「良し、これで戦力はある程度整った。明日はキャスターの説得を優先して進めていこう。可能性は低いだろうけど、もし結界が発動したらライダーを最優先に変更するって事で」

「でも、本当に大丈夫なの?キャスターの真名って、あの裏切りの魔女メディアなんでしょ?説得以前に信用出来るかしら・・・」

「あの人はこっちがちゃんと信頼すればちゃんと信頼で返してくれるよ。裏切らなければ大丈夫だし、葛木先生との生活を邪魔しなければちんまい少女に純白のドレスを着せたがる一般的な若奥様だから」

「・・・・・・それは一般的って言えるのか七枷?」

「・・・・・・言えんね」

「・・・・・・激しく不安になってきたんだけど、そう思ってるのって私だけ?」

今度は、3人揃って頭を抱える絶妙なトライアングルが完成した。

「と、とにかくだ!その予定で行くって事でヨロシク。今日は時間も時間だし、そろそろ寝よう。衛宮もまた鍛錬とか言うなよ?もうグダグダなんだから」

「流石に、あれだけやって更にっていうのはオレも勘弁だってば。今日は大人しく休む事にするよ」

まぁ、そうだろうな。オレも結構限界まで魔力使ったし、すげぇ眠い・・・。

「さて、じゃあそろそろお休みなさいって事で「待って頂きたい」―――?」

ビシ!っと、左手を突き出して静止を呼びかける金髪美少女。セイバーだ。

「いえ、シロウ達は別に構いません。―――ジン、忘れて貰っては困る。この後貴方には食に関しての講義があると言ったではありませんか」

―――。あ〜、そう言えばそんな事言ってたような・・・。

「い、いやあのさセイバー、今日はもう遅いし明日以降って事にs「さぁ、では早速居間で講義を始めましょう」・・・ぐえっ」

と言ってキラーン☆と目が光ったかと思うや否や、猫の首根っこを持つようにオレのセーターを引っ掴んでずるずる引き摺っていく。・・・ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜♪強制〜連〜行〜♪

「―――さらばだ、食の拷問を抱いて溺死しろ」

「あまり遅くまでやらないようにね〜・・・ふわぁぁ・・・」

「・・・・・・(合掌)」

ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜♪・・・全〜員放〜置〜♪(涙声)




「良いですかジン?兵の士気とはカリスマだけでは成り立ちません。まず行動にかかるにはカロリーを消費します。そのカロリーの摂取は当然食事です!食事の美味い不味いによって士気の向上は大きく左右され、行動を起こす起爆剤としての大小も左右されるのです。このグラフがその理論を大きく証明―――」

マシンガンの如く喋りまくる目の前の講師。何故か遠坂の伊達めがねを借りて、しかもホワイトボードまで出し、円グラフと棒グラフを書いて指し示し棒でそれをパシパシ叩いて強調してくる始末。・・・今まで辿ってきた世界で円と棒グラフの概念を勉強してきたのだろうか・・・?
ていうか、ホワイトボード云々は弓兵が作ったバッタモンである。あのヤロウ、オレに対する嫌がらせか?きっと屋根の上でニヤニヤしているに違いない。・・・いつかヌッ殺ス。

「ジン?聞いてますか?」

・・・・・・こく、こく。

「そうですか、なら良いのですが・・・。さて、話が逸れましたが次に国の繁栄の章について―――」

段々頭が真っ白になっていく。眠気とある意味トラウマになりそうな、プチ狂気じみた講義で。あ゛ぁぁ〜・・・爺ちゃんが〜・・・小3の頃に肺ガンでしんじゃったへびーすもーかーだったじいちゃんが〜〜〜・・・・・・


「逃げて〜〜〜!!!」


「・・・・・・?何から逃げるのですか、ジン?」


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。・・・2月3日が、終わる。でも当然講義は終わらなかった・・・。






『Fate/The impossible world』






2月4日(水)。
・・・ねむぃ。全く・・・人を午前3時越えるまで起こすなと言う。折角最高な6時間以上睡眠を満喫出来るかと思ったのに・・・。目が覚めれば結局3時間も眠れない泡沫の夢見ですた・・・か。

つーか、脳内思考がReActの七夜臭くなってしまっている。本家の格好良さが台無しだ。あ、七夜って言えばさ、カデンツァでアーケードに出ても微妙に弱くて悲しいよね?カッコイイのに。後、ワラキアとか紅摩とか使ってハメどったり空かし投げしまくったりするヤツは死ねば良いとオレは思う。脳内思考がグダグダでどうでもいいな・・・。ふと、客間の時計を見ると6時半を越えていた。・・・そろそろメシか・・・。

「お゛はよ〜・・・」

「おう七枷おはよう〜。大分眠そうだな」

「あぁ、どっかの誰かさん達はぐっすりと6時間は眠れてたようですけどね・・・」

「う・・・。あ〜いや、その・・・すまん、あればかりはオレには合掌する以外どうしようも無くて」

「はは、そんなマジレスせんでええって。オレも逆の立場なら同じ事してる。多分」

台所には衛宮が居て―――

「おはようございます、ジン」

「ようやくお目覚めか七枷陣。たかが2時間と20分程度の睡眠でその体たらくはどうかと思うがね」

―――居間にはアーチャーとセイバーが居た。

「ふわぁ〜・・・おふぁよ〜、セイバー。・・・んんっ!それと黙れそこの黒マッチョ。少し喋るな。つか、あのホワイトボード云々はぜってー嫌がらせだろ、そうだろ?な?」

「ククク・・・いや?私はセイバーから要望を聞いて、それに見合ったものを適当に投影しただけで、他意など無いのだが?」

「・・・・・・ぜってーいつか目にもの見せてくれる・・・」

「一生涯実現しない事を口にするものではないな・・・。そこの小僧のように抱いたまま溺死してしまうぞ?」

バチバチバチ。

「お゛はよ゛〜・・・士郎牛乳ある〜?」

「七枷もアーチャーも朝っぱらから喧嘩するなよ・・・。ほれ遠坂、牛乳」

「それよりもシロウ、今朝のご飯はまだですか?」

「あぁはいはい、今作ってるからちょっと待っててくれセイバー」





まぁ、いつもの風景に成りつつある今日の食卓を済ませ、セイバーを引き連れて学園に到着。結界特有のあのクソ甘さはやはりあるものの、昨日に比べれば全然マシだった。

「まぁ、これで暫くは大丈夫かな?」

「いや、安心するのは早いかもしれないぞ衛宮。あのヘタレの事だ、後先考えずに発動する事は充分あり得る」

「陣の言う通りね、慎二って脳内思考がガキんちょそのものだし」

「警戒するのに越したことはありません。あのシンジなのですから」

「・・・辛口だな3人共」

「「「おまい(アンタ)(シロウ)が甘すぎるの(よ)(です)」」」

「・・・・・・すみません」

「さて、じゃあセイバーは裏の林で暫く待機って事で。何か起きたら・・・っていっても、結界が発動するくらいだけど、そうなったら直ぐに衛宮の所へ急行してくれな」

「えぇ、分かってますジン。それに昼食のお弁当も常備しています、待機行動にかかる準備に手抜かりはありません」

・・・一言突っ込みたいが、何も言うまい。本人が良ければそれでいい。あ、突っ込んだ後の出来事が怖いってわけじゃないんだぞ?・・・ほ、ホントだよ?

そして、セイバーと別れて運動場を横切り、下駄箱の辺りまでやってきた。

「じゃ、昼休みに屋上で今後をもっと詳しく話し合う事にしよう」

「おう、分かった。じゃあな七枷、遠坂」

「また後でね、士郎」





そして、3人は校舎の中へ消えていった。だが、3人は気付いていない。




『―――――アイツらっ!』




陣達の声こそその人物に聞かれていなかったものの、その楽しそうな光景を遠目から見ていた、とある男子の姿など。






「であるから、ここの関数、x=3a+2yの対角線上にある―――」

やべぇ。朝のやり取りで多少脳内麻薬出て持ち直したと思ったのに、もう切れちまった。・・・先生、シ○ブが欲しいです。―――ごめん、めっちゃ嘘。オレ中毒者じゃないし。取りあえず『ダメ、絶対』ですよ?
いかん・・・思考能力までまたグダグダだ。・・・うん、寝るか。授業つまらんし。

書き書き・・・。ポイ。後ろの席にメモを投げる。

『ごめ、めっちゃ眠いから寝る。昼休みになったら起こして欲しい』

サラサラ・・・。ポト。

『しょうがないわね〜・・・。先生に気付かれて怒られても私知らないからね?』

もう書くのもめんどいので、親指と人差し指で輪っかを作ってOKのサインを出してこくこく頷いた。

「おやすみなさい・・・」

ぐー。








「―――――ン」

・・・・・・むぅ〜?

「ジ―――――」

・・・・・・にゅ〜・・・・・・。

「ジ――――ン」

「陣―――陣?」

「・・・・・・ふわぁ〜」

あ〜、よく寝た。・・・ん?何故にオレの席が教室のど真ん中に移動してるの?それに他の生徒が誰もいない・・・。

「おはよう陣、よく眠ってたようね」

と、後ろから聞き慣れた声。遠坂だった。

「んぁ・・・おはよ〜遠坂さん。・・・ん〜!よく寝た。もう昼休―――」

と、後ろを振り向くと―――



窓の外の夕日をバックに、遠坂が机に座って片足を乗っけて、にこりと微笑んでいた。そう、あの凛ルートのtrueEDの最後のCGのように。

「―――み?」

って、夕日?

「―――――あ゛!」

て事はもう放課後!?

「ちょ、ちょっと遠坂さん、昼休みには起こしてって言うたやんか!衛宮と話し合いなのにオレすっぽかしてもーたや「いいじゃない、そんな事」―――は?」

ふわり、と机から降りて遠坂が近付いてくる。

「七枷君の寝顔可愛いから、つい見とれてたのよ」

・・・・・・。なんつーか、いつもの遠坂と大分かけ離れてるぞ?敢えて言うなら・・・そう、デレっとしてる。まぁ、ホロウに出て来た3年後・・・この世界じゃ4年か?のやつには流石に負けてるが。

「―――ねぇ、陣」

と、いつの間にか目の前に遠坂。で、


―――ドサッ。


押し倒されますた。

「ちょ、ちょっと遠坂さん一体何を―――」






「―――えっち、しよ?」






「・・・・・・。はい?」

イキナリナニヲイイダスノダコイツハ?遠坂は潤んだ瞳でこう言った。えっちしよ?えっち・・・エッチ・・・H。




―――――えぇぇぇぇ!?




「ちょ、なななな何を言い出すの遠坂さん!?ていうか脈絡もへったくれも無いですよ!?」

「陣は、私のこと―――嫌い?」

「いや、別に、あの・・・嫌いって訳じゃないけど・・・」

「だったらねぇ、ほら・・・キス、しよ。勿論、それから続いて最後まで・・・・・・ね?」

キス、きす・・・。俗語でA。そして順序よくB、C・・・と続けようと仰ってる。

「まままま、待って遠坂さん!いきなりそんなのおかしいっしょ!誰か来たらどうするつもり!?つーか、第一オレまだ未経験・・・っっって、暴露ってどうするオレ!」

「誰もこんなとこに来ないわよ。・・・それにいいじゃない、好都合よ・・・陣のハジメテ全部私が貰えるのって、凄く嬉しいし・・・」

す・・・・・・っと、遠坂の顔が近付いてくる。オレの顔と、重なろうと・・・している。

「陣・・・・・・」

「遠・・・坂・・・さん・・・」

いや、でもやっぱり最後までってのはよろしくない!その・・・Bまでなら・・・良いかもしんないと思わない事もない・・・・・・かも・・・・・・。

そうして、遠坂との距離はほぼゼロになり、当然のように口づけようとした刹那、頭の中が真っ白に染まった。




―――――側頭部に染み渡る、激痛と共に。




Interlude-1

四時間目。国語教師の授業もそろそろ終盤にさしかかり、もうすぐ昼休みのチャイムも鳴る。

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪

鳴った。みんなの気が緩んでわいわいがやがやと騒がしくなり始める。そして、その時間がやってくるのを狙い澄ましたかのように、それは展開された。



―――――グォォン!!!



世界を紅く染める、溶解の空間が。瞬間、教室内にいた全員がほぼ同時に倒れた。・・・基点を潰していたのがせめてのもの救いだった。昨日の今日だから、どんなに病弱な人間でも溶け始めるのに30分はかかるだろう。溶かしきるなら、その3倍って所か。

他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)・・・・・・!」

バカだバカだとは思ってたけど、本当に即発動するなんて・・・・・・あの慎二(バカ)

「アーチャー、いる!?」

『言いたいことなら分かっている。校舎内を捜索して間桐慎二を見つけろ。・・・だろう?もうやっている』

頭の中で念話が聞こえた。よし、言う前にやってくれる空気の読めるサーヴァントで助かった。・・・偶にムカツク物言いするけど。

『分かったわ、見つけたら直ぐに知らせて!私は陣を起こして衛宮君達と合流するから!』

『了解した、マスター』


さぁ、早速この寝坊助を起こさないと。

「七枷君、起きて!結界が発動したわよ!」

「むぅ・・・う゛ぅ〜ん゛・・・」

「ほら、寝てる場合じゃないってば!起・き・な・さ・い〜!」

ゆさゆさゆさ!だが、陣は起きない。もう、このクソ忙しいって時にコイツと来たら・・・!

「いい加減にしないとガンドるわよ「遠・・・坂・・・・・・さん」・・・って、陣?」

何だ、起きてるんじゃないか。全く、ふざけるのも大概にして欲しいわねもう。

「ダメ・・・・・・誰か来たら・・・どぅ・・・す・・・・・・の」

・・・?まさか今の寝言?ってゆーか、何やら変な夢を見ていないかコイツ?取りあえず結界に関しては当面直ぐに危険はないので、少し様子を見ることにした。

「・・・別に・・・って訳じゃ・・・な・・・けど」

?よく聞き取りにくい。どういう訳じゃない・・・?

「それ・・・に、オレま・・・だ未経・・・験だ・・・・・・し」

何が未経験なんだ?・・・・・・車の運転とか飲酒?いや、彼は20越えてるからその線は薄い筈だし・・・。

「最後までは・・・流石に・・・でも、Bくらいまで・・・なら・・・・・・」

・・・・・・B?・・・最後まで?と言ったかと思ったら、『ん〜・・・』と、唇を少し窄めて突き出す七枷陣。



その時、遠坂凛に電流走る。そして1ヶ月程前に(立ち読みで)読んだ女性ティーン向け雑誌に書いてあった、少しアダルティな記事を思い出す。

「(・・・・・・まさかっ!)」

記事の要点だけを検索。・・・検索・・・検索。該当1件。俗語の一覧を脳内で表に変換してまとめた。詳細は下記参照。

A=ちゅー
B=もみもみ
C=にゃんにゃん
D=理解不能

で、先程の七枷陣の文言を全てリピート。なるほど、この寝言と一覧は関連づけれられる。というか、確定?
そして、自分の名前が出たと言うことは―――――

「―――――。・・・・・・っ!?(ボン!)」

瞬間湯沸かし器発動。つまりは、そう言うこと。



そして理解した瞬間、目の前で幸せそうに眠りこけている死刑囚(ななかせじん)の右側頭部に、左フリッカー大好きっ子なゲジ眉毛のボクサーもビックリの打ち下ろしの右(チョッピング・ライト)を執行している自分が居た―――。




―――ドゴッ!!




Interlude-1 out





「※■○×■△×※っ!?!?」

目が覚めた。脳挫傷起こしてるんじゃね?ってな感じの痛みが直ぐ横から直で脳に伝わる。

「・・・な・・・何やねん一体・・・・・・痛ぅあ〜〜。むぅ、助かったような残念だったような・・・。つーか、もうあそこまで行ったらもう行く所まで行っちまえって思わないでも―――」


「行く所までって、何処までなのかしら七枷君?随分と良い夢見のようでしたけど?」


ドゴゴゴゴゴ・・・。

「ひぃっ!?ととと・・・遠坂さん!?今度は本物・・・?」

つーか、この真紅に染まっためっさつオーラが偽物なわけない。その証拠に教室全体が真っ赤な色に染まって―――

「って、結界―――!?」

「・・・っと、また大きく脱線する所だったわ。そうよ陣、あのバカが発動してくれたようね」

「・・・じゃあ、アレはこの結界の影響って事なのか?そういえば、ライダーは遠坂の姿に化けて衛宮を襲ったエロシーンもあったし、納得が行くかも・・・」

「何ブツブツ言ってるのよ陣?」

「い、いや何でも。でもそれじゃ、学校のみんながもう溶け始めてるって事なのか?い、急がないとみんなが―――」

「落ち着いて陣。基点潰しをした昨日の今日で発動したのよ?まだ暫くはみんなも持つわ。大体30分ってとこね、溶け始めるのは」

それでも悠長にしていられる時間じゃ無い・・・か。

「とにかくアーチャーが慎二を捜してる間に士郎と合流して『―――凛』・・・!見つけた、アーチャー?」

『あぁ、間桐慎二は屋上に陣取っている。周りにはいないようだが、恐らくライダーも傍に控えているだろう』

「分かった、直ぐにそっちへ向かうわ―――陣!慎二は屋上よ、士郎を捕まえたらそのまま直行!オーケー?」

「おう、じゃあ早速「遠坂!七枷!無事か!?」―――向かうまでもなかったか」

ナイスタイミングだ衛宮。セイバーも一緒にいる。役者は揃った、後は屋上(ぶたい)へ上がるのみって事だ。

「よし、じゃあ慎二にはとっとと退場して貰うとしますか」

サーヴァントが2人がかりならライダーも比較的楽に拘束できるだろう。オレがセイバー達を栄光の頌歌(アンセム)とかで援護すれば更に状況は盤石になるし。その後は、事情を説明して何とか協力を頼む・・・と。こちらは桜の事を助けようと模索している事をきちんと伝えれば、少なくとも邪魔をしたりはしなくなる・・・筈。


「そうですね、シンジには目にものを見せる必要がありますので」


ふふふ・・・と、セイバーが何か凄みを効かせた声を捻り出してきた。・・・あ〜、また何か地雷を踏んだ悪寒がする・・・。そして、頼みもしない・・・って言うか、聞きたくないのにセイバーは勝手に述懐し始めた。




Interlude-2

校舎裏の林の中に、1つの違和有り。1.5m四方の携帯ビニールシートを敷き、自宅道場と同じように目を閉じ、座して時を待つ少女。セイバーがそこにいた。

「―――――」

厳かに正座をし、枯れ葉が微かに舞い散る寂れた空間で何を想うのか?生前―――というのはかなりの語弊なのだが―――に過ごした小さな頃の日常。件の剣を手に取り、『私はみんなを幸せにする王さまになる』と、かの魔法使いに伝えたあの時。倒すために、非人道的な所行を無表情の仮面を被り、罵倒を受けてでも執行したある戦場。そして最後の戦い、もはやこれまでと博識な忠義の騎士(サー・ペディヴィエール)に剣を泉に返すように命じ、3度も命に背かせた、最後の己の不義。あるいは、その全てか。それとも誰にも知ることの無い何かを彼女は想―――






―――くぅ〜。






・・・分かっていた。分かってはいた。厳かな文言で誤魔化せれば何でもよかった。今では反省している。何故分かっていたかと言うと―――

「お腹が空きました・・・」

目を開けちらり、とセイバーは視線を下げる。膝の上には布に包まれた長方形の箱。高さから察するに2段ほどはある。その名を、弁当箱という。それがその場にあるのだ、他に何を想像しろというのだ。その光景を見て、別の事を想像出来る人間がいるのならば、賞賛に値する。寧ろ、眼科か脳外科辺りに行くことをお勧めする。
それ以前に、厳かな雰囲気を何とか維持して持っていこうと努力して文面を紡いだのに、たったひと鳴きの声で全てを台無しにされた(モノローグ)に謝れ。


「しかし、今はまだ四時間目。・・・お昼休みまで後少しの辛抱です。もう少し、もう少しで・・・・・・はっ!」

またも直感使用。包みを開け、弁当を展開して準備完了。

き〜んk

「頂きます」

時刻到達と同時に食事開始。もはや何も言うまい・・・。

「ほう、一品のみの手数多めなおかずですね。色々楽しめそうです」

量は少ないが、種類の豊富なおかずにセイバーは満足気だ。ぱくぱくと食べて行こうとして―――


―――――グォォン!!!


「なっ!?」

結界が作動した。食事モードから一気に戦闘モードへ切り替える。この辺は腐ってもサーヴァント、公私混同はしない所は流石といった所か。

「―――っ!?!?」

しかし、いきなりの結界発動に一瞬手元が狂ってしまったようだ。おかずの中でも特に期待に胸をときめかせていた、1個しかない鶏肉の竜田揚げを地面に落としてしまっていた。

「そんな―――」

がくり、とセイバーは崩れ落ちた。

「・・・これほどまでの落胆など、王の時代にでさえ指を数本折るくらいにしか無い。私の―――竜田揚げが・・・」

後悔の時間はそこまで。過ぎれば一気に反転、怨恨の時間に切り替わる。



「・・・シンジ、やってくれましたね。よくも私の竜田揚げを―――」



メラメラメラ。

「ふ―――ふふ、ふふふふふ」

それでも残りの弁当は残さず神速で食べきり、壊れた音声付き電動人形の如く無機質な笑い声と共に、セイバーは俯きながら疾駆する。校舎内にいる我がマスターの元へ向かうため。更に言うなら、我が食事を邪魔した不埒者をめっさつせんが為に。


・・・あ、ちなみに言うまでもない事だが、公私混同はしないという発言はとうの昔に撤回済みである。




Interlude-2 out




「「「―――――」」」

遠坂、衛宮、オレ。俯きながらその状況を呟くセイバーを見て、苦い顔で沈黙・・・・・・するしかなかった。

「さぁ行きましょうシロウ!早くライダーを拿捕し、シンジを・・・シンジを・・・っ!―――ふふふ」

あ〜・・・その、何だ・・・。今回は取りあえず食べ物の恨みは末恐ろしいってオチだよ、うん。
・・・戦闘後に、セイバーに『平和な心』でもエンチャントさせて大人しくさせるべきだな。
いや、お仕置きを邪魔するって事だから、敵と認識されて対魔力を発動させられるか?
悪い間桐慎二、多分今日がお前の命日っぽい。恨むなら空気を読めないお前の厨っぷりを恨んで欲しい。
取りあえず、前払いって事で―――――合掌。


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