいます!あれは・・・魔術師(メイガス)では・・・ない?恐らく一般人かと」

「何だって、一体誰が・・・って、おい、アイツまさか―――」



「―――七枷じゃないのか!?」



―――え?



今、コイツ、誰の名前を、口に、出した?七枷?七枷・・・ななかせ・・・ナナカセ。思い当たる人間なんて1人しかいない。でもあり得ない。だって彼は―――



彼は、七枷君は死んだはずじゃ―――




「な!ラ、ランサーから魔力が吹き上がっている?まさか、一般人相手に宝具を使うつもりなのですか!?」

「何だって!?セ、セイバー!アイツを・・・七枷を助けてくれ!」

「シ、シロウ?」

「アイツはオレの友達なんだ、早く!このままじゃアイツ、ランサーに殺られちまう!」

「わ、分かりましたマスター!」

セイバーが慌ててレインコートを脱ぎ捨てて疾走する。士郎もその後に続いて走っていく。私は、まだ、事態を掴めないで呆然としていた。


「凛、どうするのかね?2人とも慌てて行ってしまったようだが、我々はどう行動する?」

言われてようやく気付く。何を呆けているんだ私は!考えるのは後回し!とにかく向こうへ合流しないと・・・!

「アーチャー、セイバーを援護して!」

「承った」




そして、ランサーを追い払った。近くにまで寄っていったが、確かに彼だった。死んだはずの彼が、そこにいた。どうして生きているのか?当然その疑問が湧き出てきたが、取りあえず今は安堵した。生きていてくれて、良かった。


――――――――――ん?待てよ?


じゃあ、何か?あの時の謝罪は無駄だったってわけ?下唇噛み切ったり、自己嫌悪に陥ったりしたあの苛みは、心の税金の納め損?

―――メラ。

そうと分かった瞬間、安堵は吹き飛んだ。何よそれ、生きてたんなら私に電話くらいしなさいよ謝って損したじゃない大体あんな時間に居たアンタが悪いのよそれに生き返ったからって一般人を巻き込ませた責任として聖杯戦争後に書く始末書の量も50ページから45ページに減るくらいなのよ面倒なことに変わりはないってわけ私の苦労が分かる分かるわけ無いわy(ぷちん♪)ああぁぁぁぁ〜〜もう!!

陣の胸ぐらを引っ掴んで引き寄せる。あの時以上に怯えてくれた表情に少しだけ満足するけどまだ足りない。こんなので許すもんか。私の怒りの利率はヤミ金の3倍は重いわよ。
すぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・っ。肺一杯に空気を吸い込む。何かを察知したのか、陣は両手に耳を持っていこうとするけど、当然許可なんて出すかボケ。ガシッと胸ぐらを掴んでいた両手をそれぞれアイツの腕に持って行き、耳に持って行くのを阻止する。
とにかく!まずは私の!このいたたまれなかった気持ちと!謝罪と!自己嫌悪したあのセンチメンタルな心情を―――――




「返せええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




Interlude out






「返せええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




ぎゃああああ!!!な、何の事ディスカーーー!?み、耳!耳が・・・鼓膜・・・破け・・・!!!


「・・・ふぅ」


溜まったものを出すだけ出してすっきりした様子の遠坂さん。しかし、その被害を被った人物(主にオレ)は、口からえくとぷらずむを出して天に召されようとしていた。




でっどえんど。








「じゃねーよ!!」

いかん、自分で自分に突っ込んでしまった。

「しかし七枷、お前どうしてこんなところに・・・って、あ!ヤバ・・・神秘を一般人が知ってしまった事になるんだよな。どうしよう・・・」

今更だと思うよ衛宮。てか、オレ事情知ってますしね?そんな事思いもしないだろうけど。特にこいつは。

「別に関係ないわよ士郎。陣は聖杯戦争の事情はおろか、これから起こること全部知ってるらしいから」

「うぇ!?ま、マジなのか七枷?」

「あ〜・・・まぁ、一応」

ここまで偏屈に曲げまくったから、役には立たないかも知れないけどね。って、いつの間にか遠坂がオレのこと名前呼びしてるし。

「あ・・・そうだ丁度良いわ。―――エミヤクン?」

「・・・なんでしょうか、遠坂さん」

さん付けですか・・・。いや、衛宮の心情はよく分かるけどな。

「ここで別れて、次からは敵同士って思ってたけど気が変わったわ。また貴方の家に寄らせて貰うわよ。こいつに、コレから起きる聖杯戦争の出来事全部ゲロって貰うから。勿論手伝って下さいますよね?衛宮君?」

「・・・は、はひ。仰せのままに遠坂様」

って速攻で様付けかい!?

「い、いやあのですね遠坂さん」

「何?ここまで聖杯戦争に関わってて、これでもまだ喋らないとか無関係でいたいとか、そんな戯れ言抜かすようなら(ピー)を(ピー)して(ピー)の後で(ピーピーピー)の刑に処しますよ?・・・で?何ですか七枷君?」

ひ・・・ひぃぃぃ!!!な・・・なんつーえぐい事を思いつくんだこいつは!?そんなことされたら、お、おおお男の尊厳も存在意義も失う!しかも絶対やるぞ?って顔してるし!!・・・あ、想像したら脂汗が吹き出してきましたよ?

「イエ、何デモゴザイマセン。可能ナ限リ喋ラセテ頂キマス」

「うん、良い返事で大変よろしい」

何が良い返事だ、そんな脅迫まがいのお願いなんてし続けてたらな、いつかきっと自分に降りかかる―――

「―――まぁ、このまま何も聞かずに家に帰したらまたランサー辺りに襲われるし、話してから対策練れば、貴方も少しは安全になるんじゃない?良い交換条件だと思うけど?」

―――あ。そういうことか。遠坂なりに、オレを心配してくれてるんだな。・・・非常に分かりにくい心配、どうもありがとう。


「じゃあ、納得して貰った所で早速士郎の家に―――」

・・・ん?ちょっと待て。

「あ、遠坂さん。ちょっと聞きたいことあるんだけど」

「?何よ?」

「あのさ、ここに遠坂さん達がいるってことは、今から言峰の所に行くんじゃないの?」

「な・・・貴方何で綺礼のこと知って―――って、そうか知ってるんだったっけ。もう私達綺礼の所へ行ったわよ。それがどうかした?」

「もう―――言峰と会った」

と、言うことは。・・・え〜と・・・う〜んと・・・。何か忘れているような気が・・・。





「―――――ねぇ、お話は終わり?」





「―――――あ、思い出した」





月明かりの中、緩い坂の上にそびえ立つその姿。白い妖精と、黒い巨人。


「・・・バーサーカー・・・」

凛の呟きが、夜の街に響く。まぁ、あのマッチョでセイバーならまだしも、キャスターとかアサシンだとか言われたら嫌すぎるけどな。


「こんばんは、お兄ちゃん、それに遠坂のマスター。お兄ちゃんとは、こうして会うのは2度目だね。私はイリヤスフィール。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと言えば分かるかな?」

「!・・・アインツベルン・・・」

「そう怯えないで欲しいわ、遠坂凛。マスターとしての器が知れるわよ」

「なっ!?」

怒り心頭になりそうな遠坂をスルーして、ようやくオレがいると分かったらしい。





「帰らなかったんだ、貴方。まぁいいわ、異物も一緒に取り除けるから手間も省けるし」





むか。怖かったのだが、それよりもムカつきが少しだけ強く―――

「・・・あの時は脅してくれてどうも。君とこうして会うのは2度目だね、ロリブルマ」

なので、同じような幼い口調を無理矢理作って、同じような台詞で挑発してやった。

「・・・何のことを言ってるのか分からないけど、何故か無性に腹が立つわね」

そりゃそうだ、オレの世界でないと分かるわけ無い。あの超空間にいるお前であってお前でないナマモノと混同して揶揄してるんだから。

「ロリブル・・・プッ!」

と、さっきの揶揄は遠坂のツボに嵌ったらしい。爆笑を堪えて震えている。

「そこ笑わない!もういい、前置きなんて要らないわ!やっちゃえ、バーサーカー!」


「■■■■―――――!!!!!」


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