始まってから、一体どれくらい時間が経過しただろうか。ものの数秒かもしれない。数分かもしれない。・・・流石に数時間なんてあり得ないだろうけど。バゼットに特攻してからは、一方的な展開だった。



無論、オレが攻撃を受ける側である。



最初は、数撃打ち込む事は出来た。しかし、悉くいなされてカウンターで鳩尾に一撃・・・勿論ガードしたが・・・を受けてからは反転。バゼットはストレート、フック、アッパーなどを織り交ぜてオレの意識を刈り取らんとすべく猛攻する。―――とか簡単に回想しているうちに・・・っ!?

「甘いっ!」

一瞬の隙をついて、今まで注意を疎かにいていた足がきた。左膝から脇腹へニーキックをかまされる。

「ぐっ!」

ガードの反応が遅れた・・・っ!完璧には入らなかったものの、かなり効いたぞこれ!

「取った・・・っ!」

ニーキックの反動を、そのまま右フックの溜めに流用。オレの側頭部を穿たんと薙ぎ払われる。―――不味い、まずい、マズイ、まずいまずいまずい!!腕や腹はまだ良い。折れたり胃液を吐くくらいは・・・・・・やっぱ痛いから嫌だけど、何とか対処は出来る。だが頭はダメだ。全然ダメっ!瞬殺されてしまう!

「・・・くそがっ!」

硬直を無視して、無理矢理に両腕を左側頭部へ持って行って壁を作る。衝撃はその直後にきた。

―――――ガッ!!

「ぐぅっ!?」

そのまま、数メートル真横に吹っ飛ばされる。衝撃の余韻は思った以上に激しかったらしい。倒れた先から更に制動距離として数メートル走る。ちきしょう、派手に擦り剥いた。痛っつぁ〜っ!

「まずまずの反応ですね。速度的には一応私以上といったところですか。存外に頑丈ですし、最初の数撃から見て攻撃力もそれなりに高い。・・・ですが、技術が問題外です。児戯以下ですね」

当たり前だ、自慢じゃないがオレは前にいた世界じゃ喧嘩なんて、小学生卒業してから全然やってない。・・・つか、どっちかっていうとカツアゲとかをされていた側に近いのだが。場数以前に、生きる死ぬの世界になんてつま先だって付けた事など無いのだから。

「どうしました陣君、私達を倒すのでしょう?それが全力だと言うのならば、倒す事など到底不可能です」

言ってくれる。確かに戦闘経験じゃ差が大きすぎる。だったら―――!

「っ!具現魔術、起動(スタンディンバイ)!」

カードを引いて手札を補充。一枚のカードを更に自分へと付加させる。

「基本性能を叩き上げるまで―――っ!『ガイアの抱擁』!」






『Fate/The impossible world』






大地の下に湧き上がっているマナを取り込み、身体を包む。それは、目に見えない頑強な鎧となり、兜となり、盾となり、矛となる。

「ふ―――――っ!」

刹那、陣は疾駆する。一瞬で攻撃の間合いにまで詰め寄り、乾坤一擲の右ストレートを繰り出す。それに瞬時に反応しきれなかったバゼットだが、充分にガードする猶予くらいはあった。両手を交差させて、そのパンチをガード・・・・・・



「―――ガハッ!?」



した。確実に、完璧なガードをしたのに・・・何故、直接的なダメージを被るのだ?ガードをこじ開ける・・・と言うよりは、ガードしきれなかった余波を食らったような・・・そんな奇妙な衝撃が、バゼットを襲っていた。

「どうですか?流せるダメージを貫通して食らう感想は。トランプルって効果なんですけど、気に入って貰えたら嬉しいなぁ〜・・・ってね」

にやり、としたり顔で挑発するように・・・実際には挑発しているのだろうが・・・陣は笑う。それに、バゼットの闘争心は煽られる。

「シ―――――ッ!」

反撃。蹴り上げ、それから拳の連撃を食らわせるつもりだったが、初撃から陣に避けられた為、追撃は諦めた。

「やってくれますね・・・。更に強化しましたか」

「えぇ、児戯だろうと基本能力が高ければ技術もへったくれも無いでしょう。バーサーカー理論は微妙に好かんのですけど、戦闘経験を埋める為には今のところ、オレにはこれしか無いんで」

「確かに。ですが、別の意味で安心しました」

陣は訝しげにバゼットを見た。発言の意味が分かりかねたから。だが次の言葉と、



「これで、私も全力で相手が出来ますから」



その直後に来た攻撃で、すぐさま理解した。

(は―――速いっ!!)

そして、重い。さっきまでは様子見だったのだ。攻撃速度やダメージが少なくともさっきの3割は確実に増している。

(―――洒落になんないって、コレ)

陣は1人ごちた。自分は栄光の頌歌、神性変異、更にはガイアの抱擁と3重に強化していると言うのに、それでもまだ本気モードのバゼットには及ばないらしい。いや、能力的には多分こちらに分がある。最悪でもイーブンから下は無いだろう。だが、さっきも言った戦闘における技術と経験がものを言っている。それが能力的な優位を軽く抜き去ってしまっている。
思考している最中にも、バゼットの猛攻は続く。先程とあまり変わらないコンビネーション。しかし速度と重さは段違い。半ば回避は諦め気味に対処せざるを得ない状況に陣は追い込まれる。このままではジリ貧なのは火を見るよりも明らかだ。

「この・・・・・・いい加減にっ!」

ダメもとでカウンターの拳を打ち据える。・・・しかし、これこそ彼女が狙っていた瞬間であった。

「甘く見たな、七枷陣・・・っ!」

ダッキング。地面へキスするくらいに深く低くしゃがみ込んだそれは、結果的に避けと溜めを兼用出来る一石二鳥の状態。バゼットは目の前にある最高の右腕(えもの)を見上げる。が、それも刹那の一時。



ゴギッ!!



嫌な音が、陣の内部から絞り出された。

「イギャアッ!?」

原因はバゼットが、下からアッパーを繰り出す感じに左腕を振り上げ、そして彼の右肘に直撃。渾身の一撃は、骨に伝わり、当然の如く粉砕したのだ。仮に、一切の強化を彼が行っていなかった場合、ほぼ確実に腕は肘から先が千切れていたことだろう。

「次は、左腕を頂くっ!」

そして、執行者は容赦しない。両腕を破壊すれば、勝率は更に絶望的になるだろう。さぁ、思い知るが良い傲慢な魔術使いよ。私の実力に掛かれば貴方など一瞬で―――



「ぐっ!?」



声の発生元は、女から。陣は、折れた筈の右腕(・・・・・・・)で女の鳩尾を穿った。そして、ついさっきと同じような痛々しい音がまた鳴った。

「あぐ・・・っ!」

それから同時に、両者は後ろへ飛び退き若干距離を空けた。

「・・・っ。驚いた、右腕で反撃するなど。確実に折った筈ですが」

「―――ハハ、残念。実はですね」

と、陣から魔力が溢れ、それは一気に右腕に集束される。折れた腕が、瞬時に繋がった。

「っとまぁこんな感じに、ガイアの抱擁には魔力を燃料にした自己再生能力も付いているんですよ。さっきは急を要したんで、直りきる前に反撃してまた折れちゃいましたけど」

ぐっ・・・ぐっ・・・。と、掌を握りしめて、繋がった事を確認し構え直す。とは言え、

(痛みが無くなるわけじゃないし、くっついたとは言っても直りきるまで痛みは残る・・・・・・か)

戦闘出来ないわけじゃないが、何度も再生しなければならない状況になったらマズイ事に変わりは無かった。バゼットは「ちっ」と舌打ちするが、

「面倒な能力が付加されたものだ。ですが、その様子だと痛みは取れないようですね。ならば、痛みによるショック死に至るまで手を出していけば良いだけの話です」

何とも恐ろしいことを考える。バゼットにしては珍しく気の長い話だが、それは妥当な判断ではあった。

「あはは・・・・・・・・・冗談じゃないっ!」

更にバックステップして陣は距離を空ける。兎にも角にも、接近は一旦保留。遠距離でショック辺りでもかましつつ、次の手を考えるが妥当だろう。

が、飛び退いた先には何やら不穏な感覚が陣を襲った。更には、



「―――愚かな。自らそこへ踏み入るとは」



不吉な発言を、彼女が宣った。

「な・・・っ」

手に持つのは石ころ。だが、それは只の石ころなわけがない。それには、幾重にも書き記された幾何学模様のようなものが。ルーン文字。彼女の基本骨子である、ルーンの魔術を帯びた原石である。魔力を注ぎ込み、陣に向かって投げる。

「―――っ!」

身構えるが、何も起こらない。怪訝な表情を浮かべるが、またもすぐさま理解した。

パチン!

それを合図に、炎が地面から地走りの如く噴き上がり、上空からは氷・・・正確に言えば、巨大なつらら・・・が雨の如く降ってくる。上は串刺し、下は大火事。これな〜んだ?

(・・・デッドエンドの片道特急券でファイナルアンサー・・・だなこりゃ)

・・・みのみたく溜めに溜めた後で、正解〜っと。自問自答の八百長なぞなぞだから正解するのは当たり前だがな。さっきの石は、このトラップ達の起動式といった所か。さて、

具現魔術、起動(スタンディンバイ)!・・・・・・『対抗呪文』!」

対抗呪文2枚分を一気に使用。炎と、氷を同時に打ち消す。トラップを出した所で、こっちには対抗呪文とかのカウンター系で全部消せる。遠距離なら負けるわけが―――あれ?

バゼットは不敵に笑みを浮かべているだけだった。瞬間、

「なっ!?」

また、大火事とつらら雨が再開された。・・・待て、確かに対抗呪文で打ち消した。完全にキャンセルしたんだ、バゼットが次弾を撃ち出したわけでもない。何故・・・・・・

「―――っ!」

そうだ、違う。それは違うんだ。オレは思い違いをしていた。最初のアレ。あの石が起動式になっているのであれば、対処すべきは起動式の石(そっち)の方!炎も氷も、起動した後で出る魔術であるなら、起動式が全て管理と供給をしている筈。アレが供給を続けている限り、何度でも蘇るは道理。くそ、忌々しい。起動式となったルーン魔術の原石は、とっくの昔に発動を完了して、固着してしまっている。もうカウンター系では打ち消しの対象外・・・か。まぁ、良いけどね。

(それならそれで、こいつを使って消せば良いだけの話・・・!)

形成、付与、刻印、精錬、詐称―――っ!

「『解呪』!」

放たれた光は、得物を正確に見定めて襲いかかる。起動式となっている原石は、その神秘性を書き換えられ、皆無にされた。と、同時に起動式の供給が無くなったからだろう。襲いかかってきた炎も氷も、幻の如く消失した。

「ほう・・・・・・儀礼呪法を以て仕掛けたトラップを打ち消すとは。それなりの魔術師でも解除するのには数人がかりでやらなければならないのに」

どうやら、アレは大分大がかりなモノだったようだ。本当に洒落にならない。距離を空けていれば安全圏にいられる、なんて保証も無くなった。他にもどんなトラップがあるのか分かったものじゃない。

「く・・・っ」

デッキからカードをドローする。兎に角、何か打開する手を引き当てないと・・・。

「良し、コイツで・・・っ!」

引き当てたのは、放課後に買ったカードの一枚。

「―――余所見をするとは、舐められたものだ・・・っ!」

その間にも、バゼットは再度接近戦を仕掛けるべく突進してくる。



「・・・『太陽打ちの槌』よ!」



が、陣の召喚したこの武器によって、突撃の機会を逸する事になる。

「―――っ!」

突進から一転、慣性の法則を若干無視した動きで急ブレーキ並びにバックステップで避ける。その直後、バゼットのいた筈の空間を陣の武器が薙ぐ。

「それは―――っ?」



それは、愚直という言葉が似合っていた。
それは、異世界の太陽が錬成し、叩き上げて作られたものだった。
それは、混沌と秩序が手を取り合って作り上げた魔槌だった。




「・・・戦槌(ウォーハンマ)ですか」

「えぇ、素手じゃ勝ち目が大分薄くなっちゃいましたし、ちと狡くて申し訳ないですが得物を使わせて貰います」

「構いませんよ、そんな大がかりな武器を出した所で私との差が埋まるわけでも無いですから」

「確かに、気休め程度にしかオレも思ってなかったですよ。けど―――」

す・・・っと陣の目が細まる。不敵な笑みが戻ってきた。

「どうやら、そうでもないらしいです。嬉しい誤算ってやつですね。尤もそちらにとっては、宜しくないでしょうけど―――――ねっ!!」

「―――――っ!?」

動きが目に見えて変わった。さっきまでの下手な立ち回りは何処へ行ったのだろうかと、執行者は驚きの感情を禁じ得ない。人が変わったように、その動きは熟達していた。戦槌の攻撃パターンは打ち下ろす、打ち上げる、薙ぎ払う、の3つが基本で尚且つ攻撃の軌道が読みやすいのでたかが知れている。素人ならば、これらの基本行動すら大振りで隙だらけになる。目を瞑っていても読み切る自信がある。しかし、

「はあああああっっ!!」

この少年の動きは、素人のそれじゃない。常に最小の動きで、最大の成果を上げるよう行動している。例えば打ち下ろしを避けても、そのまま柄の部分で追撃してこちらの反撃を許さない。

「ちっ!」

何とか機を見つけてこちらが行動を起こしても、

「よ・・・・・・っと」

これである。悉く柄でいなされる。まるで数分前の自分と彼との立場が、そっくりそのまま逆転してしまっているようだ。仕切り直しを含めて、仕方なく一旦バゼットは距離を取った。

(・・・・・・マズイですね)

形勢を一気に逆転・・・というか、有無を言わせずに勝利する手はある。アレ(・・)を使えば良い。だが、アレは手持ちで3発しか無いし、向こうが切り札を使わざるを得ない状況を作らなければ只の駄剣に落ちてしまう。彼は、自分たちを完膚無きまでに叩き伏せると言った。ならば、最後に切り札で圧倒して終わらせると言う考えに行き着く可能性はある。戦いの素人ならば考えそうな事だ。しかし、所詮は希望的観測。確定じゃない。さて、どうするか―――――

バゼットの思考は強制的に中断される。ついでに言うと、陣の行動も同様に。何故なら―――――






ダイナマイトが爆発したような、もの凄い爆音が直ぐ近くで鳴り響いたのだから。






Interlude

陣とバゼットが戦っている最中、僅かに離れた場所で別の戦いも始まっていた。

「さて・・・・・・今からてめぇらを殺す訳だが」

ブン、と一度槍を薙ぎ払うと、ランサーはビリヤードのキューで突くような姿勢に移行する。

「私達を殺す・・・か。侮るな野犬。我が身をそこいらの有象無象と一緒くたにしないで貰おうか」

「我が身・・・ってオレは勘定に入ってねーのかよ」

「当たり前だ。仕える主殿が同じでなければ、私は真っ先に貴様から首を刎ねている」

「ちっ、それはこっちの台詞だバーカ」

ぶちぶちと互いにいがみ合いつつも、隙は見せずに各々の剣を構える。

「さて、話が脱線して済まなかったな。かかってくるが良い槍兵。言っておくが、犬風情が私を簡単に殺すなど、叶わぬ願いと心せよ」

「ちったぁ愉しませてくれよ?2人がかりだったから思うように実力出せませんでした〜じゃ詰まらねぇのにも程があるからなぁ」

「ハ―――――面白ぇ、気に入ったぞその舐めた口。楽に死ねると思うなよ」

言ったが最後、ランサーの槍はまず白騎士に狙いを向けた。いきなり顔を穿とうと繰り出したそれは、大方ランサーの予想通りではあったが止められる。流麗な剣裁きを見せるそれであったが、決して実戦向きじゃないという訳ではない。だが、

(・・・妙だな)

微妙な違和感にランサーは顔をしかめる。確かに、必死になれば何とか受け止められるかもしれない程度の速度だった。しかし、向こうの様子は余裕綽々。対応力がそれほど高いとは思えないのに、一体どういう事なのだろうか。

「痴呆にでもかかったか槍兵。隙だらけだ」

白騎士の意外に速い踏み込みで懐に潜られた。攻撃に移る・・・が、なに、この程度の事は生前で腐るほどやりあった状況だ。すぐに対応でき

「なっ!?」

頭では分かっていても、何故か身体が反応に僅かばかり遅れてしまう。・・・何をやっているかオレは!腑抜けた身体を叱咤して槍を軸に何とか剣の軌道を逸らした。

「くそ、どうなってやがる・・・!」

こんな事、実戦では初めてだ。こんな訳分からん理由で後手に回るなど、英霊の名が泣く・・・っ!



「そら、相手は1人だけじゃねーぞ?」



と、背後から声がした。振り向きざまに槍を使って防御に回す。黒騎士が繰り出す剣戟を、これまた間一髪で防ぐ。

「オラオラオラオラオラァ!!」

白騎士とは違い、黒騎士は暴風のように荒い剣裁きだった。だが、それが未熟だと評するわけではない。その攻撃も、全て急所を的確に狙ったものであり、本質的には白騎士と何ら変わりない技量の高さだった。攻撃方法といい口調といい、まるで合わせ鏡のようである。そして、

(こいつも同様か・・・・・・っ!)

白騎士の時と同じく、何故か後手に回りやすくなる微妙な違和感まで同じ。更には、

「・・・・・・ちぃっ!うぜぇんだよこの黒アーマー!」

黒騎士に限って、異様なプレッシャーを感じてしまう。やりにくい、と言うか何というか。良く分からない類の圧力。強制的に植え付けられたそれが、戦いにくさに拍車をかけていた。これはマズイとばかりに、一旦ランサーは黒騎士から距離を取る。

「ハ、情けねぇなぁおい。何を戸惑って悠長に防御ばっかりやってるんだ英霊様よぉ?クランの猛犬・・・だったか?その通り名が泣くぜ、クー・フーリン(・・・・・・・)

「な―――――」

何故、この騎士が自身の真名を知っているのか。あの少年から召喚された騎士は、この世に実在しない筈の存在。だが、その驚きや疑問は―――

「そんな程度の技量なら、お前に槍術を教えた師匠ってのも、たかが知れているな」

「―――――んだとぉ?」

瞬時に、煮えくり返る怒りによって上書きされる。

「へ、怒ったか?事実だろうがこの―――――っ!?」

煽ろうとする黒騎士だが、今まで以上の速度で突き出される槍の一撃に、挑発を中断せざるを得なくなる。後手に回る、精神的なプレッシャーを食らう、の二重にある圧力など知ったことかと繰り出す渾身の一撃を、黒い甲冑の騎士はすんでの所で左手に持つ盾で軌道を逸らした。

「ちぃっ!?」

「・・・てめぇにオレの師匠(スカハサ)の何が分かる。あの女は確かに口調はババアみてぇで、事ある毎に喧嘩を吹っかけてきて、状況が不利になったら手段を選ばずに卑怯な手を使い、文句言ったら『わしが良ければそれで良い』だなんてガキじみた言い訳をしてきやがる。・・・・・・だがな、」

くわっ!

「あの女は、オレが知る女の誰よりも高潔で、誰よりも誇り高くて、誰よりも強かった。・・・・・・悔しいが、このオレよりもな。オレだけならまだしも、アイツを貶すのだけは―――――」



"勘弁ならねぇ!!!"



穿つ、穿つ、穿つ、穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ突き穿つ!
一撃一撃に、より一層の必殺の念を込めた重く速い一撃がランサーから打ち放たれる。これが、英霊の一撃。この世に実在しなくとも、それなりの実力はあると自負している黒の騎士は、その攻撃の1つ1つに戦慄する。

「・・・くっ!」

先制攻撃と、不完全ではあるがプロテクションの効果で何とか攻撃は防いでいるものの、もしそれが無ければ今頃は四肢に始まり、顔、首、五臓六腑の全てを穿たれて絶命しているだろう。

「ハ、貰った―――――っ!!」

そして、その一撃が遂に防御の全てをかいくぐり、彼の者の心臓へ命中―――――



「はぁっ!」



することは、無かった。今度は、白騎士が割り込む形でその一撃を弾き飛ばす。

「煽りすぎだ馬鹿者。主殿の命を忘れたか黒騎士」

「ちっ。援護した事にゃあ礼は言わねぇからな。・・・ランサーの沸点の低さを見誤っただけだ。悪かったな」

文句を言いながらも、黒騎士は体勢を整えて再びランサーに向き合う。

「おい白いの、何故お前にとって隙があった筈のさっきのオレの攻撃に不意打ちをしなかった。運が良けりゃ倒せてたかもしれねぇのによ」

怪訝そうに眉をひそめるランサーに、白騎士はさも当然のように答える。

「貴様も聞いていよう。我らが主殿の命は貴様の相手をすること。だが、貴様を殺すことは許可されていない」

「つまりはだ、オレ達はお前のマスターがやられるまでの時間稼ぎをさせて貰うだけなんだよ。まぁ、そう時間はかからねぇからさ、終わるまで遊んで行こうや」

その答えに、






「―――――そう言うことか、詰まらねぇ」






槍の英霊は、心底失望した。

「それなりに実力もあるから楽しめるかと思ったが・・・・・・全く興醒めも良いところだぜ、くそったれ」

うざったそうに目の前の敵を睨み付けると、ランサーは更にバックステップ。10m弱離れた距離が、更に延びる。それは、



「話にならんな、とっとと死ねよ、お前ら」



彼の槍の、本来使うべき用途(・・・・・・・・)の最適な距離にまで延びた、という事だった。何の感慨も無く、ランサーは右手に魔槍を持ち、もう片方の手で対象との距離を目算する。ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな・・・・・・と、完全に割り出した。同時に、魔槍へ発動するのに充分な魔力を込める。

「あ?何やってんだアイツは・・・・・・」

「・・・・・・まさか」

2人は、瞬時に七枷陣(マスター)のラインから情報を引き出す。今のランサーの行動に適合する状況を検索。・・・該当、1件。ある真名の項目及び内容をダウンロード&インプット完了。

「っ!?しまった・・・・・・っ」

「ちっ!やらせるかボケがぁ!」

意図に気付き、阻止すべく行動に起こすが、もう遅かった。彼の英霊は跳躍し、弓なりに身体を引き絞って―――






"突き穿つ(ゲイ)―――――死翔の槍(ボルク)!!"






瞬時に殲滅する手札を、切った。

「「おおおおおぉぉぉぉ・・・・・・っ!!!」」

盾を前に突進する騎士2人。だが、必ず殺す神秘を塗りたくり、今し方投擲されたミサイルを相手に、紙同然な盾でどうやって防げようか。

(申し訳ありません、主殿・・・・・・っ!)

刹那、辺りは爆音に包まれる。ダイナマイトが数発同時に爆散したような凄まじい音は、一時的に場を支配した。

・・・爆心地には、抉れたクレーターの中心にある赤い魔槍以外は何もない。彼らの名残など跡形もなく、完全に消し飛んでしまっていた。

「ふぅ・・・・・・一丁上がりっと」

流石に宝具を使った直後なので、ランサーの息は少し乱れてはいるが、それも直ぐに全快するだろう。



「さぁ、足止めは潰れちまったぞ。・・・今度はどう出る気だ、少年?」



深々と地面に刺さっている槍をいとも簡単に抜き取り、ゲイボルクの爆音で一旦中断している向こうの戦場を見据え、槍兵は呟くと己が主の元へ駆け寄って行った・・・・・・。



Interlude out


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