―――ごくん。

「こ、これで良いのか遠坂?」

「えぇ、1個もあれば充分な筈よ。後は宝石に込めた魔力が全身に拡散・流動していって士郎の回路を一時的に強制開放するわ。後はそれを自分でコントロールしていつでも使えるように調整しなさい」

「調整って言われてもどうやったら・・・って、う、うぐっ!?」

「あ〜もぅ、言ってる傍から!良い衛宮君?取りあえず落ち着いて、いつもの鍛錬をするように集中しなさい」

「しゅ、集中ったって、回路が錆び付いてるように重いし軋むし、鍛錬の時のように集中なんてこれじゃ無理だ・・・ぞ!」

「とにかく落ち着いて気合いで何とか持って行きなさ「ていうかさ衛宮」・・・?」

オレは遠坂の言を遮って、横から口を挟む。

「何よ陣、邪魔しないでくれる?今話しかけられると只でさえ集中出来てない士郎に負担が更にかかるから少し静かに―――」

「だからちょい待ってーな。衛宮、錆び付いてるんだったら、宝石の魔力をCRCみたく吹き付けて磨いてみたら?」

「C・・・RC?」

「そ。CRC。自転車(チャリ)とかの錆取り剤。良く使ったりしない?学校の修理行脚とか自分ちの自転車(チャリ)の修理とかで」

「確かに・・・使う・・・けど」

「錆び付いてるって言うんならさ、同じ要領でやってみたら?お前の回路にも。あくまでイメージでだけど。案外上手く行くかもしれないしさ。身近な手法とかで集中してみるのも1つの手なんじゃない?」

「・・・あのねぇ陣、そんなへんてこりんなやり方で上手くいくわけないで「・・・そうだな、うん。一応やってみる」・・・はぁ!?正気、士郎?」

むむ・・・と目を閉じ、衛宮はいつもやってる錆取りのやり方をイメージする。

と、

「・・・・・・・・・お?」

「―――え?」

「お・・・お・・・。おぉ?」

少しずつ、衛宮の顔色が良くなっていく。

「凄い・・・回路が少しずつ綺麗に磨かれてく。・・・おぉ、凄い凄い!みるみる魔力が通ってくれるぞ!七枷、お前凄いな!こんな簡単な方法知ってるなんてさ」

「あ〜うん。上手く行って良かったな衛宮。(こんなんでホントに上手く行くとは思わなかったなぁ・・・。単純に思い付いただけのてきとー助言だったなんて言えねぇ・・・)」

「―――アンタ達って・・・アンタ達って・・・」

目を閉じたままはしゃぐ衛宮。頬をぽりぽり掻き、口元をひくつかせ戸惑う陣。こめかみを押さえてうんうん唸る遠坂。何とも珍妙なトライアングルの完成だった。






『Fate/The impossible world』






「とにかく、士郎の回路の開放には成功したわね。・・・やり方には納得いかないけど。じゃ、次は士郎の本分でもある固有結界・・・というか、副産物の投影ね。これをまずはマスターして、その後ついでに強化もマスターして貰います」

ピシっと、伊達めがねをかけて先生モードになる遠坂凛、本作品でここに爆誕。

「それは良いんだけど、どうする気なんだ遠坂?」

「いるやんか、教えてくれる先生が。ていうか未来のお手本が」

「そういうこと。アーチャー、衛宮君を預けるからアンタの持ってる宝具のリストを可能な限り見せて覚えさせなさい。勿論、詠唱速度の向上もさせること」

「承った、凛。では早速行くぞ小僧。そうだな・・・土蔵で始めるとしようか。あそこの方が慣れているだろう。私の暖かい温情に感謝してむせび泣くが良い」

「・・・こんな皮肉屋なのがオレの未来になるかもしれないのか・・・」

こんな嫌な自分になんて、絶対なるもんか。とかぶつぶつ呟きながら衛宮はアーチャーと共に土蔵へ消えていった。あ〜悲しめ少年、お前の望みはもはや叶わん。ってオレは思いますよ?ちなみに、分かってるとは思うけど言峰の台詞を逆にしてパクってみました。



そして、オレと遠坂は庭に出る。

「さて、じゃあ陣の魔術についてだけど―――」

「あ、その前にちょっと言わなきゃいけないことが・・・」

「?何よ?」

「あの〜・・・何でか召喚すること出来ないんですけど」

「・・・・・・。へ?」

遠坂の表情が徐々に驚きに変わる。

「ど、どういう事よそれ?まさか今頃になってライダーに何かされた影響が―――」

「い、いやあれはその、別に関係無くて。とにかくライダーに襲撃された時には、既に召喚が不可能になってたんだ」

「・・・状況が把握しにくいわね。とにかく、一回魔術を使ってみてくれる?それで検討付けてみるから」

「あ・・・うん、了解」

すぅ・・・と息を吸い込んで集中。スイッチを入れて、魔力を開放。

具現魔術、起動(スタンディンバイ)

ここまではOK。問題はここから・・・。そして、オレはまたあのカード、『怒り狂うゴブリン』のカードを出す。

「『怒り狂うゴブリン』よ!」

・・・。しーん。ライダーに襲われた時と同じだ。出てこない。

「やっぱダメか・・・。ねぇ遠坂さん、何か分か―――」

と、遠坂の方を見ると、一体どうしたのよ陣!?ってな顔で―――

「―――――」

「―――った・・・か・・・な?」



あれ?何か違う。驚いた顔をしてると思っていた遠坂の表情は、むぅ〜・・・と、ジト目で『何をやってるんだコイツは?』って言いそうな憮然としたものだった。

「―――何やってんのアンタ?」

「いや、何って魔術行使ですけど?やっぱり魔力開放したつもりなのに召喚出来てないって事は何か原因とかあったりす―――」

「待った。回路を正確に起動した事に関しては私も確認済みよ。問題はその後。何で詠唱工程を組まないでいるのかを聞いてるのよ、私は」

―――。えいしょうこうてい?何の事を言ってるのか分からない。

「何ソレ?」

「―――は?」

そして、当然の疑問を投げたら遠坂も困惑した。

「ちょ・・・し、知ってるでしょ?あれだけの大魔術、無詠唱(ノーアクション)で使用出来るわけないじゃない。ちょっと考えれば分かるでしょうが」

「いや、そんなん知らんし」

ふるふると、首を振って即答。遠坂の表情が段々怒りに染まっていく。

「あ、あのねぇ!昨日の夜だって、アンタちゃんと詠唱工程組んで召喚してたじゃないの!声に出さなかったけど、かなりの高速詠唱で!声に出さない詠唱って相手に悟られにくい分発声詠唱より時間がかかるっていうのに!あの速さだけでも驚愕ものなのよ!?」

遠坂は一気に喋りきり、猫みたくフー!フー!と、いきり立つ。

「あ〜、その、あの時は『最高にハイってやつだぁ!』的な気分だったんで、多分そのせいだとは思うけど、唱えたかどうかなんて全然覚えてないんですけども・・・」

「そ、そうだとしても!アンタだって魔術師の端くれならそれくらい言われ無くったって理解「や、つかオレ、元々一般人やし」―――っ!」

またもや遠坂はこめかみ、更には立てまくった青筋と引きつり続けている頬の肉を両手で押さえた。

「落ち着きなさい遠坂凛、あんな魔法じみたえげつない召喚魔術を使うヤツでもアイツは元々一般人。魔術のまの字も知らない一般人だったのよ。詠唱工程なんて知るわけ無いじゃない。うん、そう。そうと分かれば納得いくわ。アイツは元一般人元一般人元一般人元一般人元―――。・・・一般人のくせに・・・・・・私以上の回路数や魔術をたった一晩で手にいれやがって・・・オノレ・・・」

うん、まぁ落ち着くまで距離を置いて見守ろう。生暖かく。ついでに最後の一言も聞かなかったことにしよう〜っと。あははははは・・・・・・はは。・・・うぅ怖いよ、助けてママン。



「―――ふぅ、よし。落ち着いた。じゃあ陣・・・って、なんでそんなに離れた場所でガクガク震えてるのよ?」

「ううん、何でもない。何デモナイヨ遠坂サン?」

落ち着いたっていう台詞の前に色々発言していたエグい台詞に恐怖してるとかそんな理由じゃないです。うん、別に何ともないですから。全然大丈夫ですじょ?・・・・・・。ガクガクガクガク。

「変なの・・・っと、話が逸れたけど、一度精神を集中させなさい。思い浮かんで来るはずよ、行使するのに必要な工程が」

遠坂に言われた通りに、一度深呼吸をして落ち着かせ、そっと目を閉じる。そして、それは浮かんできた。



―――骨格を形成し



―――外郭に肉を付与し



―――数多の時を刻み過ぎさせ



―――存在しない経験で精錬し



―――世界を騙して包み込む



そう、コレだ。この五つの言葉・・・五節・・・五芒星(ペンタグラム)を語り、紡ぎ、謳い、祈り、喚ぶ。これで本当に下準備は完成するんだ。

「そう、それで良いのよ。後は完結させる小節を繋げて魔術は顕現する」

完結させる小節、それは出したいカードの名前を唱えること。それは知っている。了解。これで全てクリア。さぁ、今度こそ出てこい―――!

「『怒り狂うゴブリン』よ!」

カードから熱が帯び、光り輝く。そこから、一匹の異形が姿を現した。RPGとかで定番である低級の西洋の鬼、ゴブリン。それがオレの呼び出した僕だった。

「やった・・・やった!出て来たー!」

「うん、上出来よ。・・・でも、あの時の怪物と比べたら、これまた随分弱っちぃわね・・・」

じーっと、遠坂はゴブリンを見てそうぼやく。貶されたから何となく、ゴブリンからご不満な雰囲気が出て来てる。"コイツ殺ッテイイ?"ってな声が何となく頭に響く。

「止めとけ、あくまには勝てん。それに比較されたのは疫病王とだ、そりゃお前に勝てるわけねーって」

納得したのか、ゴブリンはしょぼーんと項垂れた。不気味な姿でそれされると、ぶっちゃけきしょい。すまん。

「・・・何言ってるの陣?」

「え?あ、いや何でも。それより、コイツの強さとか分かるの遠坂さん?」

「えぇ、分かるわよ?ていうか何言ってるの陣、その口ぶりだとそのゴブリンの強さ知らないみたいに聞こえるんだけど。アンタこいつのマスターなんだから当然分かってるでしょ?」

「いや、一応このゲームに暫くハマってたからゲーム上の能力とかある程度知ってるけど、遠坂さんはどうやって知ってるのかな〜と」

「別に?サーヴァントの能力表みたいに見えるだけよ?」

サーヴァントの能力表・・・・・・あぁ!アレか。ステータス情報。あ、そうだ。

「あ、遠坂さん。アレ持ってる?」

「アレって何よ?」

「ステータス情報が見えるようになる本。遠坂家の書物の1つってやつ」

「えぇ、持ってるけど・・・」

「それ貸してくれる?オレもそのステータス見る能力欲しいし」

「構わないわよ、今持ってるし。はい」

と、分厚い本を渡してくれる遠坂。横で『貸し追加・・・っと』という声が聞こえて正の字を書いてる映像が見えた気がしたが空耳&蜃気楼として扱った。

「それ持って、精神を集中させなさい。後は勝手に本が能力を付加してくれるわ」

言うとおりにして、本を持つ。すると、頭の中に色々流れ込んできた。

「はい、おしまいよ」

え?もう?意外と早かったな・・・。

「じゃあ、もう一度ゴブリン見てくれる?私の見ているステータス情報が陣にも見える筈だけど」

じ・・・っと、ゴブリンを見つめる。・・・を、ををを。見えた!


なるほど、筋力耐久その他諸々E前後か。そら弱いわな。元々が1/1の雑魚クリーチャーだし。ん?狂化持ちか。マジック上には無い新しい能力か?何々・・・狂化:E−。本来理性の大半を奪ってパラメータをランクアップさせる能力だが、ここまでランクが低いと理性は多少残り、ランクアップは行われない。要は、多少怒りやすい事の現れと思って差し支えないものである。


ほうほう、確かに『怒り狂う』ゴブリンだしな〜。納得。つか、意味無ぇ〜!

「まぁ、コスト軽いし仕方ないか・・・」

「じゃあ次に、色々検証してみようと思うけど、その前にこのゲームの概要とか大雑把に教えて貰える?召喚にかかるコストとかそれである程度分かるかもしれないしね」

取りあえず、カードの右上にある数字または太陽、ドクロ、木、炎、水のマークの合計が召喚コスト、真ん中の変な紋章の色あいがレアリティ。黒がコモン、銀色がアンコモン、金色がレア。一度に出せるカードは4枚まで等基本的なルールを遠坂に教えた。

「ふーん・・・大体予想は付いたわ。じゃあ早速検証しましょうか」




Interlude

一方その頃。

『今日のテーマはこちら。自分の付き合ったダメ男。・・・ね〜、今日も色々出てくると思いますが、最初はこちら。「浮気をする男」。これはしょうがないって俺は思うんやけどな〜・・・はい、これだ〜れ?』

パリパリパリ・・・もくもくもく・・・ずずず・・・。

現状でやる事が本当に無い最優のサーヴァントは、来たるべき時がくるまで居間で煎餅をかじり、お茶を啜りながらとあるテレビ番組の再放送を見ていた。

『なんでそういう事言うねん!お前はホンマ・・・。ロードオブザリングはこれ聞いてどう思う?』

「―――――」

ふるふるふる。テレビのやり取りにやれやれ、といった感じでセイバーは首を振り、次の煎餅を取るために手を伸ばした。


サーヴァント・セイバー、現在出番待ち。


Interlude out




検証その1。

「まずはこの2枚のカードを召喚してみて」

と、オレのデッキから遠坂が引っ張り出してきたのは『虚ろの犬』と『ファイレクシアの疫病王』だった。

「あ〜・・・え〜・・・何故にこの2枚?」

「つべこべ言わずにさっさとする!」

まぁ、遠坂には遠坂なりの考えがあるんだろう。言う通りにしとこう。

具現魔術、起動(スタンディンバイ)

「あ、ついでに詠唱のショートカットも覚えなさい、気合いで」

「気合いて・・・また無茶苦茶な」

「さっきと同じ時間以上かかったらお仕置きだから」

ちょっっっおまっっっ!

「えぇ〜と・・・!」

各言葉でキーになる部分を抜き出せば良いのか?あぁ、もうっ!こうなりゃヤケじゃ!!

―――骨格形成、肉体付与、時流刻印、経験精錬、世界詐称―――っ!

「『虚ろの犬』!」

グォォォォ・・・ッ!

来た!って・・・くっ。重めのクリーチャーだから結構キツイ・・・。冥界にいるその番犬は忠犬よろしく、オレの目の前に座っていた。

「ふむふむ・・・。じゃあ陣、今度は疫病王を召喚ね。後、ショートカットはまだ出来るはずだから今度はもっと短い時間でやりなさい。はい、スタート!」

もっと!?あ゛あぁぁぁぁ・・・・・・もうっ!

―――形成、付与、刻印、精錬、詐称―――!!

「『ファイレクシアの疫病王』!」

黒いもやの中から病魔の王が這い出てくる。何とか成功したか。つか、これ以上なんでもう絶対無理―――


「―――がっ!?」


ぐあっ!?な・・・何だこれ?魔力の消費量がさっきよりキツイ。かなり持って行かれてる・・・!?た、確か虚ろの犬と疫病王の召喚コストは、黒マナと無色マナの差異はあるけど、総コストは同じ筈だ。なのに、なんでこんな・・・!

「―――なるほど、やっぱりか」

「や、やっぱりかって?」

取りあえず、何とか疫病王は召喚に成功した。オレは息をぜーぜー吐きながら地面に手をつく。

「同じ召喚コストなのに持って行かれる魔力量が違う事の理由よ。多分虚ろの犬と疫病王の能力の差ね。その辺はアンタが一番よく知ってるんじゃない?」

確かに。この2枚の能力を比べれば圧倒的に疫病王に分がある。レアリティも片方はコモン、片方はレアだし。

「それにしても驚いたわね、多分これで陣の魔力が底をついて軽く気絶するかと思ったけど、まだ余力がある。・・・もしかしたら、アンタの回路の魔力総量がリアルタイムで成長していってるのかもしれないわね」

全く化け物もいいとこね、とぼやく遠坂。そんな事オレに言われましても・・・。

「あのねぇ・・・。ムカツクから言いたくなかったんだけど、やっぱ言わせて貰うわ。アンタの魔力量、今現在でどれくらいあると思ってる?大体1.5倍よ?私の!自慢じゃないけど、魔力量なら冬木の魔術師で誰にも負けない自負があるのに全く・・・。まぁ、召喚にかかる魔力量が半端なく多いから、ある意味バランス取れてると言えなくもないけど。燃費が悪い西欧のぽっと出の金ぴかが乗る外産車みたいな魔術ねホント」

最近生産したやつとかはそうでも無いらしいよ?車について全然知らないからホントの所どうなのか分からないけど。取りあえず、昨今の温暖化に配慮して色々考えくれてるであろう、向こうのめるせですな会社の開発者さん達に謝れ。




検証その2。

「さて、クリーチャーも3体出したことだし。今度はサーヴァント相手にどこまで通用するか試してみましょうか。セイb」

―――ガシャリ。

「はい、何でしょうかリン?」

まだ名前を完全に言ってもいないのに、完全武装でセイバーさん登場。ようやく出番が回ってきて自然と笑みが浮かんでる。ぴこぴこと、頭のアホ毛も動いているし。多分、本人は厳かにしてるつもりなんだろうが。

「あ、う、うん。あのね、陣のクリーチャーが何処まで通用するか試したいから、セイバーにアイツらの相手をして欲しいのよ」

「―――ほう」

戦いになると聞いた途端、セイバーから緩みが消え、戦闘態勢に移行した。

「分かりました。ジン、手加減は無用です。貴方を含め4対1ではありますが問題ありません。一度、貴方の使い魔とは戦ってみたかった。まぁ、結果的に私の勝利は揺るがないでしょうが」

にやり、と不敵にセイバーは笑う。
うえ、マジでやるの・・・?つか、挑発されたのを理解したのか、ゴブリン達も戦意向上してるっぽいし・・・。





で、遠坂からまたヤモリの黒焼きを食わされた。何でも、魔力を回復させるのにも使えるのだとか。FFのエーテルっぽいな。嫌すぎるけど。

「じゃあ、模擬戦開始よ。GetReady―――」

ジャキッ。セイバーは不可視の剣持って横手に構える。オレは、クリーチャーを壁にセイバーから距離を取ってる。左腕には、腕時計の要領でカードホルダーをちょっと改造して作ったデッキ入れを巻き付ける。

「・・・・・・」

「・・・・・・」



「―――Fight!」



ドン!ロケットスタートの如く、セイバーが突撃してくる。

具現魔術、起動(スタンディンバイ)・・・カードドロー!・・・行け!ゴブリン!」

一枚カードを引き、まずはゴブリンをけしかける。

「遅すぎる」

が、やはり最弱。セイバーの進行を一旦止めただけで、すぐさま押し切られようとしている。・・・させない!

「『巨人の力』!」

人差し指と中指に挟み込み、裏拳をやる勢いでゴブリンにそのカードを投げつける。と、そのカードが張り付き、溶け込んでいく。

"シャアアア!"

ゴブリンが雄叫びを上げ、力強さが増していく。筋力、耐久共にD+にまで上昇。

「っ!やる・・・だがまだまだ甘い!」

しかし、それでもセイバーに対抗するのにはまだまだ足りない。結局、時間稼ぎも同然だった。ゴブリンが吹き飛ばされる。

「さあ次は―――っ!?」

と、セイバーがいきなり驚いた顔になって真横に飛び退く。と、次の瞬間セイバーのいた場所から虚ろの犬が襲いかかってきた。

「くっ、奇襲か・・・味な真似を」

射抜くように犬を睨むセイバー。どうやら、直感を駆使して予測したらしい。流石にランクAは伊達じゃない。なら!

「疫病王!」

ちらり、と疫病王はオレを一瞥する。

「―――『喰え』」

ゴブリンをあごで指す。こくり、とヤツは頷いた。ゴブリンが消滅していく・・・。そして疫病王に吸い込まれていく。と、そこから疫病王が黒い霧を吐き、セイバーに吹き付ける。

「そんなもの!」

当然、得体の知れないものを指をくわえて見守るわけはない。セイバーは霧を避けるように回り込んで疫病王へ肉迫―――

「・・・なっ!?」

―――出来ない!黒い霧はホーミングミサイルの如くセイバーに追尾し、絡み付く。

「あああぁっ!?」

セイバーから覇気が無くなっていく。ステータスのマイナス修正が発動したのだ。

「よし、そこだ!行け、犬!」

待ってましたとばかりに、虚ろの犬が飛びかかっていく。セイバーは今度は反応しきれていない。真正面からお互いがぶつかっていく。マイナス修正が結構厳しいのか、セイバーが少し押され気味だった。

「っく―――この―――」

と思いきや、


「―――舐めるなぁ!!」


ブワアアアア!!な・・・

「何だ!?ふ、雰囲気が変わった・・・?ス、ステータスも上がっている・・・!」

理由は直ぐに思い当たった。・・・そうか、魔力放出―――!

と、さっきまではお遊びとでも言うかのように、虚ろの犬を瞬時に斬殺。そのまま疫病王に突進していく。

「ちっ・・・疫病王!お前にも巨人の力をエンチャントしてや―――」


―――ヒュン。


ザシュッ!


そんな暇など既に無く、疫病王は首を刎ね飛ばされ、またも即死。

「さて―――後は貴方だけです、ジン」

ゆらり、とセイバーが立ち上がってオレを見据えた。

「―――く、来んなこの野郎!」

とにかく手札から何か出さないと!・・・これで!

「『ショック』!」

単一のダメージ攻撃のマジックカード。低コストでそれなりにダメージを与えられるのでお手軽だ。

だが、オレは失念していた。


―――ギュイン!


セイバーに、そんなしょぼい魔術など一切通用しないことを。

「っ!?しまった、対魔力―――っ!」

焦ったが故の勇み足。くそ、マジックカードじゃダメだ!召喚・・・何でも良いから次のクリーチャーを出し―――


「残念、詰みです。次はもうありません」


ガツッ!足を払われ―――

ピタッ。―――不可視の剣を、オレの、首筋に、当てられた。月明かりを背に立つその姿は、Fateで見た、初対面の遠坂凛に剣を突きつけたあのCGと同じ構図だったりする―――。






「勝負あり。ま、結果は予想通り、楽勝だったわねセイバー」

「いえ、そうでもありません。魔力放出が無ければ、少々危うかったでしょう。ジンの詰めの甘さに救われた気がします。ジンが経験を積めば、完全状態の私でも場合によってはどうなるか分かりません。ぞっとしませんね・・・」

と、丁度良いタイミングで衛宮達も終わったようだ。

「取りあえず使えそうな宝具は大抵覚えさせたぞ凛。未熟者は未熟者なりに頑張れるかと思ったが、どうも期待外れだったようだ。中の下。せめて中の中にまで精度を上げて貰いたかったのだがな・・・」

「てめぇ・・・あの・・・宝具の・・・群れを・・・連続で投影させておいて・・・・・・言うことはそれか・・・」

「何言ってるのよ士郎、どうせいつか覚える宝具じゃない。それくらいでへばっててどうすんのよ」

「遠坂・・・お前は・・・あの剣群を・・・見て、いなかったから、そんな悠長・・・に言えるん・・・だぞ・・・?」

ぜーはーぜーはーと、42.195kmを一気に1往復してきたかのように衛宮は死にかけていた。

「あ〜、衛宮お疲れさん。ほい、水とタオル。あ、台所からてきとーにコップ使わせて貰ったから」

「さ・・・サンキュ七枷。別に構わないぞ。ゴクゴクゴク・・・ぷはー!生き返った!・・・うぅ、ちゃんと労ってくれるのはお前だけだ」

まぁ、今のところシロート同然なオレ達ですから。助け合いましょうってことで。あ、でも薔薇族は勘弁な?

「オレにそんな趣味は無いぞ」

うん、当然オレもだ。つか、薔薇も百合も帰れって思ってる人種だ、安心しろ。




ステータス情報を更新しました。



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