こっそりと教室へ戻る途中、そして戻った時もだが、廊下も教室の中も何処も彼処も大混乱だった。
最初に学園の人間全体が昏倒していると気付いたのが、教職員の誰かだったのだろう。先生連中が慌ただしく状況確認に奔走していた。幸いにも、ライダーの結界は不完全も良いところだったから、疲労感や倦怠感を訴える生徒はいるものの、病院送りになる人間は1人もいなかった。
「・・・ではさっきの緊急放送で言った通り、本日は昼休みに起こった原因不明の昏倒騒ぎにより臨時休校とし、はっきりとした原因が判明するまでは休校は維持される。生徒は下校後、可能な限り病院で軽く検査を受けるように。異常が出た場合は学校に連絡を入れ、その旨を伝える事。以上だ。日直、礼を」
きりーつ・・・・・・礼〜。さよーならー・・・。
日直もみんなも疲労度満載なようだ。礼に覇気が無い。まぁ、仕方が無いんだけどね。それに比べて葛木はいつもと同じく淡々としていた。・・・まぁ、元暗殺者なんだ。体力も並々ならぬものがあるんだろう。
何はともあれ、騒ぎにはなったけど被害は最小中の最小に留まった。・・・本当に、良かった。
―――――でだ。いきなり唐突ではありますが―――――
―――――デッキにカードが、ありません。
『Fate/The impossible world』
あぁいや、こう言うともうカード使い切ったの?って思う人もいるだろうけど、そういう事ではない。まだ数十枚残っているから数戦は持つだろう。でも、よく使うであろうレアカード・・・まぁ、栄光の頌歌とかその辺がもう1枚しか残ってないし、色々使えそうなカードも買っておきたい。
備えあれば憂いなしなのである。ちなみに、家にあるカードの殆どは具現が出来ない感覚を感じ取っていたりする。原因は良く分からないが、古すぎるエキスパンションだとそうなるのだろうか?・・・・・・何か、後付けっぽい作為的なモノを感じたりはするが気にしないことにした。
―――――ん?気にしないこと自体が作為的なモノを感じてしまうのはオレだけk
―――リテイク
あぁ〜兎に角だ。具現魔術は遠坂の宝石魔術と同じく消費型なのだ。桁数は3〜4程違う点では、オレの方が絶対的にお手軽なのだが。それでも、今のオレは学生。この世界での貯金なんて数万程度しかない。なんでバイトしてなかったんだこの世界のオレ。と、身勝手な文句を言ってみる。
まぁそれでも、栄光の頌歌は800〜1000円程度で単品売りしてるし、他のレアカードも選別して上手くやりくりすれば貯金の限度額いっぱいまで使うこともないだろう。・・・うん、充分に想定の範囲内だ。
さて、と言うわけでやって参りました新都の一角。駅から少し離れたところに、カードゲーム専門の店がある。大分前の散策で見つけたのだ。店名、『魁!カード塾』。・・・嫌すぎる名前だ。でも、この界隈にあるカードゲーム専門店はここしかないのでしょうがない。
店内には、おっきいヲタくさいお兄ちゃんをメインに、ちょっと羽振りの良さそうなお子様も多く混じっている。広さはそれなり、8割はデュエルスペースで埋まっているようだ。ここは、殆どMTGのカードだけを取り扱っている。ここ最近では遊戯王だのアクエリアンエイジだのが勢力を伸ばす中で、結構珍しかったりする。
まぁ、そんなのはどうでもいい話だ。キョロキョロと、単品売りしている区画を捜そうと視線を回して―――
「ふ〜ん、こういったお店に来るの初めてだけど、案外賑わっているものなのね」
「オレはこういった遊びとは無縁だから、何か場違いな気がするな」
「ほうほう、種類も豊富ですね。一体何枚あるんでしょうか」
「所詮は遊びの範疇だ。しかし、向こうで対戦している人間も様々だな。和気藹々としていたり、何故かは知らぬが殺伐としていたり・・・」
うん、そうなんだ。学校出てここに来るまでの間、敢えて意識的にスルーしてたんだ。でも、そろそろ限界っぽいんだ。仕方なく、物珍しさからかチョロチョロと動いてたり見回したりしている人間に視線を向けた。
「なぁ」
「?何よ陣?」
「・・・何しに来てん?アンタら」
ジト目で問うと、遠坂はしれっとした顔で、
「あら、こそこそとどこかへ行こうとしてたのは七枷君の方じゃない。協力関係とはいえちょっと怪しかったから後を付けていたのよ。・・・って言うのは建前だけど、七枷君のカードとかに前から興味あったしね〜。カード効果とかもっと知って、戦力の把握もしておきたいし」
あはは、とあっけらかんに言う。
「・・・見てても詰まらんと思うけどな」
まぁ、他のユーザーさんに迷惑かけなければ良いか。
「すんません、単品売りのコーナーか、エキパン別のバインダーあります?」
「そっちの小部屋がそうですよ〜」
「あ、ども〜っす」
レジの隣にある小部屋には、各エキスパンションのバインダーがあった。早速広げて見てみる。・・・まずは栄光の頌歌だよな。あれは重宝するし。えっと〜・・・・・・あ、あった。さて、今のところの値段は―――――
――――――――――は?
一緒に貼り付けられている値札を見る。おかしいな・・・・・・急に視力が悪くなったか?
ごしごしごし、と目を擦ってもう一度見直す。いち、じゅう、ひゃく・・・せん・・・・・・?
「は・・・はは、またまたご冗談を」
失笑した。もう一度目を擦って見直す。いち、じゅう、ひゃく・・・・・・せん・・・・・・・・・・・・まん。
11000円。そこには、そう書かれていた。
「高っ!?」
待て待て待て待て待て!何でこんなに高いのか理解不能なんですけど。桁が1個多くないですかと小一時間だ。他のバインダーにあるカードの値段も見てみる。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・閲覧終了。
どうやら、どのカードもオレのいた世界より桁が1個程度違っていた。大体10〜10数倍の値がついている。・・・ってこれマジなのか!?この店のみのぼったくりな気がしてきたぞおい。
「すんません、ちょっと調べたい事あるんでネット使わせて貰っても良いッスか?」
「良いですよ、どうぞ〜」
快く返事を貰ったところで、早速ググってみる。『MTG カード 値段』とキーワードを入れる。値段の基準を公開しているサイトを見てみると、この店の値段とほぼ同じだった。1000円程度上下はしていたが。
「・・・・・・やっぱこれってガチった値段なわけ?」
衝撃の事実!この世界でMTGは、ブルジョアな階級層の人間のお遊びだった・・・!
「って洒落んなんねぇ〜!」
大幅に予定外過ぎる。取りあえず、携帯の簡易電卓で欲しかったカードをピックアップして見積もってみる。11000×4のM+、16000×4のM+、M+、M+、M+、M+、M+・・・・・・・・・。この時点で金額が楽しいことになってるのは言うまでも無かった。怖いが、合計を見よう。ひとまず見よう。
・・・・・・リコール。
( Д ) ゚ ゚
・・・・・・・・・なんだこりゃ。
携帯の液晶にはキッチリと『530000』と出ていた。端数無くてキリが良いね。つか、何この金額。フリーザ様か?
「何やってんの陣って、うわ・・・・・・中々の金額じゃない。こんなお遊びのカードにそれだけのお金かけるなんて、ある意味凄いわね。私は死んでもやらないけど」
液晶を覗き見していた遠坂も、感嘆の声を上げていた。いや、オレも死んでもやりたくないですよ?こんな金額なら。
「でも、陣って意外とお金あったんだ。MTG・・・だっけ?結構な枚数持ってたし」
「―――金なんて無いよ」
「へ?」
きょとん、とする遠坂に、オレは自分の世界でのMTGの値段と、この世界での値段の差を教えた。
「なるほど・・・・・・。バランスって意味では結構正しい在り方ね。あんな凄い魔術に、アンタの世界での価値基準で売ってたら許さないわよ。JA○Oに訴える所だわ、主に私が。まぁ、お互い苦労するわね。金食い虫な魔術で」
フフフ、と仲間を見つけた事が嬉しかったのか、実に楽しそうな笑みを浮かべる遠坂さん。ごめ、ぶっちゃけ殺意沸いた。
「あ゛あ゛ぁぁ・・・それにしてもどうしよう。圧倒的に金が足りん」
10分の1の値段でも結構カツカツなのに、この金額は勘弁してくださいってマジで。どうする?当然かーさんに頼む訳には行かない。事情的にも金銭的にも。いっそ、今回はカード補給は止めに・・・いやいや、しょぼいカードで対抗出来るほどサーヴァントは甘くない。・・・くぅぅ、こうなったら2〜3枚だけだけど、少しでも買ってしまうべきか―――――
ぽん。
ぞくり。肩に手が置かれた。ちらり、と顔を後ろに向ける。
「―――貸すわよ?お金。私がいつも買う宝石の半分くらいの値段だし」
底意地の悪いあくまオーラを振りまく、綺麗な笑顔の遠坂凛嬢がそこにいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くっ」
この感覚は、あれだ。目の前に檻があって、その中に美味そうな餌が吊ってある。だが、食えば確実に退路を断たれる事を分かっている聡いタヌキ。食いたい、でも食えない。そんな中でぐるぐると入り口近辺で回っている。そのジレンマをオレは確かに感じていた。
そして、オレのこんな心理を確実に読みやがった上で、このアマは飄々とこんな事をほざきやがったのである・・・・・・っ!間違いなく!
「――――――――――。オネガイシマス」
しかしまぁ、ものの数秒で籠絡されちゃったんですけどね。もう金額がどれだけふくれ上がっているのか分かりません。一般に借金は、年収の80%を上回るともう返しきるのは絶望的らしい。オレは・・・・・・年収もクソもありません。でも、借金は既に100万単位です。―――笑うしかねぇな、これは。
欲しかったカードをレジに持って行って精算する。ともかく、戦力増強にはなった。借金だらけだけどね。骨も残らない気配が更に濃厚になりましたけどね!ちくしょう。
「さて、じゃあそろそろ衛宮ん家に帰ろうか」
と、周りを見回すが遠坂以外誰もいない。・・・あれ?他の面々は一体何処に―――
「え〜と・・・こ、攻撃宣言です。白騎士と長弓兵、不動の守備兵で攻撃します!」
「白騎士をラノワールのエルフでブロック。後はスルー。う・・・残り2ライフ」
「え〜と・・・私のターンは終了です」
「アンタップ、アップキープ、ドロー。・・・・・・あぅ、投了です」
「お、おぉ!か、勝ってしまいましたシロウ!」
初心者ルールブックを読みつつ、対戦相手の子供に勝ってしまっていたどっかの騎士王が、そこにいた。
・・・・・・あ〜。一体どこから突っ込んで良いものやら。ひとまず、デュエルスペースにいるサーヴァントとそのマスターに近づく。
「取りあえず衛宮、あの王様は何してらっしゃるのか問いたい訳だが」
「お、七枷。買い物はもう良いのか?セイバーが『ちょっとやってみたい』って言ってたから向こうで遊んでるんだ」
「いや、まぁそれは分かるんだけど、デッキはどっから調達したわけ?」
「あそこから借りたんだ」
借りた・・・?衛宮が指差すのはレジの辺り。そこに、
『君もマジックのゲームを体験しよう!1時間1000円で各単色デッキを貸しちゃいます!体験キャンペーン中につき、レンタル金額半額!さらに、各色のカスタマイズも無料でOK! 注:デッキはカラーコピーのカードなので、大会では当然使えないぞ!』
こんな張り紙があった。・・・・・・あれか。1時間1000円・・・まぁ、今日は500円みたいだけど・・・っていうのも、この世界の価値じゃ安いんだろうけど、どうにもぼったくりも良いとこな気がするオレがいる。
「ジン、貴方も見てくれていましたか。私の勇姿を」
「・・・えっと、うん、まぁ」
「ふふふ、このゲームも案外楽に攻略出来ますね。ルールも今の試合で殆ど覚えました。今日は負ける気がしませんよ」
1回勝っただけで増長しまくりですか。ん〜、デッキが分かっていれば対策練りまくったデッキに速攻で負けるって事を教えるべきか―――
「勇ましいですね。じゃあ、今度は僕のお相手をお願いできますか、お姉さん」
と、どっかから声が聞こえた。周りを見回すと声の主はいた。
「―――――ぶっ!!??」
オレは愕然とする。というか、その驚きは必定だった。だって、その声の主は―――
「―――まぁ、今の子は僕の連れなので、その仇討ちといった所ですが」
「―――――ギル〜」
本当なら、大分先に相まみえるであろうと思っていた、かの有名な英雄王(子)だったのだから―――!
「安心してコウタ、ちゃんと代わりにやっつけてあげるから。・・・さて、お姉さん、勝負受けて貰えますか?」
「良いでしょう、どれほどの腕か分かりませんが、勝負を挑まれれば退くわけには行きません」
セイバーは気付かない。ギルガメッシュ・・・以下、子ギルと呼称しよう・・・が受肉しているせいなのか、サーヴァントの気配を誤魔化す宝具を使っているのか分からないが。
何はともあれ、意外過ぎる組み合わせがあろう事かMTGでバトる事になってしまった。
「デッキはエクステンデッドですけど良いですよね?お姉さんも同じみたいですし」
「エクス・・・?何の事か良く分かりませんが、構いません」
「了解です。では僕の先攻ですね。島セット、ターンエンドです」
「私のターン、ドロー。平地をセット、ツンドラ狼を召喚。ターン終了です」
子ギルは青・・・単か?セイバーは、超オーソドックスな白単・・・多分ウィニーだろう。補足すると、ウィニーとは半違法ダ○ソツール・・・の事では当然なく、低コストクリーチャーで高速展開するタイプのデッキという意味である。
「僕のターン、ドロー。島をセット、ターンエンドです」
これで、セイバーは迂闊に重要なモノを出しにくくなった。島2枚アンタップ状態なら、確実にカウンターしますよって言っているようなものだ。
「アンタップ、アップキープ、ドロー。平地をセット、十字軍を場に置きます」
って、おい!いきなりウィニーのキーカードを出すか普通!?
「それは対抗呪文で消させて貰います」
当然、子ギルはにこにこと対抗呪文を使用。
「な・・・そ、そんな事が可能なのですか!?」
・・・そういや、セイバーはまだ1回しかデュエルの経験無いんだったっけ。しかも初戦は緑。青の特性を知るわけもなかったか。
「く・・・・・・ツンドラ狼で攻撃します」
「通します。残り19ライフ」
「ターンエンドです」
「アンタップ、アップキープ、ドロー・・・・・・」
攻防は、セイバーが主導権を握っていた。今は、セイバーのライフはMAXの20。陣地に土地5枚、ツンドラ狼、白騎士、十字軍が各1枚ずつ場にある。幾つかのクリーチャーやエンチャントは対抗呪文やマナ漏出などで消されてはいたが。
対する子ギルのライフは11。陣地には土地が6枚、濃霧の層1枚のみ。・・・何をするつもりなのか分からない。そして、次は子ギルのターン。
「ふふ、どうしましたか?打ち消すだけでは戦いに勝つことは出来ませんよ」
「・・・アンタップ、アップキープ、ドロー。―――――ふふっ」
その時―――――このお子様は笑った。・・・・・・薄ら寒い、悪寒を感じさせる笑みを、浮かべていた。
「島をセット」
引いたのは島。つまり、何かを仕掛けるためのマナが集まったって事か。
「1マナタップ、ハイタイドを使います。これは、ターン終了時までプレイヤーがマナを出す目的で島をタップする度に、更に青が1マナ分加わります」
「―――な!?」
驚くのはオレだけ。セイバーは『ジンは何を驚いているのだろうか?』と言いたそうな訝しげな顔をしていた。セイバーは分かっていない。いや、初心者だから当然なんだけど、青単でこのカードを使うと言うことは・・・・・・!
「島を6つタップ。12マナ引き出しました。では、5青青、計7マナ使って『パリンクロン』を召喚」
やっぱり。これで、セイバーの負けは確定した。
「パリンクロンはフリースペルのクリーチャーです。召喚したら、土地を最大7枚までアンタップします。で、パリンクロンは2青青・・・計4マナ支払うと手札に戻ります。ここで、計11マナを支払うんですが、出したのは12マナ。1マナ分余ります。ここまではOKですか、お姉さん?」
「は、はい・・・」
「では、ここからその行動を省略させて貰います。無限コンボですから。それを繰り返して、1003マナまで引き出します」
「せ、1000さ・・・・・・!?」
ビックリするセイバー。・・・そりゃあねぇ。何に使う気なのか分からないよな。
「3マナを起動コストに、天才のひらめきを発動。お姉さん、デッキからカードを1000枚ドローして下さい」
「あの・・・・・・デッキにはカードは1000枚も無いのですが」
「では、あるだけドローする事になります」
言われるままに、セイバーはデッキの山を全部取った。
「では、これで終了です」
「・・・?え〜と、手札が8枚以上ですから・・・ディスカードステップですね。どれを捨てるべきか・・・」
成る程、セイバーはもう負けている事に気付いていないのか。
「セイバー、君の負けだよ」
「は?何を言っているのですかジン、まだ私のライフは1点も・・・・・・」
「そうじゃなくて、ライブラリーアウトしてるんだってば。自分のドローステップの時に、山からカードがなかったら、試合続行不能となって負けるの」
「そ・・・・・・そんな・・・・・・!」
子ギルを見やるセイバー。子ギルは飄々とした表情でこくり、と頷いてにこにこ笑っている。
「・・・・・・・・・くっ!」
ようやく知った。自分が既に、敗北していた事に。
「も、もう一度です!もう一度勝負を―――!」
「セイバー、白単ウィニーじゃよっぽど自分のカード周りが良くて、相手のカード周りが悪くない限り、ハイタイドデッキには勝てな―――」
「良いですよ。では、3本勝負、2本先取って言う事で」
この子ギル、徹底的に殺るつもりだ。・・・・・・恐ろしい子っ!
で、次戦。
セイバーのライフは相変わらず20。土地は4枚、場には長弓兵、栄光の頌歌、不動の守備兵。・・・実は、殆どカウンターされていなかったりする。子ギルのカード周りが悪いのかそれとも・・・。
子ギルの方はというと、ライフは僅か3。土地は6枚、場には濃霧の層1枚、渡りガラスの使い魔1枚。そして、子ギルの土地は全部タップしてしまっている。実を言うと、渡りガラスを使ってカードをサーチし、濃霧の層を出して、更に神秘の教示者を使って、ハイタイドを指定して公開し、今はデッキの一番上に。次のターンで土地を出して、ドローしたハイタイドを使うようならばもう全て揃っているって事。ジ・エンドだ。
そして、次はセイバーのターン。
「ドロー。・・・・・・!ふ、ふふふ・・・・・・」
セイバーの引いたカード。それは―――!
「ハルマゲドンです!」
ハルマゲドン。全ての土地を破壊するカード。今、子ギルの土地は全てタップしてしまっている。通る、通す、通してみせる!そんな意気込みのセイバーは―――
「―――残念でした、お姉さん」
島を1枚、手札に戻すお子様にしてやられる事になる。
「な・・・何を」
「ピッチスペルです。マナを支払う代わりに、特定の条件を行う事で発動できる呪文もあるんですよ。―――目くらまし」
目くらまし。コストは1青の計2マナ。1マナ支払わなければ呪文を打ち消される。代替コストとして島を1枚手札に戻す事を選んでも良い。・・・それを使うか。セイバーは、ハルマゲドンを使った。コストは3白の計4。・・・場にあるマナを全部使い切っている。
「・・・・・・・・・く」
苦虫を噛み潰した顔で、渋々セイバーはハルマゲドンを墓地へ送る。取りあえず、攻撃はして渡りガラスを倒しターン終了。しかし、次のターン、子ギルの手札から2枚目の濃霧の層が出され、またも攻撃が通らなくなった。
「私のターン。ドロー!」
時間はもう無い。次のターン、土地はきっと7枚になる。それで、終わり。その前に今一度あのカードを。デッキに眠る2枚しかないハルマゲドン。その2枚目を!
「・・・・・・くぅっ!」
が、ダメ。時間が無いのに、こんな時に引いたのは悠長な平地―――!どうにもならない。
「・・・・・・ターン、終了です」
結局、その次のターンに無限コンボを決められ、セイバーはまた負けた。
「く・・・くぅぅ・・・・・・!も、もう一度しょ」
「はい、もう勝負は付いたからそろそろ帰ろうねセイバー。日が暮れてしまうからね〜」
ぐい、っとセイバーの手を引っ張って衛宮に引き渡す。目配せで、『GO』と伝えると、衛宮は苦笑いを浮かべながらセイバーを引っ張って行った。
「ま、待って下さいジン、シロウ!私はまだ戦えます!わたしはまだ、10年は戦え―――――!」
どこの良い物好きのおっさんだ。はいはい、潔く撤収、撤収。
「ジン〜〜、シロウ〜〜!!」
「さぁ、さっさと帰ろう」
「あはは、面白い人達ですね。ありがとうございます、楽しかったです」
子ギルはそう言うと、
「―――――また、お兄さん達に会う事もあると思います。その時には、また遊んで下さいね?」
底冷えする、殺気を伴った声を、オレに浴びせた。
「それじゃ、さよならです。お兄さん。行こう、コウタ」
「うん、ギル〜」
「どうしたの、陣?」
遠坂は何も反応しない。・・・オレだけにやったのか?
「・・・っ!帰ろう、遠坂さん」
「ちょ、ちょっと!」
やはり戦う事になるのだろうけど、かなりやばいな、あのサーヴァントキラーは。
「ふむ、つかの間の開口を使用。デッキをシャッフルし一番上のカードを公開する。・・・燎原の火を発動。そちらのクリーチャーと土地は全滅。更に残ったマナでファイレクシアの処理装置を起動。支払ったライフ8点分のクリーチャートークンを1体生産してターン終りょ」
「何か忘れているなと思えば、やっぱりか。地味に遊んでるんじゃねぇ!つか、フルアーティファクトデッキかよ極端な」
「別に構わんだろう。私が遊ぶのが気に食わんのか?」
「そうは言ってないけど・・・って、デッキのカード全部バッタモンか!第一、ここで消すなここで!」
余談ではあるが、アーチャーの投影したカードを具現化出来るか後で試したが、やはり無理だった。元々魔力で作ったものだからだろう。・・・仮に具現化出来たら、さっきの借金の件で早まった自分を殺したくなるかもしれない。うん、ある意味良かった良かった。
・・・・・・ちっ。