嘘だろ・・・?何で出てこないんだ、訳が分からない。出ろ・・・出ろ、出ろ、出ろよ!出てよゴブリン!早く・・・早く出ないと―――


「では、頂きましょうか。少し痛みますが、我慢して下さいね」


―――ぶちり。


「うぁ―――――あっ!」

一瞬、首筋に激痛が走った。突き立てられてる・・・首に、歯がめり込んでる。位置的に頸動脈だ。ソコがびくん、びくんと脈打つ度に、ぶしゅっ、ぶしゅって間欠泉みたく血が噴出して行くのが分かる。そして、それをライダーが何日も歩き回ってようやくオアシスを見つけた旅人の如く、

「んんっ―――んくっ―――んくっ―――んくっ―――」

と、飲み干してる。おい、ちょっと待て。頸動脈やられたら死ぬやんか!とにかく離れやがれこの―――!?


「っ!―――ひ―ぃっ。――ひゃぁ―――ぁぁぅっ!?」


何・・・?え?何?何?何コレ?変だ・・・オレ変だぞ?押しのけようとしてるのに、力が入んない・・・?
―――例えるなら、媚薬漬けにされたような気分だった。あり得ない奇妙な高揚感と快楽。吸われることの快楽がオレを襲っていた。結論を言おう、やばい。気持ちいい。狂ってしまうほど気持ちよかった・・・。

「ん―――はぁ。お・・・っと、少し吸い過ぎたようですね。少しお返しします」

かぷ。と、またオレの首筋に噛み付き、今度は何か変なモノを流し込まれていた。多分、返すって言ったからオレの血なんだろうけど。

「んぅっ!?い・・・あ・・・あぁ・・・」

これもやばい、吸い取られるのとは別の次元でやばい。これ以上表現すると色々と規制かかりそうだし、何よりオレ自身恥ずかしすぎる説明はしたくないのでカット。

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

「すみません、少し頂くだけのつもりでしたが、あまりにも純度の高い血だったもので。もしかしたら、貴方は魔術の素養があるのかもしれませんね。何はともあれ、美味でした」

にぃっ、と妖艶な笑みを浮かべるライダーさん。と、オレの耳元へ顔を寄せて、


「機会があれば、また飲ませて下さいね。貴方の味は気に入りましたので」


ふぅ・・・っと、息を吹きかけるように呟く。こしがくだけた。だれかたすけて。


「―――は、は―――」


い、と言ってオレはこの魔性の女性に堕ちて―――



Fixierung,EileSalve(狙え、一斉射撃)――――!」



―――しまう前に、聞き慣れた、気の強い女の子の声に救われた。






『Fate/The impossible world』






その音もさることながら、それはまさしくマシンガンそのものだった。病魔にかかる程度の魔術だが、この人物が撃てばその濃度故に単純な破壊力すら帯びてしまう。ガンド、それがその魔術の名前だった。

「くっ!」

ライダーはそれらを避けきれなかったが、直撃するものは避ける変わりに全て鎖のついたあの釘剣で切り払っていく。

「大丈夫、陣!?」

「と―――坂・・・・・・さん?」

駆けつけて、陣の顔を見る遠坂。熱い息遣い、赤く染まった頬。ライダーに何かされたのだと直ぐに察する。

「ライダー・・・私の連れにちょっかい出してくれるなんて良い度胸じゃない。アーチャー!」

直ぐに自分のクラス名を言われ、ライダーは少なからず動揺する。見ように寄っては自分はアサシンと思われかねない格好なのだ。特に顔に覆っているこの覆面が。だが、動揺する暇などない。少女の傍らに現れた自分と同じ英霊、サーヴァント・アーチャーが出て来たのだから。

「・・・アーチャーのマスターのようですね。となれば、そこの少年はやはり魔術師でしたか」

それに答える事無く、弓兵はライダーを射抜こうと矢を射出する。だが、トリッキーに動き、且つ釘剣で迎撃するライダーには当たらなかった。

「まぁいいでしょう、今日の所は一旦引きます。では、またいずれ」

そのままライダーはジグザグに跳躍しながら離脱して行った。

「どうするかね凛?追いかけるか?」

「・・・放っておきましょう、もうマスターは誰かなんて分かってるんだし。取りあえず陣を看るわ。アンタは周辺を警戒してて頂戴」

「了解」



「陣、大丈夫?何処をやられたの?病魔の呪いでも食らわされた?」

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

助かった・・・。あのままだったらどうなっていた事か。快楽に負けてしまいそうだったし。

「あ・・・・・・あんがと。血を吸われただけで、他は特に何も。それより、結界は・・・?」

「安心して、問題なく全部の基点を潰したわ。少なくとも今日の状態に溜まり直すまで3日以上はかかる筈よ。完全状態なら多分早くて1週間ってとこね。でも、本当に大丈夫なの?息が荒いし、顔も赤いわよ?」

「ん、多分問題なし。・・・・・・それにしても」

「それにしても?」

「―――――凄かった」

ぼそり、と呟いて噛まれた所をさすり、さっきの状況を思い出してしまった。うぁ、また顔が熱くなる・・・。

「?凄かったって何が・・・って、ちょ、ちょっとホントに大丈夫なの貴方!?また顔が赤くなって―――」

と、遠坂がオレの額に手を当ててくる。その時、ふわり、と良い匂いがした。気付く。それは遠坂の髪の匂いだった。あ〜、そう言えば遠坂は女の子でしたっけ。そら良い匂いとかするわな。・・・などと、他人事のように思う吉宗・・・ではなく、オレであった。

「高熱って訳でもないか。一体どうしたってのよ陣、ホントに何かされたか心当たり無、い―――の―――」

と、言葉に詰まる遠坂。それもその筈、会話しつつオレの身体に異常が無いか目でチェックしているのだ。で、見つけた。身体の異常。いや、ある意味正常なのだが。まぁその・・・一部分が自己主張してますたって言うか・・・。君たち女の子〜、僕たち男の子〜♪と言うか。まぁ・・・つまりは七枷陣は男の子なのでしたと。そうとしか説明のしようが無いわけで。

遠坂はきょとん、とその一点を見つめたまま固まっている。と思ったら色々表情をくるくると変えている。思考がパニクっているらしい。で、ようやく落ち着いたかと思ったら、『ボン!』と、スカウターが壊れたような音が聞こえてきそうな程顔を真っ赤にされた。そして沈黙。オレも沈黙。気まずい・・・激しく気まずい。仕方ない、ここは1つオレがフォローを入れる選択肢を考えて何とか状況を脱しよう。え〜と・・・う〜んと・・・よし、コレで行こう!




「―――――いやん、えっち?」




ヒュ―――――




―――――――ドグォ!!!




「―――おぶっ!!!!」

大不正解だった。疑問文みたいな感じがダメのか、それとも棒読みな所がお気に召さなかったのか。取りあえずポイントの代わりに、鳩尾へナックルが入る。

「あ・・・あ・・・ああああああああアンタ何考えてんのよこのスケベ!バカ!!変態!!!」

そして時は動き出す。遠坂は鳩尾のやや内側にある内蔵を狙って、ねじり込むように、打つべし!打つべし!打つべし!・・・って悠長に実況してる場合じゃない!

「いや、あのね遠坂さん!落ち着いて話を聞い・・・ぐほ!・・・げほっ!」

「なによこのスケベ!バカ!エロス!ヘンタイ!トウヘンボク!エロゲヲタ!」

ちょっと待て!PCの事全然知らんのに何やねん最後に出たそのピンポイント且つ正確な罵倒!?い、いやそれよりも早くこの不条理な暴力を止めさせないと・・・!

「だ、だからこの状況はオレの意志じゃ無くってね?ら、ライダー・・・そ、そう!ほぼ9割以上ライダーのせいなんですよ!オレに罪は無い、無いんだってばさ!!」

ピタリ。と、攻撃が嘘のように止まってくれた。・・・た、助かった・・・。

「・・・・・・残り」

「は、はい?」

「残りの1割は?」

え〜と・・・その・・・・・・。あ〜〜〜・・・・・・


「オレの・・・・・・劣情?」


「そらぁぁぁ!―――滅殺!!」


遠坂は鹿○の術を唱えた!○っか○ーーーん!遠坂の拳は鋭さを増した!会心の一撃!七枷陣の顔面に999のダメージを与えた!七枷陣を退治した!パラパラパッパッパ〜♪(桃○ファンファーレ音)
て・・・いうか・・・さ、遠坂を止めろよアー・・・チャー・・・。おへっ。
そして蹲って見上げた視線の先には、傍観に徹していた赤い弓兵がニヤニヤしていた。


・・・わざとか?殺すか?






「ただいま〜」

買い物に出ていた衛宮士郎、帰宅。玄関には靴が幾つかあった。一時的な居候の面々のものだと士郎は察する。

「やっぱみんな帰ってたか。さて、早速メシを作らないとな〜」

そして、居間兼台所に入って―――

「ただいま〜。ちと遅くなってすまん、直ぐにご飯を炊くからちょっと待―――」


「不覚だわ・・・優雅であれの信条を忘れてあの暴挙。迂闊だった・・・はむ。んぐんぐ・・・でも、陣って意外と立派・・・じゃなくて!忘れなさい遠坂凛、心の贅肉よ心の贅肉心の贅肉心の―――」

「はむ・・・はむ・・・うぐ、痛い・・・。美味いのに口の中の傷にアンコが染みる。顔の傷も痛ぇよ〜。うぅ・・・でも美味い」

「ククク・・・はむ。ふむ、生地を厚めにしてアンコを基準より少しばかり減らしているか。まぁ、味は申し分無いし露店でしかも100円という低価格ならば、妥当といったところか」

「はむはむ。ゴクン・・・なるほど、生地に砂糖を5%程増して甘みを付け、アンコの少なさを誤魔化しているわけですか。素人ならばこれで充分通用するでしょうが、玄人(プロ)相手ならばこのような細工、児戯に等しい。愚考も良いところだ。・・・ですが、味は充分及第点を出せている所を取り計らいましょう。65点。・・・フフ、私も甘くなったものだ、あの攻城戦の時に居合わせたトリスタンやケイが今ここにいれば、何と言うでしょうね・・・」


―――中の何とも言えないまろやか〜なカオスっぷりを発見した。平穏な衛宮家の居間、死亡確認!

「(なんでだろう・・・みんな大判焼きを食べてお茶を啜ってる。そんなほのぼの〜とした風景である筈なのに、この一部による何とも言えない殺伐とした空気は何なんでしょうかゴッド)」

「いつぁ・・・ん、あ〜お帰り衛宮〜」

最初に家主に気付いたのは陣だった。

「お、おぅただいま七枷。一体コレはどうした・・・って、おいお前!」

びっくりした顔で衛宮が近付く。そりゃそうか、オレの顔、結構酷いことになってるからなぁ・・・。

「首筋に孔が2つあるぞ!?どうしたんだよ、まるで吸血鬼にやられたみたいになってるぞ!?」

「最初に心配する所はそこかい」

もっとわかりやすい所があるだろうに、顔面全体とか。

「いや、その、なんかそれ以外に注目したら何か良からぬ事が起こりそうな気がして・・・」

この一局で衛宮士郎の非凡な才覚、心眼(真)の片鱗が初めて目覚めた瞬間であった。・・・嫌すぎる。



「なるほど、帰りにライダーに襲われたのか」

「そ。それで血を吸われたってわけ。まぁライダーが単なる吸血種で良かったよ。死者とかになるのはハッキリ言って勘弁したいからね」

「ふむ・・・それで孔が空いてる理由は分かるとして、やっぱ気になるんだが何でそんなに顔が傷ついてるんだ?ライダーにやられたのか?」

ピタリ。遠坂と陣の空間が固定される。さっきまで心眼を発動させ、危機を回避させていたのに・・・。そこはやはりでっどえんど因子を持つ本来の主人公。今回は若干サブ扱いだが。当然の如く地雷を踏むのであった。


「「―――エミヤ(クン)」」


ゴゴゴゴゴ・・・と、両者からオーラが溢れる。見た目は違うが、根本は同じ、9割9分の怒りと、1分の恥ずかしさが混じるオーラが。


「「その話題には触れるな」」


見事なまでに、遠坂と陣の声はハモハモしていた。笑顔すらも、ハモハモ。

「・・・・・・・・・。ぁぃ」



暫くの後。家主、衛宮士郎は述懐する。

『あぁ、その日だ。平穏な我が家の居間に突如現れたんた。何をバカなと思うヤツもいるだろうけど、間違いなく出たんだ。魔が。例えるなら「あかいあくま」と「くろいきょうき」って所だな、アレは。あ、「きょうき」っていうのは漢字的には「狂気」。これだ。なんつーか昨日の夜にも見た、どっかの村にある地方神の祟りっぽい笑い声がそれを彷彿とさせたし。え?説明するんならどっちも漢字で書けば良いって?「赤い悪魔」と「黒い狂気」って感じに?いや、まぁ・・・ねぇ?そんな事したら色々クレームくるだろうし、平仮名表記って・・・・・・基本だろ?紺色の水着とか』

最後ら辺は、人として色々間違っているというか、マニアックな述懐だった。






で、何だかんだで夕食時。

「いただきまーす」

桜、タイガーを加えて夕食を貪る。まぁ、血を結構吸われましたので、とにかくメシが食いたい。特に肉。何はともあれ肉。今は守銭奴のように肉。それでこそ手が届く。殺しえる。貧血という魔物を。

「ほら七枷、ほうれん草のおひたし。野菜で鉄分豊富だから食え」

と、衛宮が鰹節の乗ったおひたしをわたしてくれた。おぉ、ほうれん草は大好きだよ。茎の部分はちと微妙だけど。

「サンキュ。あ、醤油とマヨネーズ取って貰える?」

「?醤油はともかく、マヨネーズもか?・・・ほれ」

「あんがと」

さて、では早速。にゅにゅ〜っとマヨネーズを練り出して小鉢の上を軽く1周。そして醤油は軽く2周。で、箸でぐにゅぐにゅっとかき混ぜて出来上がり〜っと。

「・・・うわぁ」

「ん?何だよ衛宮?」

「いや、ほうれん草にマヨネーズ入れてかき混ぜるやつ見たこと無かったからちょっと驚いただけだ。ていうか、見た目がちょっと・・・」

和え物っぽく思えばそうでもないんだろうが、未知の視覚に戸惑っているっぽい。まぁ、人によっては邪道らしいからな、マヨネーズ。

「何〜よ、別にええやんか、オレこういう味付けが好きやもん。美味いねんで、コレ」

「まぁ、七枷が良いならそれ良いんだけどな」

と、そのやり取りを事細かく聞きいていた人物が1人。食のおうさま、アルトリアさんだった。・・・ん?1文字間違っているような・・・?

「・・・・・・」

じーっと、苦い顔をしておひたしを凝視している。おひたしには既に醤油がかかっている。後は食うのみ。・・・・・・その筈なのだが。

「・・・やはりこのまま・・・だが・・・・・・革新的な味かも・・・・・・しかし無難に王道を行くのが・・・」

何やらブツブツと呟いている。多分、セイバーとしては醤油オンリーでずっと食っていたのだろう。だが、オレの一言、『美味い』という言葉に翻弄されているのだ。王道で行くか、革命を起こしてみるか。両者がそれぞれの信念の(はし)を持ちせめぎ合っている。

「―――――っ!」

意を決した。くわっと目を見開き、約20cmのらっきょう型の容器に手を伸ばす。どうやら革命の(はし)が勝ったようだ。

「「セ、セイバー!?」」

現在と未来、2人のエミヤが驚いてハモる。・・・今日はハモり率が高いなぁ・・・。
慎重にマヨネーズを捻り出して小鉢に注いでいく。どっかから『『あぁぁぁ・・・!』』という雑音が聞こえてくるが無視した。と、ある時点でセイバーは何かを感じ取ったのか急いで抽出を終了した。

「―――ふぅ、これで良いのですね」

あ、なるほど。これ以上は素材の味が損なわれるって感じ取ったんだね。理解完了。
ていうか、こんな所で直感使うな。
そして、オレのようにぐちゃぐちゃとかき回す。数秒もすれば、完成。ほうれん草のおひたし、鰹醤油マヨ和えの出来上がり。流石に、綺麗に盛りつけられてあったモノを壊したので、少し哀愁を帯びた表情になっていたが。

「では―――」

はむ。と、一口。目を閉じてもくもくもく・・・ごくん。

「―――――」

居間は静寂に包まれている。遠坂やタイガー、台所で何か作っている桜も成り行きを見守っていた。

「―――。ふむ」

ぱちり。と目を開いて何でかオレを見つめる。そんな真剣な眼差し止めて下さい。息が詰まりますセイバーさん。

「醤油のみでしか味わった事はありませんでしたが、これもなかなか良い。斬新な味付けです。少々濃くなってしまうのと雑な見た目が難点ですが、偶に食べるなら問題ない美味しさです。合格です、ジン」

にこり、とご満悦なセイバーさん。何が合格なのか、小一時間ゴノレゴに問い詰めさせたい気分なわけだが。

「あ〜・・・えっと、気に入って頂けて何よりです、はい」

そうとしかコメントのしようがねーよ。

「「セイバーが・・・セイバーが穢れてしまった・・・」」

と、またもやハモるエミヤ'S。ていうか、現在の方はそれほどセイバーの事知らないんじゃなかったのか?よもや、良く知っている未来の方に引き摺られてシンパシっているのだろうか?・・・人類の不思議、ここに顕現?

「はい、皆さん。おかずの追加ですよ〜。七枷先輩のリクエストにお答えして、『血になるおかず』を作りました。・・・なんで血なのか分からないんですけども」

と、桜が持ってきたのは―――


「うわ〜、おいしそー。これ家から持ってきたやつだよね?ナイス桜ちゃん♪でもこれがあるとビールが欲しくなるのよね〜」

「お、昨日藤ねぇが持ってきたアレか。ニラ炒めに刺身に串焼き・・・。確かに血はたっぷりつきそうだな。良かったな七枷」

「この生臭い匂いがちょっと嫌だけど、確かに美味しそうね」

「ほう、見る限りでは良く火が通ってあるし、生臭さもかなり飛ばしている。その若さでよくここまで精錬したものだ。中々上手だな、さく・・・間桐さん」

「ふむ、この匂いは食欲をそそる。どんな味が楽しみですね」

「―――――」

まじで?まじでこれなんですか?確かに言いましたよ、血の付く食べ物って。で、リクエスト通り血は付くよ、たっぷりと。でもね?何でコレを出してきたんですかサクラサン?ボクニハリカイデキナイYO。

「ではどうぞ七枷先輩―――」

と、桜は小皿にとりわけて、差し出してくる。その料理を。

「レバニラ炒め、レバ刺し、レバーの串焼きです。レバーずくしですよ〜」


「きゃああああああああああ!!!!」




―――数分後。

「で?何でレバーがダメなの陣?」

「それは聞くも涙、語るも涙なお話があってですね・・・」




Interlude

十数年前。

『かーさん、今日のご飯何〜?』

『今日はこれやで〜。レバ刺し〜』

『今日もレバ刺しなん〜?もういいかげん飽きた〜』

『何で?色々メニュー変えてるやんか』

『だって、昨日はレバニラ、一昨日は串焼き、その前はカレーだけど肉はレバー。その前はレバ刺し。こればっかやんか〜。オレハンバーグとか食いたい〜』

『ん〜、だったら、今研究中のレバー唐揚げを作ったげるから今日はレバ刺しで我慢し『だからもうレバーに飽きてんてば!ハンバーグ、ふつーのお肉のハンバーグ〜〜!!』・・・・・・』

『陣〜、レバーをバカにしたらあかんよ?』

ガシ!ドカドカドカ!我が子の口を無理矢理開き、生の肉をどんどん突っ込んでいく母親。ある意味幼児虐待の一歩手前だった。というか、今のご時世ならそれは確実に幼児虐待になりそうだった。

『陣は母さんの息子やから、きっとレバーも大丈夫やで〜。ほら、どんどん食べて匂いとか慣れれば大丈夫、無問題や〜』

『ひょんひゃむひゃふひゃは〜!!むひ!ほんはひっひにはんへへっはひふへひゃいはは!!ひゃ〜め〜へ〜!!(そんな無茶苦茶な〜!!無理!こんな一気になんて絶対食えないから!!や〜め〜て〜!!)』


Interlude out




「それから暫くしてマジ切れして、何とかレバーを使うのは止めさせたけど、オレには深いPTSDが刻み込まれたわけですよ・・・」

「あ〜、それじゃあ仕方ないですよね。折角作りましたけど、そんな事情じゃレバーはダメでしょうし・・・」

しょぼーん、と桜がすごすごと皿を取り下げる。確かに、こればっかりはちょっと・・・

「一口くらい食べてみたら?折角桜が作ってくれたんだし、勿体ないわよ」

と、無責任な発言をするツインテール。だが、それも一理はあった。

「む・・・うぅ。あ〜、ひ、一口くらいなら、何とか・・・多分」

「そ、そうですか?じゃあ、お一つどうぞ」

ぱぁぁ!っと桜の表情も明るくなった。自分の作った料理だ。やはり残すよりは一口でも食べてくれる方が嬉しいのだろう。

小皿にのったレバニラを見つめる。・・・大丈夫、一口、一口だけ一口だけ一口・・・。無理矢理言い聞かせて、一気に口へ放り込む!

もぐもぐもぐ・・・。

「ど・・・どうでしょう?」

「・・・・・・。う、うん。何とか食べられる。あ、味は勿論美味しいよ」

「そうですか〜、良かったです」

うん、食べられない程じゃない。でも、やはりあのPTSDのおかげで食べるスピードはもそり、もそりと結構遅いのだが・・・。

「う〜ん、じゃあ私の方からも栄養のあるもの持ってくるわ。待ってて」

と、遠坂が居間から衛宮家の自室へと消えた。・・・何を持ってくる気だ?



「お待たせ〜」

と、数分も経たずに遠坂が帰ってきた。手に何やらえげつない、黒い、はちうるいなものを詰め込んだ瓶を従者にして。

「はい、これよ」

と、目の前に突きつけられるその物体。乾物。真っ黒な乾物。

「―――何?この消し炭?」

「失礼ね、ヤモリの黒焼きよこれ。滋養に良いから、はい、食べなさい」

いや、食べなさいって・・・この物体を?姿形が残ってるコレを?・・・こんなゲテモノ食えるか!また新たにトラウマっちまうやんけ!

「へぇ、陣の体調心配してわざわざ持ってきてあげたのに、そんな態度取るんだ?ふ〜ん。益々食べさせたくなるわね」

と、箸を黒瓶に突っ込んで一匹掴み出し、


「食え」


あくま笑顔満載で、簡潔且つ素晴らしく嫌な一言を宣った。

「だが断る。この七枷陣の最も好きなことの1つは、自分で強いと思ってるヤツにNO!と断ってやることだ!」

「じゃあ、実力行使」

と、掴もうとするがオレは逃げる。でも、数秒後にあっけなく押し倒されてしまった。

「ほら陣!ヤモリは、身体、に!良いのよ!?さっさと口開けなさい!」

「い〜や〜や〜!レバーは嫌だけど、ヤモリはもっと嫌〜〜!!」

「え〜い、つべこべ言わない!大人しく口開けろ!アンタのトラウマ苛めなんて滅多にない面白そうなイベントを見逃す理由なんて無いんだから少し楽しませなさい私はアンタの体調を心配してやってるんだから大人しく食べなさい!」

「それで本音隠したつもりか!?・・・っの、は〜な〜せ〜、このネンネツンデレ変則ツインテール絶対領域!!」

「言うに事欠いてそれかぁ!」

ガポ♪

ぎゃああああああ!!!!
お巡りさん、オレ今現在進行形で新しいPTSDを受けてます。タスケテクダサイ・・・。



余談。ヤモリの黒焼き、苦みの多いさきイカみたいでちょっとだけ美味しく感じてしまった。コーラがあれば尚良いかもとか思った。その内、オレ色んなものに目覚めていつの間にか人として終わってしまうんじゃないだろうか。鬱だ死のうAA略。
・・・・・・うわ〜ん(つдT)






まぁ混沌としてたけど食事も無事に終わり、桜はタイガーを連れて帰っていった。

で、

「く・・・っ!それにしてもセイバーを邪道に貶めるとは・・・。七枷陣、貴様それでも人間か!?」

いや、別にどっかのコロニーをガス攻撃して大量殺戮をしたわけでもなし。

「セイバーには王道を突き進んで欲しかったオレの気持ちを1%でも察してくれ・・・」

・・・・・・あのなぁ。

「そんなに極端に悩む事か?不味かったならともかく、美味ければ別に良いっしょ?」

「確かに、美味しいものであれば私もそれなりに満足出来ますね。見た目が良ければ尚良いのは勿論ですが」

うんうん、と厳かに頷くセイバー。

「オレは見た目とか雑だとかは別に気にしないなぁ・・・。極論言ってまえば、トーストにヴェルデのチョコホイップ付けただけとか、鰹節入れた卵ご飯だけでも良いし。早いし、それなりに美味いし。中学校の時は飯食う時間無い時とかそれで済ませてたしな」

「な!?」

と、いきなり珍獣を見るような目でセイバーがオレを凝視した。と思うやいなや―――

いけませんジン!食事を疎かにするなど、体調を疎かにするのと同義だ。貴方は戦う者として・・・いえ、騎士としての矜持が無さ過ぎる!」

がぁーっと捲し立てる。て言うか元々ねーよそんなモン。

「あ〜・・・えっと・・・すみません。勉強が足りませんでした」

でも後が怖いからそんな風に切り返せるわけもなく、素直に謝る自己溺愛なオレガイル。いや、某格ゲー2の待ちキャラじゃなく。オレが、居る。な?

「仕方がありませんね。ここは1つ、食事が兵の士気、更には国の繁栄にどれほど繋がるか私が講義して差し上げましょう」

キラーン。と、目が光って殺る気マンマンな騎士王様。うわぁ・・・何となく言葉のでっどえんどな匂いがプンプンしますよ?

「ちょっと待ってセイバー。その前にまずは士郎の強化から始めるわよ。それと、陣の魔術ももっと把握しておきたいし。魔力量の上限とか召喚にかかるコストとか。昨日みたいに戦いの途中で倒れられでもしたら面倒だし」

「むぅ・・・確かに。そちらの方が優先順位は高い」

・・・ほっ。どうやらセイバーの談義は―――

「―――では、特訓の後にみっちりと教えることにしましょう。それで良いですね、ジン」

―――多分疲弊しきるであろう特訓後の追い打ち拷問としてシフトに入った。


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