タッタッタッタッタ・・・!
駆け上がる。駆け上がる。この場所で、最も高い所に位置する殺害空間へ、オレと頼りがいのある仲間達は上り詰めて行く。舞台は既に真っ赤に染まり、先走って開演してしまっている。焦りすぎだ、ヤりたい盛りでもあるまいに・・・と内心『ちっ』と舌打ちする。
取りあえずライダーの姿が見えないというので、セイバーを最前列にして衛宮、オレ、遠坂の順。アーチャーは既に霊体化状態で屋上の外で待機。まぁ、ライダーには見られてるだろうが、霊体化すれば向こうも手出し出来ないから構わないだろう。

「セイバー、ライダーの姿が見えないってことは、オレ達が出て来た瞬間騎英の手綱(ベルレフォーン)なんて事もあり得るかも知れないから、気を付けて。もし来たらオレに任せて貰えばいい」

「何か策があるのですか、ジン?」

「まぁね、一応直ぐに打てるように回路も詠唱も起動して待機状態にしてるから」

多分、このカードなら予想通りに言ってくれるとは思うけど・・・。でも対象が宝具だからなぁ・・・・・・上手く行きますように。

バン!

扉を開けて、オレ達は外へ躍り出た。―――瞬間、



騎英の(ベルレ)―――」



「ってある意味的な期待を裏切らないねあの慎二(ワカメ)!!どいて、セイバー、衛宮!!」



手綱(フォーン)―――!!!」



屋上の給水塔からいきなり流星が流れ出てくる。一呼吸、いや瞬き1つですら行った瞬間に、ソレはオレ達を問答無用で吹き飛ばすだろう。だが、当然そのままやらせる気など毛頭ない!


「―――こっのぉぉぉあぁぁ!!」


最前列に躍り出て、そのカードを流星に向かって突き出す。少し頼りない薄い皮膜が目の前に展開し、その貧弱そうな見た目とは裏腹に目の前にいる暴力を食い止めてくれている・・・!

「くっ!お、重っ!?と、取りあえず・・・上へ行けってーの!!」

ギャイィィィン!!!
強制的に流星の直線へ突撃していく軌道をねじ曲げて、真上に弾く。
宝具を無理矢理軌道修正させるという荒技をこなしたそのカードの名は、『偏向』と言った。

「はぁ・・・はぁ・・・。あのアホ、ホンマにやりやがった・・・。屋上階段ごと吹っ飛ばす気だったんか?怖っ」

「やるじゃない陣、そんな口聞けるくらいならまだまだ大丈夫よ」

「出来るならオレが何とかしたかったけど、ホント便利だよな七枷の能力」

お前らね、後ろで見てただけだからそんな悠長な事言ってられるんですよ?あのウェイ○ライダー突撃みたいなの最前列&真正面で見てみろと小一時間だ。怖いんですよ、マジに。偏向がちゃんと宝具にも対応してたから良かったものの、もし対象外だったら今頃デッドエンドる事になってたって分かってるのかな・・・。



「へぇ、ライダーの宝具を曲げさせるなんて、中々面白いじゃないか。どっちのサーヴァントの宝具なんだい衛宮、遠坂?」



まばゆい光が徐々に薄れて行き、屋上のど真ん中に突っ立っているその姿が見えた。

「間桐、慎二・・・」

ニヤニヤした表情で片手に本を持っている男子学生、間桐慎二だった。

「いきなりご挨拶ね慎二、私達が出て来た瞬間即宝具?いいわ、その喧嘩買ってやろうじゃない」

「慎二、お前・・・!」

まぁ当然の如く、遠坂も衛宮もカンカンだ。―――無論、オレもだが。

「・・・あぁ?何で七枷までいるわけ?ライダー、何で一般人が動いてるんだよ。お前の結界なら全部動けなくなるんだろ?」

と、ペガサスに乗ったライダーが上空から飛び降りて、慎二の傍に降り立つ。

「一般人?・・・どういうことでしょうか慎二、彼は―――」


具現魔術、起動(スタンディンバイ)

ライダーが問う前に、形成、付与、刻印、精錬、詐称。そして発動・・・っと。

「『ショック』」

雷撃を慎二へ撃ち放つ。

「ひ・・・ひぃっ!?」

ギュイン!
が、当然傍にライダーがいるので当たることは無い。ライダーの対魔力はB。慎二の前に出てショックをかき消す。

「こういう事。あ〜、つい先日、オレ魔術使えるようになったもんで」

飄々と、オレは慎二にそう宣ってやった。

「さて、早々に悪いんだけど、ちゃっちゃと大人しく縛についてもらおうか慎二?」

「そうです、大人しくした方が身の為ですよシンジ」

ずい、っとセイバーが一歩前に出て慎二を威嚇する。流石に王様だ、威風堂々として脅す様も堂に入っている。良いぞセイバー、もっと言ってやれ。



「そして、使命を全うできずに果てて逝った私の竜田揚げ(せんゆう)の無念をその身に受け、己の罪深さを悔い改めなさい!」



んで、シリアスな雰囲気が全て台無しになりました・・・っと。ていうか、ネタ引っ張りすぎだろ。くどく思われても知らねーぞ、オレは。






『Fate/The impossible world』






「・・・戦友?何の話か分かんないけど、僕にとっちゃどうでもいいねそんなの」

このワカメ、火にガソリンをぶっかけるような事を平然と・・・!

「・・・・・・いいでしょう、そちらがその気ならば、こちらも容赦はしない」

ゴゴゴゴゴ・・・。

「セ、セイバー?殺すのはダメだぞ、殺すのは」

「分かっていますジン、捕獲すれば良いのでしょう?で、生死は問わない・・・でしたよね?」

「オレの言った事理解してねぇ〜!つか、生死問わず(デッドオアアライブ)だなんて一言も!?取りあえず、生存一本の方向で是非おながいします」

いつものアレも程々に、ようやく冷静に慎二と対峙する。

「・・・・・・何だよ、そんな無茶苦茶あって良いわけないだろう。何でお前みたいな冴えないヤツが魔術を身に着けてんだよ!何でこの僕じゃ無いわけ!?このマキリの後継者であるこの僕が魔術を持つべきなのに!」

まるで駄々っ子だ。キィーキィーとまぁ煩い・・・。

「ちくしょうちくしょうちくしょう!大体お前ら3人が、朝からのほほんと仲良くご登校してやがる所から気に食わなかったんだよ!遠坂、お前聖杯戦争中だってのに、落ちこぼれの衛宮にパンピーの七枷と暢気によろしくやりやがって!僕の誘いなんて悉く断ったくせに!」

ダンダンダン!と地団駄を踏む慎二。

「ライダー!こいつら全員嬲り殺しにしてしまえ!瞬殺だ瞬殺!!」

「嬲り殺しと瞬殺は時間的に相反しているんだけどな」

「うるさいぞ七枷!決めたぞライダー、あいつから殺せ!」

瞬間、オレ目がけてライダーが釘剣を投擲した。それは弾丸の如き速さでオレの顔を穿たんとするが、


ヒュ―――ガキン!


「甘いぞライダー、私がそんな攻撃を見逃すとでも思ったか?」

精密で正確な射撃が、釘剣の軌道を逸らした。給水塔の上に陣取っていたアーチャーが援護してくれたようだ。

「あ、あんがとアーチャー。助かった」

「全く、気が緩み過ぎているな七枷陣。挑発はそれなりに力が持っている者が行うものだ、貴様がすればそれは単に殺してくださいと依頼しているようなものだぞ」

「・・・素直に感謝したったのに言う言葉はそれかい」

「フン」

「何やってるんだよライダー!アーチャー程度の攻撃に邪魔されてるんじゃない!さっさとやれよ!!」

と、今度は接近戦をけしかけて来るライダー。

「セイバー、行ってくれ!」

「分かってます、シロウ!」

「アーチャー!セイバーと連携取って!」

「心得ている」

不可視の剣を持つセイバーと双剣に持ち替えたアーチャーが同時にライダーへと肉迫する。2対1で、しかも能力の低い状態のライダー相手なら直ぐに決着も付くだろう。

「やあああっ!」

「おおおぉぉっ!」

「・・・・・・っ!」

しかし、圧倒的不利であるはずなのに、ライダーは当然押し返せるわけは無いのだが、かと言って押されているわけでもない。セイバーとアーチャーの2人がかりなのにも関わらず・・・だ。主に、まともに剣戟を交わさずにトリッキー且つ素早い動きで避け、対応しきれないものを釘剣で軌道を逸らせる。そんな感じの。




「・・・・・・妙ね」

「え?」

「何がだ、遠坂?」

「・・・拮抗している時間が長すぎる。1分は続いてるわよあの堂々巡り。いくらなんでも、そろそろ向こうが崩れても良いはずよ。ていうか、能力の落ちてるライダーが何で2人がかりでまだ倒れないのか不思議だわ・・・」

そう言えば・・・確かに。マスターが慎二ならば、現状でライダーの能力は大分低い筈だ。数値通りに進まないとしても、抵抗している時間が長い・・・長すぎる。

「・・・ん」

じ・・・っと集中してライダーの能力を見てみる。



ライダー
真名:メドゥーサ
マスター:間桐慎二
筋力B   魔力B
耐久D   幸運D
敏捷A   宝具A+



―――は?

「ちょ・・・おいおいおい」

「どうしたんだ七枷?」

「・・・ライダーの能力が本来のものになってるぞ」

「なんですって・・・!」

どういう事だ?慎二がマスターなら、筋力・耐久・敏捷の3つは1ランク下がってる筈なのに。

「何で・・・って、そうか結界の影響―――っ!」

発動した結界内に居る人間の精気をライダーが吸収している。そうだとすれば能力の上昇も納得が行く。溶け始めてはいたんだ、実際には。基点を潰して吸収量が極端に下がっただけで、少しずつ吸い上げていた。学園の生徒数はよく知らないけど、数百単位の人間の精気を徐々にでも吸い上げればそれなりの量になる筈。塵も積もれば山・・・って事か。

「面倒ね、セイバーは本調子じゃないし、アーチャーはそれほど敏捷高くないからライダーに結構避けられてるし・・・」

「仕方ない、オレが栄光の頌歌で援護を―――」


ギュゥゥン!!


と、いきなり地面を這う紫色の波がオレ達を襲った。

「うわっ!?」

「きゃっ!」

「くおっ・・・!」

直撃する寸前に、オレ達は何とか真横へ飛び退いて回避する。

「余所見してんじゃないよお前ら。この僕の魔術で蹴散らしてやる!」

「・・・ちっ!」

ふざけるな、その魔術も元々桜の魔力を無理に吸い出して出しただけだろうが。第一、今の攻撃は魔力そのものを何の変換もせずにぶつけてきた、単なる魔力波みたいなものだ。魔術なんて呼べる代物じゃない。

「――――Anfang(セット)Fixierung,EileSalve(狙え、一斉射撃)―――!」

投影、開始(トレース オン)!・・・でやあああ!!」

遠坂が援護射撃をして、衛宮が干将・莫耶を投影して突っ込む。・・・まぁ、刃は返して峰打ち状態にしてるのは言うまでも無いが。

「死んじゃえよ衛宮!!」

慎二は強く本を握りしめ、また魔力波を連続で繰り出す。合計6本。その内訳として3本はガンドを相殺して、残り3本は衛宮に向かっている。

「くっ!」

魔力波を避けようと衛宮はまた横へ飛ぶ―――

「そのまま突っ込め衛宮!」

のを、オレはさせない。衛宮はオレの言葉を受け取って回避行動を止め、そのまま慎二に突っ込み続ける。

「あははは!バカだね、そのまま食らっちゃいなよ!」


「―――バカはお前だっての」


形成、付与、刻印、精錬、詐称―――!

「『リスティックの盾』よ!!」

青白いオーラが衛宮の目の前に展開される。それは盾を象り、襲い来る紫の波を弾く、弾く、弾く。・・・・・・全て防ぎきった。

「な・・・なんだと!?」

「んな烈○拳モドキ通すかっつーの!衛宮、後は任せたぞ!」

「フォロー助かった、七枷!」

「ひ、ひぃぃ!?」

勢いを付けた衛宮がそのまま慎二へ肉迫する。

「慎二ぃぃ!」

「ら、ライダー僕を助けろ!は、ははは早く!!!」

と、偽臣の書が光り輝くとライダーがセイバー達の攻撃を一瞬でかいくぐって自身のマスターの救出に向かう。

「やばっ!衛宮、ガード!」

「なっ!?」

障害である衛宮を倒さんとライダーが釘剣を投げつける。幸いにも、リスティックの盾はまだ持続しているから、その攻撃の殆どは軽減されたが、それでも衛宮は勢いに負けて後ろへ後退・・・というか、軽く吹き飛ばされた。

「衛宮、怪我は無い?」

「あ、あぁ・・・大丈夫、背中を軽く打っただけだ」

思わずライダーを見据えて『ちっ』と舌打ちした。流石に素早い。セイバー達2人がかりでも抑えきれないのか。

「よ、良し!よく僕を守ったライダー、今度は『アレ』を開放してアイツらを封じ込めてしまえ!」

と慎二が言うと、ライダーが自分の顔を覆う歪な封印に手を掛ける。―――やばい!!

「みんな見るな!!石にされるぞ!!!」




自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)




オレが叫ぶのとほぼ同時に、それは外された。外に晒されたのは、開放した者を見た瞬間視線を合わせずとも対象を石化させてしまう禁忌の魔眼。名を、キュベレイという。

「くそっ!」

だが、その魔眼も予め知っていて尚且つ開放者を見なければ石化は取りあえず免れる。・・・辛うじて、全員目線を合わせずに済んだので助かったが、ライダーに対して殆ど無防備になってしまった。だが、敵に目を向けようものなら問答無用で行動不能にされてしまう。・・・何とも厄介極まりない。

「ぐっ!・・・この程度で私が怯むものか!やああああ!!!」

と、セイバーが単身ライダーに挑んでいく。・・・そう言えば、対魔力と魔力の高さで取りあえずセイバーは石化を免れるんだったっけ。

「このキュベレイを舐めて貰っては困る。第一、やせ我慢も良いところですね。先程とは速さも力強さも無くガタ落ち。・・・見る影も無いですね、セイバー?」

ニヤリ、と不敵に笑みを浮かべてライダーはセイバーと剣戟を再開する。が、魔眼の影響で全能力が1ランクダウンしたセイバーでは、ライダーを拿捕する所かまともに打ち合う事ですら骨が折れる。すぐに劣勢に追いやられてしまう。

「ぐっ!!」

「は・・・はは・・・あはははは!いいぞライダー、衛宮達の殆どを身動き取れなくした事は褒めてやる!さぁ、一気に宝具でトドメを刺してやれ!」

と、その命令通りにセイバーをオレ達のいる方へ弾き飛ばすと同時に、釘剣で首をかき切り、血が噴き出す。その血は、意志があるかのように空中であの歪な魔法陣を浮かび上がらせて―――

「ま、またベルレフォーンを撃つ気なの!?」

「ど、どうする?このままじゃ抵抗出来ずにやられちまうぞ!」

「・・・ちっ!」

「くっ!こうなったら私の剣を開放して―――」

「待って!セイバーの宝具って滅茶苦茶魔力食うんでしょ?本調子じゃないのに打って倒せなかったらお終いよ!」

「しかしそんな事を言って今倒されれば本末転倒です!やはりここは―――」




「セイバー、宝具は使わなくても良いよ。・・・ここもオレが何とかする」




一枚のカードを取り出して、オレはセイバーに待ったをかける。

「し、しかしジン!今度は偏向・・・と言いましたか?あのカードは使えませんよ!魔眼を開放したライダー相手に、貴方が真正面から向き合うのは自殺行為だ!」

「・・・偏向は使わない。取りあえず、これ使えば何とかなるよ一応」

でも、何となくこのカードの特性を感じ取ったオレは、あまりいい気がしない。

「・・・何かこれ使った後でだるい事が起こる予感が満載なのが嫌すぎるけどね」



騎英の(ベルレ)―――」



そうこうするうちに、ライダーがまたベルレフォーンを撃とうとしている。・・・迷ってる暇も無いか・・・っ!

「えぇい、ままよ!・・・・・・『時間停止』!時よ、止まれぇぇ!!」





刹那、時間は・・・・・・止まった。全ての行動物は静止し、動くモノなど一切ない。いや、1つだけ例外があったな。オレこと七枷陣。オレだけは、この静止した時の中を動く事が出来る。

「さて、時間は少ない。さっさとキメにかかろう」

何となく、そう予感する。きっと、止めていられる時間はそう多くない。早く済まさないとオレがやばい。視線を前に向き直して、オレは走る。ライダーの顔が視界に入ったが、如何にキュベレイと言えども、時間が止まってる間は石化効果は発動しない。そのままライダーの横を通り過ぎる。・・・ここまでで5秒。

ズグン!

「―――ぎっ!」

予感は的中した。一気に魔力が持って行かれる。多分、停止状態の維持として5秒ごとに魔力を吸い上げるのだろう。

「急ごう・・・」

急いで歩を進める。・・・オレの目標は、当然マスター。間桐慎二だった。

「このワカメが・・・手こずらせやがって」

取りあえず、にやけ面で止まったままの顔面に思いっきり拳を3発程食らわせる。それからボディ・・・厳密には鳩尾に4発、思いっきり振りかぶった金的1発。後は良く飛ぶようにと、ヤクザキックモドキを3発ほど食らわせる。

「後は・・・これを没収っと」

右手に持っている本を奪って、ミッションコンプリート。・・・そして、ここまでで10秒。

ズグン!

「ぐっ!!―――そして、時は動き出す・・・ってか?」


時間停止を―――――解除、した。


「おぶぎゃぐぅぅぅぅ!!??」

時間を止めていた時の攻撃によって与えたダメージを、慎二は一斉に食らった。面白いくらいに後方へ吹き飛ばされる。

「フォ―――。・・・な!?」

ライダーから驚きの声が上がる。・・・それも当然。ベルレフォーンの魔法陣がかき消され、更には裸眼であった筈の顔にブレーカーゴルゴーンの封印が再度施されていたのだから。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」

息が切れた。予想以上に魔力を持って行かれたようだ。・・・身体がどうしようもなくだるい。でも、休む暇は無い!オレの予想が正しければ―――!


「ライダァァァーー!!!」


奪い取った本を強く握りしめ、オレは叫ぶ。・・・頼む、成功してくれ―――っ!


他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)を解除しろぉぉぉ!!!」





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