「いっただっきまーす!」
藤村大河の声を皮切りに、いつもの食事が始まる。今日の調理当番は桜のそれは普段通り、セイバーと大河はもぐもぐとひたすらに、アーチャーは士郎の時よりは幾分緩やかに、だが言うべき修正点はちゃんと忠告したり、遠坂は負けただの勝っただのをぶつぶつと、桜はその様子を苦笑いしておかわりをつぎつつ自分の分もちょこちょこと食べ、士郎は士郎でがつがつ食べる人物(主に大河)を諫めながら食を進める。そんな、ここ最近では当然になりつつある光景。
だが、
「―――――」
1人、ほぼ無言で殆ど箸を進めない人間がいた。七枷陣。彼だった。机の一点を見つめ続けて微動だにしない。
「ん、どうした七枷?全然食べてないじゃないか」
「―――――」
「七枷〜?お〜い・・・・・・」
声をかけても返事無し。
「どうしたんでしょう七枷先輩。何か考え事でもしているんでしょうか・・・」
「・・・む、謎は全て解けた!思春期の悩みで食欲不振、これで事件解決ね!ここは私が代わりに、サブ主菜の大根の煮物をゲットォ!ズサーッ!」
「何が事件解決でズサーなんだ藤ねえ。突っ込み所が多いコメントは控えろよ。っつーか、それ以前に七枷の分を取るんじゃない」
「もぐもぐもぐ・・・・・・。へへ〜ん、もう食べちゃったも〜ん。だが、二口分くらいは残した。せめてもの情けじゃ」
「意地汚い事をするなよなぁ。それと・・・・・・」
じろり、と隣を目だけで見つめる士郎。そこには、彼の従者の姿が。第三者から見れば、あからさまに自分の配膳の位置から逸脱した距離に箸を伸ばしていた。
「―――行儀の良いセイバーは、勿論藤ねえみたいに意地汚い真似なんてしない・・・・・・よな?」
びくり。
「え――――――――――え、えぇ!もも、勿論ですともシロウ!私が了解無く、他者の配分を取るような意地汚い真似をするなど、あり得ません!」
了解があれば取るのか。初期配分でも自分は通常の1.5人前強はあるのに。取りあえず、妙に長い10文字分の沈黙の横線は見なかったことにしてあげよう。な?
「しょうがないわね・・・。アーチャー、アンタが陣を叩き起こしなさい」
「・・・何故に私がやらねばならんのだね?」
「アンタが陣の隣だからよ」
ちなみに、現在の食卓の配置はこんな感じ。
剣 士 桜
虎 机
陣 弓 凛
ふぅ・・・・・・と、溜め息をつく弓兵。
「方法は?」
「問わないわ」
「・・・了解、面倒だが承ろう」
す・・・っと、陣の耳元で、弓兵はこう告げた。
「七枷陣、凛が酒を飲んで酔っぱらって脱ぎ始めたぞ(棒読み)」
「何!?」
―――ドグォッ!!
オレの意識が帰還したコンマ数秒後、視界にあかいあくまの捻りの入った右フックに打ちのめされた弓兵を垣間見た。
『Fate/The impossible world』
「言うに事欠いて何てことほざくかこの馬鹿アーチャー!」
「方法は問わないと言ったではないか」
「TPOをわきまえるくらいの知能はあるでしょ!その心眼(真)は何のためにあるのよ!」
「いや、敢えて冗談を交えた方が良いと思ったのでね。即座に反応するとは私も予想外だった。ちなみに補足すると、心眼は戦闘にしか基本的には発動しないのだが?」
「〜〜〜っ!!」
な、何が起きてるんだ?オレがちょっと考え事をしている間に色々と場は混沌としていた。なにやら誰かが脱いだとか何とか言う発言が耳に入ってビックリしたのだが。というか、虎がいるのに心眼とかぶっちゃけてしまうのはどうだろうかと思うのはオレだけか?
「―――――七枷君、普通に声かけて反応しなかったのに何であんな戯れ言に反応したんでしょうか?」
あ、話題逸らしやがった。前後が良く分からないけど、何となくそうだと確信した。
「あ、いや、えっと・・・・・・すみません」
とりあえず謝ろう。さっさとこちらが折れた方が余分な災厄を招かなくて済むし。
「・・・・・・・・・すけべ」
勘弁してください、そんな真っ赤な顔して言われるのは、ある意味あくまモードよりキツイです実際。
「え、えっとその・・・七枷先輩、今日は体調でも悪いんでしょうか?ご飯、全然食べていないようですけど」
この空気の悪さの中、よく話題転換のフォローに入ってくれた。桜、さんくす!
「あ、いやまぁその・・・・・・。別に何でもないんだ、うん。ちょっとした思春期の悩みとかそんなどうでもいいようなものだし」
ぎょっ・・・!と、周りの空気が驚きに変わる。・・・オレ、そんなに外したかな?
「き、キキキキター!私の推理、見事的中よ〜!これはもう、次回から『洗脳探偵・藤村大河』の誕生間違いなしね!あなたが、犯人です!」
それ文言からして洗脳違うし。只の探偵になってるじゃねーか。どっちかっつーと、迷のつく。兎も角、
「思春期の悩みは撤回で」
「えー!」
えー!じゃないよ、藤村教諭。
「まぁ、悩みという程でもないしね。考え事で暫くぼーっとしてただけだから。心配しないでよ桜ちゃん、特に問題なしだから」
「は、はぁ・・・・・・七枷先輩がそう仰るなら」
「さて、じゃあ飯をぱぱっと食っちゃいましょうかね。あ、今日はオレ疲れたからお風呂先もらって寝ちゃうから」
と、がつがつペースを上げて陣はご飯を食べていく。そんな焦らなくても・・・と、桜と士郎が苦笑いを浮かべる中、
「・・・・・・・・・」
遠坂凛は、訝しげに陣を見るだけだった。
「・・・って、あ!オレの大根の煮物、もう二口分くらいしかねー!誰よ、勝手に食ったん!?」
・・・この時ばかりは、口笛を吹いている約1名を除き全員が渋い表情になったのは言うまでもない。
チッ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・・・・。
枕元に置いている目覚まし時計の針の動く音が妙に響く。と、
ヴーッ・・・ヴーッ・・・ヴーッ・・・ヴーッ・・・ヴ―――
ピッ。携帯のアラームが鳴ったので止めた。音声は今日に限って任意で切りマナーモードにしている。時刻は23時30分。
「―――――時間、か」
むくり、と布団を剥いで身を起こす。服はパジャマではなく動きやすい普段着を着て、枕元にあるデッキホルダーを腕に着ける。
「魔力は―――」
すぅ・・・っと、深呼吸。ん、大分回復したみたいだ。2〜3時間の仮眠でも結構持ち直すものだと感心する。
さて、どうしてこんな時間に起きたのかと言うと―――
あの時、バゼットと再度相見えた時、すぐに他人の振りをしてオレ達はすれ違った。・・・その瞬間、
「今夜0時、新都大橋下の公園で」
そう彼女に囁いて、オレはそのまま自転車に乗って走り去った。彼女が来るかは分からないし、一方的な約束だがしたのだ。今回は、オレ1人でやる。勿論、バゼット達を説得するために。衛宮達には話せない。それは単に、オレの我が侭。ある程度の交流もあったというのもあるから、オレ1人で何とか済ませたかったっていうのもある。まぁ、可能性は低いだろうけど、出来る限りの事はしたかったから。
みんなはもう寝静まっている筈。気付かれないように、そっと部屋を出て玄関から外へ出る。・・・・・・どうやら気付かれていないようだ。
「―――良しっ」
行こう、約束の場所へ―――――。
その付近へ近付いた途端、妙な違和感があった。どこか別の空間へ紛れ込んだような。多分、バゼットが人払いか遮音の結界でも張っていたのだろう。あるいは両方か。戦う為に張った・・・・・・とは思いたくないが、多分そうなのだろう。
細かい場所は指定しなかったが、その人物は良く分かる場所で1人佇んでいた。大きな街灯の並ぶ公園の大時計の下。そこに、彼女はいた。
―――時刻は0時丁度。・・・2月5日(木)が、始まった。
「その、お久しぶり・・・ですかね?あ、でもまだ数日も経ってないからそうでもないッスね」
「―――――」
「バゼット・・・さん?」
「私は―――」
沈黙していた彼女が、独白するように、声を絞り出した。
「私には、貴方と語り合う資格が無い。貴方は私を助けてくれたのに、私は貴方をランサーに始末させた。恩を・・・仇で、返しました。・・・・・・こちらが望む望まないに関係なく」
「それ・・・・・・は」
まぁ、結果的にはそうなんだけど・・・。
「ですが」
じ・・・っと、こちらを真剣に見つめてくるバゼットさん。
「魔術師としては、何も言うことは出来ませんが。私個人として貴方に感謝と・・・謝罪を。助けてくれてありがとう、陣君。そして、すみませんでした」
ぺこり、と頭を下げてくれた。それは、どれだけあの時のチキンなオレを救ってくれただろうか。
「―――痛かったです」
「え?」
「くちゅり。って他人事みたいな音がオレの中から出て来て、貫いた先から破裂しそうで、狂いそうで、いや実際狂いましたよ。それから槍を抜かれて熱が引いて、寒くなって。最後には死にたくない、死にたくないって・・・・・・そればっかり考えてました」
「―――――っ」
バゼットが、申し訳なさそうに俯いて、拳を握りしめている。責め苦を受けるように。でも、オレは別に責めているわけじゃない。
「でも」
「―――?」
「でも、もう良いんです。オレ生きてますから。だから、謝らなくても良いです。偉そうな言い方ですけど、許します。バゼットさんを」
驚きのあまり、バゼットはあんぐりと口を開けている。・・・そんなに驚くことなのか?
「そ、そんな簡単に許せるものなのですか?私は―――私は貴方を殺したも同然な事をしたんですよ!?」
「またあんな目に遭うのは絶対ゴメンですけど、今までの事は良いって言ったじゃないですか。オレが良いって言ったから良いんです。許すって・・・そういう事でしょ?」
「―――――。貴方という人は、お人好しにも程がある。魔術師としては落第です。でも、人としては合格なのでしょうね。きっと」
「オレはお人好しじゃないですよ。嫌いな人間には、嫌いな態度で接しますから」
「それは信用には値しないと思います」
何とも冷たい事で。
「それで本題ですが、今日ここに来るように言ったのは一体どんな用件で―――――」
と、さっきの落ち着いた雰囲気から一転、バゼットさんは急激に険しい表情になる。
「―――――成る程、それはそれ、これはこれ・・・という事ですか。確かに、今は聖杯戦争中ですし、当然と言えば当然ですね」
何やら訳の分からない事を呟くが、どうもオレにとって宜しくない状況になりつつあるような気が・・・・・・。
「あの、一体何の話ですかバゼットさん?」
「どうもこうもありません。貴方がここに来るように言ったのは、私と戦う為なのでしょう?」
「いや、確かにそんな状況にはなるだろうなーって思ったりもしましたけど・・・!オレが今日ここに来るようにお願いしたのは、バゼットさんと話し合いをしたいからで―――」
「では、そこの物陰に隠れている人達は一体何だと言うんですか?」
―――――はい?
「出て来なさい、この付近一帯には私が遮音と人払いの結界を張ったのです。中を通る者などすぐに察知出来る。・・・・・・そちらも、とっくにこちらに知られたと理解しているのでしょう?」
と、その言葉に後ろの物陰から現れたのは―――――!
「み、みんな・・・・・・」
遠坂、衛宮、そして各々の従者達が出て来た。
「な、何で・・・・・・!?」
「何でじゃないわよ陣。上手く抜け出せたって思っていたみたいだけど、忘れた?家の屋根の上には―――」
「私が見張っていた。あからさまに挙動不審だったから直ぐに凛に報告させて貰ったぞ」
「あ゛・・・!」
そうだ、そうなんだった。あのクソ弓兵を忘れていた!元々みんなに気付かれずに1人で・・・なんて無理な話だったんだ。
「ほう、セイバーにアーチャーを連れて来たか。少年もやる気満々なようだな」
と、背後で声がしたからもう一度振り向くと、バゼットの隣にはいつの間にかランサーが。恐らく霊体化を解除したんだろう。
「ちょ・・・ちょっと陣・・・!」
「な、七枷、何であの女の人の隣にランサーがいるんだ!?」
え?え?
「いや・・・・・・彼女がランサーのマスターだからだけど?」
と、オレが答えた途端、2人共『はぁ!?』と驚く・・・・・・って何故に?
「ま、待ちなさいよ・・・」
「ラ、ランサーのマスターって・・・」
「「綺礼(言峰)じゃないの(か)!?」」
・・・・・・え〜っと。
「言ってなかったっけ?」
「「初耳よ(だぞ)!!」」
「・・・?どういう事ですか、陣君?」
「え、あ、いやその、ちちちょっと待ってくれますかバゼットさん。タイムタイム!」
「は、はぁ・・・・・・」
取りあえず、2人を落ち着かせてこの女性が誰なのかを説明した。
「ふ、ふ、ふふ封印指定の執行者・・・っ!?」
「って、なんだ?」
「あのねへっぽこ士郎!協会と教会の事情を1ミクロンも知らないアンタだから無理無いけど、魔術協会じゃ厄ネタのナンバー3に位置するのよ、執行者って!!」
「あ、ちなみに1番が悪霊ガザミィで、2番目が封印指定らしいよ衛宮」
「・・・よく知ってるわね」
「オレのいた世界で、ゲーム内にいた遠坂さんが言ってたんだ。ついでに言うと、オレはガザミィってどんなナマモノなのか全然知らんけどね」
「・・・・・・はぁ。兎に角!要は彼女が執行者だっていうんなら激しくやばいって事なのよ!その気になったら、私達なんて10分以内に殺されてサンドバッグに詰められるかドラム缶にコンクリ詰めで港からドボン!のどっちかになるって寸法なのよ!って言うかね―――――!」
ぐい。っと、オレの胸倉を掴んで締め上げる遠坂凛嬢。
「なんで、そんな厄介な事を直ぐに話さなかったのよアンタは!」
「ぐ、ぐる゛じい・・・・・・っ!」
「セイバーとアーチャーはランサーに充てなきゃいけないから、わたし達だけでやらなきゃいけないじゃないの!」
がくがくがく!ゆ、揺さぶらないで・・・!
「ちょ・・・・・・と、遠坂さん・・・・・・は、離して・・・ってば!」
何とか、引きはがす事には成功したけど、少し頭がぐわんぐわんする。
「げほっ!げほっ!・・・その事だけど、遠坂さん」
「何よ、一体どうするつもりなわ―――――」
「バゼットさんとランサーさんには、オレだけで対応させてもらう」
みんなが、固まった。
「・・・・・・何を言ってるの陣?」
「バゼットさん達と戦うことになっても、オレだけでやらせてもらうって言ったの」
「ば、馬鹿言わないで!執行者を相手にアンタ1人で何とかなるわけないじゃないの!」
「それでも!」
「っ!?」
「何とかならなくても、こればっかりは、オレにやらせて貰う。邪魔はさせないから」
まっすぐに、遠坂の目を見てそうオレは言い切った。
「リン、これは何を言っても無駄だと思います。今のジンの目は、強情な時のシロウと同じ目をしていますから」
はぁ、と溜め息を漏らすセイバー。
「良いのですね、ジン。貴方は死にたくないのでしょう?なのに、今しているのは自ら死地へ飛び込むようなものですが」
「そりゃあ、死にたくないっていうのは今も変わらないけど・・・・・・。何て言うか、さ。欲が出たって思ってくれれば良いよ。うん、敢えて言えば、そんな感じ」
「欲・・・・・・ですか。ふふ、貴方らしい言い訳ですね」
苦笑いしているが、何故かどことなく優しそうに見つめてくるセイバー。
「良いでしょう、私は今回の戦いには介入しません」
「ちょ、セイバー!!」
「悪いが、私も今回は動くつもりはないぞ、凛。どうしてもと言うなら、2つ目の令呪を使って貰うことになるが」
「ア、アーチャーまで・・・っ!!あぁ、もう!後悔しても知らないんだからね!!アンタなんて勝手にやって勝手に死ねば良いんだわ!」
怒り心頭で吐き捨てる遠坂。
「ありがと、遠坂さん。心配してくれるのは嬉しいけど、勝算だって多少はあるから心配しないで」
「う・・・・・・べっ別にアンタを心配してるわけじゃないんだからねっ!私は協力者がこんな所で脱落したら後で色々不都合になるってだけで・・・・・・!」
ぷいっとそっぽを向いて何やらブツブツと言い訳を並べ立てる。
「あはは・・・・・・。さて、すいませんバゼットさん。長々と待たせちゃいましたね」
「い、いえ。それは別に構いませんが」
「それでですね、今日ここに来て貰ったのはちょっとお願いしたい事がありまして」
「・・・何でしょうか?」
「単刀直入に言わせて貰います。・・・今回の聖杯戦争からは、手を引いて貰いたいんです。それと、叶うならば聖杯を浄化、若しくは封印するのに協力して欲しいんです」
その言葉を言った瞬間、バゼットから射殺さんばかりに睨まれる。・・・当然と言えば当然だが。
「笑えない冗談ですね。私は魔術協会から聖杯戦争に勝利し、聖杯を持ち帰れと依頼を受けています。引くことなど出来ません」
「それは承知しています。それを踏まえた上で、手を引いて貰いたいんです。アレを顕現させるわけにはいかないんですよ」
「・・・どういう事ですか?」
かいつまんでだが、聖杯の中身についてバゼットに教えた。中に潜んでいるアンリ・マユの概念の呪いや、顕現したときに広がるであろう被害の規模を。
「―――成る程、大体は理解しました。ですが、私はあくまで聖杯を持ち帰る事を依頼された身です。任務は遂行しなければならない」
「任務を果たしたところで、時計塔はまた貴女を忌避するだけになるんですよ?それでもやるって言うんですか!?」
「―――っ!!」
あ・・・・・・っと、いかん。カッカしすぎた。
「―――ごめんなさい、言い過ぎました」
「・・・いえ」
「だがな少年、オレもそれを飲むわけにはいかねえんだよ。オレが望むのは強いヤツとの戦いなんだ。それを止めろっつーのは、それ相応の代価が必要だぜ。魔術師風に言うならな」
「じゃあ、例えばどんな代価を?」
「そうだな・・・・・・代価っつーか、お前1人でオレらを倒せたら考えても良いぜ、オレはな」
「な・・・ラ、ランサー!!何を勝手な事をっ!」
「はは、安心しろってバゼット。そんな無理な条件、少年が受けるわけが―――」
「良いですよ、渡りに船ってやつです」
「な・・・・・・い」
珍獣を見るような失礼な目線で、ランサーがオレを見やる。それに対して、オレは不敵に笑う。・・・そっちから提示したんだ。もう絶対に引かせないぞ・・・っ!
そしてそれを確固たるものにするため、オレはあの誓いを―――――ここに宣言する!
「アルギス、ナウシズ、アンサズ、イングス・・・・・・でしたっけ?」
「!少年、お前・・・っ!」
「その・・・言葉はっ」
そう、四枝の浅瀬。と言っても、ルーン文字良く分からないから、文言だけではあるが。
「・・・正気ですか、貴方は。私とランサー相手に、一撃で殺しせしめると?」
「あぁいや、そういう意味じゃないですよ」
「は?じゃあどういうつもりなんだ少年」
「オレ自身のアトゴウラの誓いは、『自分は退かない、相手も退かせない』って意味だけを取って下さい。そちらはオレを殺すつもりで掛かってきてくれて構いません。でも、オレは貴方達を殺さない。殺すつもりもない。只、倒す。何度かかってこようとその度に打倒し尽くすだけですから」
「―――――ほう、面白ぇ」
この傲岸不遜な言葉で、ランサーの闘争心に火がついたみたいだ。
「言っておくが、アトゴウラに言い間違いも取り消しも許しはしねぇ。その上で、お前はオレ達に宣戦布告したんだ。もう引き返させねぇぞ、少年?」
「それはこっちの台詞です。・・・さっき言った事、ちゃんと守って貰いますよランサーさん。オレが貴方達を倒したら、こちらに協力してくれるっていう約束を」
「ま、待ちなさいランサー!さっきから何を勝手に・・・!」
「バゼット、悪いが黙っていてくれ。アイツはこちらの流儀で喧嘩を売ってきたんだ。これで買わないなんて言ってみろ。オレはアンタを永遠に恨む」
「・・・・・・」
「アンタもルーン使いなら分かるだろう、アトゴウラの重さを」
「・・・・・・仕方ありませんね」
暫くの沈黙を経て、ようやくバゼットも重い腰を上げた。
「良いでしょう、元々私達が敗れるなどあり得ませんし、その条件を認めます」
す・・・・・・っと、拳を構えて戦闘態勢を取った。
「貴方が敗れ、死ぬような事があっても恨まないように。今回は前と違い、こちらが一方的に蹂躙する側ではなく、狩り、狩られる者同士なのですから」
「えぇ、分かってますよ。と言うか―――――」
回路を起動。カードを7枚引き出す・・・・・・カード周りは上々だな。
「愚問ですね」
「・・・さて、じゃあ始めな」
と、ランサーが槍を構えてそう言った・・・のだが、主語抜きで言われるとどうしようもないんですけど。
「そっちの準備だよ。最初くらいは、てめぇの得物を出す猶予くらいは待ってやるって言ったんだよ少年」
「―――――それはそれは」
有り難いことで。じゃ、遠慮無く―――
「具現魔術、起動」
骨格を形成し
外郭に肉を付与し
数多の時を刻み、過ぎさせ
存在しない経験で精錬し
世界を騙して包み込む
「出ろ―――『白騎士』、『黒騎士』」
同時に、2枚のカードを投げる。そのカードの中心から光が展開し、オレの左に白銀の甲冑の騎士。右に漆黒の甲冑の騎士が現れる。
「お初にお目に掛かります、主殿。召喚に従い、馳せ参じました」
「よう、初めましてってやつだなマスター。で、敵はどいつだ?」
普通に喋れるんだ、お前ら。ゴブリンとか疫病王は思念は感じれたけど喋れなかったが・・・。
「あのような低俗な輩と一緒にして頂くのは、些か遺憾というものです」
「ま、ゴブリンは兎も角あのおっさんは一応喋れねぇって事はねぇと思うが、腐ってるしな」
そんなモンなのか、まぁいいや。そして更にカードを具現させる。
「『栄光の頌歌』よ・・・・・・っ」
響き渡る。あの厳かな賛美歌が。
「素晴らしい。力が漲ります・・・っ!」
「へへ、来た来た・・・っ!」
そして、オレ自身の強化を更に追加するっ!
「『神性変異』!」
それを自分にエンチャントさせ、自分の身体が秒単位で変化していくのが分かる。筋力、視力は当然、反射神経等も向上しているだろう。
「・・・さて、これで完了です。待たせてすいません」
「おう、もういいのか?」
「えぇ。・・・白騎士、黒騎士。お前らはランサーさんを相手しろ。だが殺す事は許可しない」
「御意に」
「了解、マスター」
手札を一旦胸ポケットに仕舞って、拳を上げてファイティングポーズを取る。
「バゼットさん、貴女はオレが直接相手をさせて貰います」
「いいでしょう。一言言わせて貰えば、執行者の実力を甘く見ないことです。身の程を知りなさい、陣君」
「ご忠告、どうも・・・・・・っ!」
そして、誰が合図をするわけでもなく、戦いは唐突に開始された。
ステータス情報を更新しました。