パシャパシャパシャッ。様々なアングルから写真を撮り、その度に「あぁ・・・良い、良いわぁ♪」とか「幸せ・・・♪」とか「もう聖杯戦争なんて放棄しても良いかも・・・☆」とか宣って悦に入っているキャスター。・・・サーヴァントとしてそれはいかがなものかと思う台詞があったような気がしたが、せめてもの情けだ。聞かなかったことにしておく。

「で、では七海さん。こここここ今度はこの服を、ぜぜ是非着て欲しいのデスガッ!?」

今着ている王族にありそうな純白のドレスはもう充分撮ったのか、今度は部屋の隅っこに積み上げられている真っ白な衣服の塊の中から、一着の服を取り出す。所謂ホワイトロリータという類の、フリフリが異様に付きまくっているヤツが出て来た。手の込んでいるその装飾から、キャスターの特に気に入っているものの1つなのだろう。ホント真っ白なの好きだなぁこの人。どうでもいいけど。
つーか、それを考慮してもキョドり過ぎだろう、常識的に考えて・・・・・・。

「うわぁ・・・っ♪めっちゃかわいーなーその洋服ー。あ、でも・・・・・・」

と、白い塊に近付き、ごそごそと漁るマイマザー。

「うちもちょっと目に付いたんやけ・・・・・・どっ」

と言いつつ引っ張り出したのは、この時季には合わないシンプルな真っ白のワンピースと、つばの長い真っ白な帽子のセットだった。夏に着れば、大分さまになるだろう。

「これ、えーなぁって思ったから先に着てみたいんやけど」

「・・・・・・」

ぱちぱち。と、目を瞬かせその服とかーさんを見比べる若奥さん。・・・きっと脳内変換して着せているのだろう。

「・・・・・・あかんかなぁ」

沈黙を不服と感じたのか、かーさんはしょんぼりとしつつキャスターを見上げる。ぷつん。と、何かが鳴った様な気がした。

「是 非 そ ち ら か ら 撮 り ま し ょ う」

「やたー☆」

わーい、と言い「ほんなら、コレとコレとコレも・・・」と幾つもピックアップしていく幼女体型。

「えぇ、えぇ。それも良いチョイスですわね」

ほほほ、と優雅に笑いながらさり気なく鼻血を拭い、服を選んでいる人の母親を見守る・・・あの目は視姦と言うべきか・・・奥様。妖艶な色を醸し出す声とホクホク顔・・・にやけ顔とも言う・・・が見事にミスマッチしていますがね。



それにしてもこの母親達、ノリノリである。






『Fate/The impossible world』






orzと、がっくり倒れていたオレも、ようやく再起動しだす。

「な・・・な・・・・・・」

「ナズェミデルンディス?」

「オンドゥルじゃねえええええ!!!」

何で!かーさんが!ここで!キャスターと一緒に着せ替えごっこしてるんだよ!!!
そしてこの台詞、どうみても6話の使い回しです本当にありがとうございました!

「あれ?陣?何でここに居てるのん?」

そ れ は オ レ の 台 詞 だ。

「うち?うちはお友達のキャスちゃんのとこへ遊びに来ただけやけど?」

「・・・あの置き手紙に書いてた連れってキャスターさんの事だったんかい」

「あ、家に戻ってたん?」

「あ、うん着替えを取りに戻ったから。後、飯は有り難く食っといたけど、いつ戻れるか分からんから作り置きせんでもええよ」

「えー。でも、作っといたら急に帰ってきてお腹空いた時にすぐ食べれるからええやん」

「いや、まぁ確かにそうだけど・・・・・・って、違ーーーう!!!」

脱線してる場合じゃねえ!

「遊びに来て何で着せ替えごっこなんだよ!数パーセントでも良いからオノレの歳を考えろ!」

「だって、かわいくて実用性のある服好きやもん。それに着せ替えごっこやなくてモデルさん。第一うちの歳、別に関係無いやんか・・・。本人達が楽しければそれでええやないの」

く・・・この自己中め。それにさっきから、元凶のキャスターは何をやって・・・!

「ふんふふっふふっふ〜♪ふっふふっふふ〜♪」

と、どっかで聞いたようなクラシック音楽っぽい鼻歌を歌いながら己の着せたい候補をまたも選別していた。・・・ここまで騒いでるのに、いい加減気付けよと小一時間。

「七海さん、その辺りを撮り終わったら次はこの服もお願いし―――――」

と振り返り、

「――――――――――ま」

オレ達と、目があった。

「・・・・・・・・・」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

じーっと見つめ合う魔女と団体様ご一行。・・・見つめあえ〜ると〜、お〜ん〜な〜の〜子は〜♪・・・とどっかのゲーソンが脳内で流れる。分かった人は是非ご一報下さい。
・・・・・・何処へ?

「――――――――――敵襲!?」

一瞬で魔術を使い、姿がローブを纏った戦闘モードに移行するキャスター。ビシィッ!っと決めたつもりなのだろうが、今し方見たあのホクホク顔やら視姦してた目やらを見ていた後だと、その決めたつもりな行為自体がイタイ訳で。というか、アンタ本気で気付くの遅すぎ。

「うわぁ・・・キャスちゃんいつの間に着替えたん!?うち全然気付かんかったわ〜。凄い凄い〜、まるでテンコーさんみたいやね♪」

パチパチパチ、と感動して拍手をしつつ「これってイリュージョンって言うんよね?」などと呑気にほざく我が母親。・・・・・・って、ちょっっっおまっっっ!?

「キャ、キャスターさん!一般人(かーさん)の目の前で魔術を使うなんて・・・!」

「――――――――あ」

あ、じゃねぇぇぇ!!こ、このままじゃかーさんが始末されるっ!?そ、そんなん冗談やないぞ!もしキャスターが始末するって言うんなら、交渉云々なんてもう関係無しでオレが守――――!

スーーー・・・っと、小さな音を立てて、唐突に別の襖が開き、

「騒々しいぞ、何があったキャスター・・・」

ゆらり、と薄い気配を醸し出しながら現れた長身痩躯の男・・・葛木宗一郎。視線だけを泳がせ、周りの状況を把握する。

「・・・・・・衛宮に遠坂に七枷か。こんな夜分遅くに何の用だ?それと、そこにいる男はどちらかの知り合いか?」

・・・へ?キャスターは葛木に何も言ってないのか?そこに居る赤いコスプレまがいな男がサーヴァントの1人である事を。・・・キャスターは単独で戦争に参加するつもりだったのか、それとも時期が来るまでは話すつもりはなかったか・・・のどちらかか?

「あ、葛木先生こんばんは〜。お邪魔してますー♪」

「・・・こんばんは、七枷さん。いらしていたのですか」

・・・何はともあれ、この第三者(ストレンジャー)の投入によって場が更にカオスってしまうのは間違いなさそうではあるけどね・・・。






Interlude

「ふ―――っ!!」

「はぁぁぁっ!!!」

剣戟は終わるところを知らない。一方は静かに息を吐き気合いを載せ、もう一方は威圧するように大きく雄叫びを上げる。真横から薙いでくる鈍い鉛色の剣閃は、脳天から割らんと真上から放つ白い剣閃に阻まれ、返す刃で間欠泉のように突如噴き上がってきた白い線は、上半身と下半身を真っ二つにせんと逆胴に放つ鉛色の線に阻まれ軌道を見当違いの方向へ無理矢理修正させられる。

「やああぁぁぁ!!」

が、この切り上げを弾き返した時、僅かではあるが小次郎に硬直という名の隙が出来てしまう。好機、と言わんばかりに段の下に位置する騎士は駆け上がり、相手の射程内である近中距離から己の射程内である近零距離へと詰め寄る。今の立ち位置では、相手がすべき行動は攻撃のみで充分。何故なら攻撃する事自体がこちらの動きを抑制させ近付けさせず、近付けさせなければ相手の攻撃自体当たらない。要するにアサシンは、攻撃するだけで守備や回避も兼ねた一石三鳥同然な状況なのだ。

だから、それを崩す。

必要無いこれらの行動を必須にし、2つ増やせば全ての行動に思考、選択のタイムラグも発生させ隙も出やすくなる。尤もサーヴァントにとってそんな隙ははっきり言って微々たるもの。だが、その僅かな制限であろうと能力的に数段劣る相手にとって、それはそう時間を掛ける事無く致命的なものになるだろう。

「甘いぞセイバー・・・っ!」

当然、小次郎もそれを重々に承知している。近付けさせる事をみすみす許す筈もない。突進してくる騎士を、異常な速さで弧を描く2つの線が迎え入れる。通さぬ。が、通りたければ腕一本か顔半分。若しくはその両方が通行料だ、と言わんばかりに。

「くっ!」

当然そんな暴利を支払う気などセイバーにはさらさらない。やむを得ずに突貫を諦め、防御に回る。紙一重で片方を避けつつ、もう片方の斬撃を聖剣で受けるが、その衝撃で後方へノックバック。段から足が離れ空中へ放り出されるが、くるりと一回転して数段下へ着地する。

「ふふ・・・・・・」

「―――」

小次郎はさぁ、掛かってこいと言わんばかりに不敵に笑い、セイバーはちっ、と舌打ちをして睨み付ける。本来の力を取り戻しているというのに、それでも尚、小次郎の攻撃速度はセイバーを若干上回っている。全てではないが、こちらの攻撃も悉くいなされついさっき見いだした隙を突くのも一苦労というこの体たらく。魔力の火花をもう数十合と打ち合って未だに活路を開けない事に、セイバーは苛々していた。と同時に、改めてこの佐々木小次郎の技量に、心の中で戦慄にも似た苦い感情が滲む。無論、それを顔に出す事は無い。
一方の、不敵に笑う小次郎はどうであろうか。セイバーの進行を阻止し攻め込ませない状況下で、挑発じみた笑みを浮かべる程の余裕さを見せつけている。端から見れば、小次郎が優位に立っているように見える。



否。そんな愚者の見当違いな見解は問答無用で否である。



表情とは真逆に、小次郎は必死だった。肩慣らしと様子見を兼ねて打ち合った最初の数合で、ギアをローから一瞬でトップに上げなければならない事を思い知らされたのだから。幸いにも速度に関しては自分にまだ分があるようだった為、手数で進行を阻止し、可能な限り向こうの斬撃をいなして、青江にかかる負荷を減らさなければならなかった。あの聖剣に対してまともにぶつかれば、そう時間をかけずに己の半身を破壊されかねない。速さ以外のほぼ全てにおいて勝っているであろう彼の騎士王相手に、余裕を抱ける筈もない。一瞬でも隙を見せれば、今し方セイバーが突貫してきた状況が繰り返し再生されるだろう。先程は阻止出来たが、ギリギリだった。自分の領域でも冷や汗ものだというのに、もし間合いを詰められてしまえば、後はどうなるかなど言うまでもない。火を見るよりも明らかだ。

「(だが、それがいい)」

こんな危機的な状況であるというのに、小次郎は満足していた。ぐらつく天秤に立たされているこんな戦況だからこそ、自分は満足できる。首の皮一枚で直ぐ死に繋がろうとも、こんな切迫し、肉迫し、斬り合う戦いこそ本望。ツマラナイ門番をやらされていた時とは雲泥の差だ。

「はあぁぁぁっ!!」

「(とはいえ、もう数えるのも億劫なくらい剣戟を交わし打ち合うこの状況にも飽き始めて来た事も事実)」

そろそろ次の段階へ行くか。とでも言うように、小次郎は再度突貫するセイバーを迎え入れる。但し、今までの構えらしい構えの無いだらりと腕を下ろした格好ではない。突撃する相手に対し、背を向けるように身体を引き絞り、長すぎるその刀を水平に構え、瞳は冷たく狙いを定めた目の前の騎士に向ける。

「場が水平でないから完全では無いが・・・。我が秘剣、受けきれるか?セイバー・・・っ」

「―――っ!」

構えを見た瞬間、じくりとセイバーの中のナニカがざわつく。あの構えは知っている。幾度となく対峙し食らってきたあの技。絶対不可避の魔剣。

「秘剣―――――」

このまま突撃するのはダメだ。だがどこから何が繰り出されるのかがワカラナイ(・・・・・)。何度も繰り返したこの戦いにおいて、少なくともこの魔剣を最初に食らう分についてだけは例外なくそうだった。そして、それは今回であろうとも等しく同じであった。

「くっ!」

だから、今回でも同じく己の直感を頼りに防ぎきってみせる。・・・・・・左へっ!



"―――――燕返し"



壱の太刀、弐の太刀が繰り出される。が、参の太刀は無い。水平ではない段差からの魔剣は、不完全な状態で放たれる。その穴を直感で感じ取ったセイバーは左側へ飛び込み、2つの太刀の軌跡が交差する場所まで回避。そこへ剣を合わせて防御する。

「あぁぁっ!」

だが、魔剣として昇華されたこの斬撃の威力は凄まじい。しかも2つ分同時にだ。弾き飛ばされ、今度は空中で体勢を整える事は叶わずにセイバーは数段下へ落下し、背中から打ち付けてしまった。

「ぐっ!」

「ほぅ、我が秘剣を止めたか。しかも太刀筋の合わさる所を狙って防御するときた。読み切ったのか、それとも単に勘が良いだけなのか。どちらにしても、完全に放たれていれば胴を薙ぎ払えていたな。・・・尤も、それで終わられては興醒めも良いところだが」

セイバーは直ぐさま立ち上がって体勢を直し、再び小次郎を睨む。やはりこの初撃、直感以外で読む事は出来なかった。一体何故・・・。

それは、宗和の心得と呼ばれるモノ。同じ技を何度放とうと見切られなくなる特殊な技能が小次郎に付与されていたせいである。ランクが高くなればなるほど、この技は初撃である。と相手に強迫観念を押し付けることを強いる。故に、何度見ていようとも技の出所が分からなくなり、見切る事も困難となる。

「(しかし、何はともあれこの初撃は防ぎきれた)」

そう、初撃を防ぎきればまだセイバーにもやりようはある。初撃を見たという事実さえあれば、僅かではあるが軌道を読むのにある程度の補正が得られる。宗和の心得のランクがもっと高ければそれも叶わなかったであろうが、幸いにもギリギリで補正をかすめ取れる。それは、セイバーが今まで巡ってきた世界でも変わらない事であったし、当然今回に至っても同様である。

「セイバーよ、延々と刃を重ねてきたがそろそろお前の方も手の内を見せたらどうだ?其方との剣戟の死合は実に愉しいが、物事には常に終わりがある。只の打ち合いで終わるよりも、互いの必殺の一撃で決着を付けた方が良かろう。我が秘剣を不完全ながら食らったとはいえ、それに臆するお前ではあるまい?」

小次郎の提案にセイバーは僅かばかり沈黙し、

「・・・・・・頂上へ」

す・・・っと、山門の方を指差す。

「そこで決着をつけよう、アサシン。貴様の秘剣の完成形、私の剣を以て応えよう」

満足のいく回答に、暗殺者という名の武芸者は唇を歪ませた。



そして山門前。石段より数倍広さのある場に、セイバーとアサシンは離れた状態で対峙する。距離にしてアサシンの間合いから一〜二足刀離れたぐらい。

「では、見せて貰おう。セイバー・・・・・・お前の宝具を」

先程と同じく、相手に背を向け刀を水平に構える小次郎。燕返しを放つ構え。相手を捉えるその眼には、一撃必殺の殺意と、相手の宝具への期待、そしてほんの僅かの終焉に対する落莫の色を携えていた。

「えぇ。本来の使い方ではありませんが―――――」

風が・・・・・・魔力の籠もる風が、聖剣から溢れ出てきた。

「私の宝具。その威力をお見せしよう・・・・・・っ!」

解き放つ。その莫大な魔力の濁流。淡い翠の風と、純白の風が混ざり合い敵を威圧するが如く襲いかかる。

「はあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・っ!!」

「・・・?」

小次郎は訝しげにその光景を見た。あれほど荒れ狂っていた風の奔流が徐々に治まっていく。そして、完全に風が止んでしまった。・・・発動に失敗したのか?一瞬そう思った。

「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

否。そうではない。あの荒れ狂った魔力。それは全てセイバーの持つ聖剣に集束されていた。そして、集束させたソレの出口を塞ぐかのように、更に魔力が覆われていく。セイバーはその集束に意識の殆どを費やしている。今、間合いを詰めればいとも簡単に斬り伏せられるだろう。

「―――――は」

愚考。とアサシンは一瞬浮き上がったその思考を即切り捨てた。そんなつまらない勝利を得るなど冗談ではない。構えは解かず、じっとセイバーの動向を見守る。どくん、どくんと胎動が聞こえるかのように、聖剣は静かに、だがまばゆく内に光り輝いていく。それが少しの間続き・・・・・・

果たして、セイバーの集中は完了した。

「・・・・・・・・・ははっ」

これほどまでとは。最初の感想はそれだった。あの聖剣に宿る、自分とは比べものにならない魔力量。恐怖畏怖震撼戦慄逃亡逐電恐れ戦きしっぽを巻いて逃げ出してしまえ。そう想うは当然。当たれば間違いなく即死なのだから。

・・・・・・そう、当たれば(・・・・)の話。

「面白い・・・っ」

小次郎はその感情に身を引くどころか、構えを更に固めいつでも秘剣を放てるよう集中を高めた。威力は高いが、己の秘剣の方が速い。仮に追いつかれたとしても、こちらは一度に三つの斬撃が繰り出せる。一太刀合わせようとも、残りの太刀がセイバーに襲いかかり相手を斬殺せしめる。

「待たせたなアサシン。・・・・・・我が一撃、受ける覚悟は完了か?」

剣を横に構え、身体を引き絞り、相手を注意深く見つめる。問いを受けた相手は、唇を歪ませたまま構えは解かない。
ふと、風が巻き起こり、木々から枯れ葉が降り注ぐ。その中の一枚が、丁度2人の距離の真ん中に割り込んできた。そして、それはパン!と弾けるように消し飛んでしまう。



それが、合図となった。






"秘剣―――――"

"確約されし(エクス)―――――"






"―――――燕返し!"

"―――――常勝の剣(カリバー)!"






必殺と必殺は放たれ交差し、勝者を決した。当然、より高き必殺を携えた者こそが、地に足を付け立ち続ける。

「・・・・・・・・・」

セイバーは無言のままその右腕、そして背には斬撃を受けた跡がある。蒼いドレスが切れ、受けた所から血が流れ落ちている・・・が、それほど傷は深くない。勿論、浅いわけでも無いが。

「ふ―――――」

一方の暗殺者は己の半身を見つめ、満足そうに破顔させる。長年連れ添ったその片割れは、本来の刀身を維持しておらず、ほぼ真ん中から先が無い。・・・折れていた。

「―――――見事」

ぶしゅり。と小次郎の脇腹、そして口から血が噴き出す。深刻な傷を負った状態で立てる筈もなく、膝を折り、そのまま倒れないよう半分になった物干し竿を支え代わりにする。

「まさか、あのような事になるとは思わなんだ・・・。いや、道理か」

両者の必殺の一撃。それが重なった瞬間を小次郎は思い返す。
速さでは間違いなく小次郎が一歩上だった。が、セイバーはその軌道を直感と手に入れた読みの補正で予測し、燕返しの中でも一番速く己に迫る剣閃。壱の太刀である縦軸に宝具を重ねた。ここまでは小次郎も予想していた。このままいけば他の太刀がセイバーを蹂躙する。が、ここから先は小次郎にとって想定外だった。壱の太刀に合わせた瞬間、聖剣がそのまま物干し竿を折ってしまう。するとどうだろう。残る太刀の剣閃も、折れた根本から先が消失してしまったのだ。
剣閃は3つ同時でも、放つべき得物はたったの1つ。空間を歪ませ、全く違う方向からの複数攻撃であろうと、1つを砕けば残りも同じ場所が砕けるのは、よくよく考えれば当たり前の話だった。
セイバーに食い込み、深く斬り落とす筈だった2つの剣閃は、結果的に砕かれ長さが足りずにセイバーのドレスとその先の肉を軽く抉る程度に留まってしまったのだ。

「しかし、解せんな。あれ程の魔力の奔流だったというのに、致命傷を負わせていないとは。・・・セイバー、貴様手心を加えたか?」

「・・・・・・」

黙するセイバーをよそに、小次郎は語り続ける。

「察するにあの一撃、本来は直撃したと同時に剣に宿した魔力を解放し、相手の内からぶつけるものと見た。違うか?」

「・・・・・・その通りです」

観念したのか、重々しくセイバーは頷き認めた。加減したと。

「はは・・・・・・舐められたものだ。加減された事も業腹だが、された上でこの体たらくとは。未熟にも程がある」

身体をセイバーに向け、小次郎は告げる。

「我が秘剣は破られ、青江も折れた。もはや泡沫の存在に意味は無し。・・・殺せ」

「断る」

ぴしゃり、とセイバーは小次郎の願望を拒否した。

「・・・拒むか。まぁそれも良し」

ならば自ら舞台を断つというのもまた一興。と思った矢先、

「言っておくが、自害することは許さぬぞ、アサシン」

まるで心を読んだかのように、セイバーは小次郎の思考を咎める。

「許す許さないの是非を、お前が決める道理など無かろう」

「ある」

これまたぴしゃりと、そしてハッキリとセイバーは是と応える。

「貴方は私に倒され負けた。敗者は勝者の言う事に意見し、あまつさえ無視する事など許されないからです」

なんという横暴か。己の事なのだ。己の意志で自害する権利はある。

「私が貴方を殺さず、只倒したのには訳があります。ある事情でサーヴァントの魂は可能な限り聖杯に捧げないようにしないといけないからです。それに―――」

騎士の王は、清々しい顔で唇を少しだけ歪ませ、己の本音を吐露する。

「それもありますが・・・・・・貴方ほどの剣士、このまま死なせるには惜しい。そして、また貴方と剣を交えたいというのが私の本音でもあるからです。だから、自害する事は許しません。佐々木小次郎」

「―――――」

呆然と、小次郎はその言葉を受け止めた。「また」と言われるとは思わなかった。たった一度きりの死合でもう終わると。そこまでと思っていた。

「はは・・・・・・」

小次郎は思わず笑いをこぼしてしまう。自分のような泡沫の存在を好敵手として認めてくれた嬉しさからなのか、またはセイバーの自分勝手さに呆れてしまったのか。どちらにしても何というか、毒気を抜かれてしまった。

「何が可笑しいのですかアサシン」

むぅ・・・っとセイバーが不満げな顔で睨む。それを、

「行くがいい、セイバー。何、心配するな。自害などせんよ。毒を抜かれて死ぬ気も起きんわ」

くつくつと、笑いを止めず小次郎は溜め息混じりに応えた。

「・・・・・・。そうですか。では、失礼」

セイバーは少しの間小次郎を見つめ、自害をするような気配ではない事を悟ると山門を潜り駆けていく。己の主の元へ参じる為に、一刻でも早く・・・。


Interlude out






んでもってこちらが戦う意志が無く、話し合いがしたい事を伝えるとキャスターは当然疑いまくってきた。けど、葛木の

「話し合いに来たのなら別に構わん。そこへ座れ。キャスター、人数分の茶を」

と、意外と呑気な言葉に渋々折れ、本当に茶を入れに引っ込んでしまった。・・・根っこでは従順さ満載な奥様なのであった。

「・・・・・・以上が、事の全てです」

そして、キャスターが戻って来てから話の本題を述べていく。差し当たっては、何故ここに来る事が出来たのかを問われたので、山門でのやりとりを大まかに話すと、

「・・・・・・あの役立たず浪人。山門を守れという命令を無視してセイバーと戦うことを引き替えに素通しするなんて。・・・良いわ、あっちがそういう舐めた事をするっていうんなら、後で服を白ネコ耳の白スク水、白エプロンにして語尾に『にゃん』って付けるように令呪で命じて縛り付けてあげるわ」

と、何ともコメントし辛い事をぼそぼそと呟いていた。あー、うん。あの浪人さんは念願だったセイバーと戦えてるんだし、何があってもこれからも頑張れるさ。多分、きっと。何となくその件に関してはスルーして、話を続けた。聖杯の汚染とねじ曲がった願いの実現・・・というか、大分前にオレが遠坂に話した事を同じように言っただけなんだけど。

「貴方が異なる平行した世界から来た。そこから既に疑わしいけど、仮に事実として、貴方は私にどうしろと?」

「さっき話にもありましたけど、不完全な聖杯として縛られている女の子、桜ちゃんを助けて貰いたいんです。キャスターさんの力があれば、刻印虫を除去する事が出来るかもしれない。と」

沈黙。キャスターは少し思考を巡らせ、答える。

「実際に看なければ分からないけれど、その刻印虫を除去する事は話を聞く限りでは多分可能ね。でもそれをして私に何のメリットがあって?間桐桜だったかしら。その人には同情するけれど、何の見返りも無く助ける気にはなれないわ。私はその人の知り合いでもないし」

「見返りなら、あります」

ここでこけたら、根本から話がオジャンになる。・・・頼むぞ、魔女様っ。

「キャスターさんは、えっと、汚染された魔力をろ過っていうか、その、不純物な悪意とかのみを取り除く術を持っていますか?」

「・・・えぇ、不純物を取り除き魔力を無色に還元する方法は知っているわ。例え、聖杯の様な大規模なものでも通用する方法を」

―――良しっ。

「キャスターさんの望みは、現界し続けて葛木先生と共に居たい事ですよね?でも現界をするには先立つものが要る。大聖杯には前回取り込まれた魔力の残りが充分あります。でも汚染されているから、ろ過しなければならない。不完全な聖杯を除去する事は、同時に汚染された魔力をろ過しやすくする事にも繋がります。つまり、桜ちゃんを助ける事は同時に見返りも与えてくれる事にも繋がるかと思うんですが・・・」

「不完全な聖杯を除去するのなら、助けるんじゃなく文字通り殺して取り除く方が早くなくて?」

「な・・・・・・っ!キャスター、アンタ桜を殺すってのか・・・!」

桜を殺すと宣言したような発言に、衛宮が怒りを露わに立ち上がろうとする。が、

「衛宮・・・っ」

オレは強めの視線で、『頼む、ここは抑えて』と告げる。その視線を正しく感じ取ってくれたのか、渋々正座し直してくれた。

「・・・・・・」

一方の遠坂は、何も言葉を発することなくキャスターを見つめている。さっきの発言から、視線は射殺さんばかりに厳しくなってしまったが。魔術師としてなら、効率の良い方法を取る方が正しいと理解しているからこそ、何も言わない。でも、桜の家族としての感情はそれを容認出来るわけがない。だから、視線が険しくなる。

「確かに、桜ちゃんを殺す方が手っ取り早いとは思います。でも、こちらにはセイバー、ランサー、アーチャーの3人のサーヴァントが居ます。桜ちゃんを殺すなら敵になりますが、助けてくれるなら味方になる。後々考えても、手駒が多い方が魔力のろ過と現界し続ける事は容易になると思いますが」

手駒なんて表現は好きじゃないけど、今は形振り構ってる場合じゃない。何としてでも説得しないと。

「・・・・・・・・・」

キャスターは沈黙を続けている。

「お願いします、どうか・・・この通りです」

オレは畳に頭を擦りつけて、土下座する。

「オレに出来る事なら何でもします。だからあの娘を・・・桜ちゃんを助けるのに協力して下さい」

「・・・オレからも頼む。オレは半端な魔術使いだ。悔しいけど桜を助けてやれない。だから、アンタの力を借りたいんだ。頼む、協力してくれ!」

「・・・あたしからも、お願い。桜を刻印虫の縛りから助けるには、神代の魔術を行使出来るキャスターの力を借りるしかないの。あたし達に力を貸して。・・・・・・お願い」

衛宮、遠坂もオレに続いて土下座し、キャスターに懇願する。

「・・・・・・・・・」

それでも、キャスターは沈黙し続けるだけ。・・・やはり、ダメなのか?



「あの〜、ちょっとええかなぁ?」



と、シリアスな空気を何となくぶち壊すかのように発せられる呑気な声。オレ達から見れば上家、キャスターから見れば下家。そこに、ちょこんと正座して成り行きを見守っている・・・というか、暫く黙れと言い聞かせただけなのだが・・・人が1人。この関西弁が出てる時点で誰かなんて言うまでもない。恐る恐る手を挙げて発言をしたいという意思表示している人間・・・七枷七海。オレのかーさんが、割り込んできた。
本当なら、魔術を見た一般人だからこの話し合いに居合わせる事無く眠らせるなり記憶を消すなりしている筈なのに、何故に何の措置もしてないんだ?と思う人も大勢いるだろう。当然したさ、措置。でもダメだったんですよ何故か。
大雑把にその当時を振り返るとこんな感じ。



「―――Anfang(セ ッ ト) Ein Schlaf(睡 眠 誘 発) Abzug(記 憶 消 去) Wiederaufbau(再 構 築)

光が集束し、かーさんに向けて弾け飛ぶ。眠りの魔術を発動させ、成功した。・・・が、

「え?・・・遠坂さん何してるん?」

「な・・・!?嘘、何で眠らないの?ちゃんと魔術を行使したのに!?」

「・・・?」

「何をやってるのよ貴女は。使えないわね」

「な、何よその言い草!私はちゃんとやったわよ!じゃあアンタが眠らせてみなさいよ!」

「・・・仕方ないわね。―――γζλυαξ」

声としては聞き取れない何かがキャスターから発せられ、瞬く間に魔術が発動する。・・・・・・が、

「・・・キャスちゃんも、どないしたん?指先がピカーって光ったけど、手品かなんかなん?」

「う、嘘・・・?何故眠らないの?ちゃんと魔術を行使したのにっ!?」

「・・・・・・人の台詞をパクらないでくれる?」



そんなプチ騒動を経て簡単に調べた結果、キャスター曰くどうやらかーさんには精神を弄くる系統の魔術は一切通用しないらしい。それ何て対魔力?と思ったが、どうも対魔力とは別物なのだそうだ。精神操作以外の魔術・・・つまり、直接攻撃の系統には適用されていないらしい。現に、実験でキャスターが作った熱量を持つ光弾を近付けても催眠の魔術のように弾かれたりはしなかった。

「・・・・・・かーさん、頼むから暫く黙ってて。今、とても大事な事を話している最中なんだ」

そして、あんたが喋れば確実にシリアスさ崩壊なんだ空気嫁。

「そんな事言わんといてや。ちょっとだけやって。・・・なぁキャスちゃん?」

「・・・なんでしょうか、七海さん」

とはいえ、キャスターが質問を許可してしまったからもう口を挟めない。

「話の内容が良く分からんかったんやけど、もしキャスちゃんが協力してくれへんかったらどうなるん?」

「・・・多分、私達と陣君達とで殺し合いに発展するでしょうね。今は戦争中ですので」

「・・・殺し・・・合うん?キャスちゃん達と陣達が・・・?」

呆然と、かーさんがキャスターの答えを反芻する。と、

「あ・・・・・・あ・・・・・・」

・・・・・・あ?

「アカーーーン!」

かーさんの叫び声が響き渡る。てか、いきなり叫ぶなよ!ビックリするだろうが!

「アカン!アカンよ!?殺し合いなんてアカーーーンーーー!!」

いや、アカン言われましても・・・。

「な、七海さん。そう言われても、私にも譲れないものがあります。協力するにしてもそれなりの信用が必要です」

「うちの陣は、裏切ったりなんかせーへんよ絶対に。そんな悪い子に育てたつもりないし、遠坂さんや衛宮くんかてとってもええ子やで?」

かーさんは必死にキャスターに言葉を向け、若干タジタジになりつつもキャスターは冷たく返す。

「そ、それでもですね。手放しでの信用が出来ない以上、私の利に見合う代価とは言えないんですよ七海さん。ですから、この交渉を承諾する事は出来ません。例え、七海さんの希望であってもです」

「ほ、ほんならうちも代価出す!」

「「―――は?」」

オレとキャスターの声がハモる。お前は何を言ってるんだ?と思っていると、キャスターに近寄り、ごにょごにょ。と、キャスターに耳打ちする我が母親。だが何故に顔を赤らめてるのか?

「―――――――」

そしてキャスターよ。貴女も貴女で何故にポカーンと呆けているのでせうか?そしてギギギ・・・とゆっくり顔をかーさんに向け、

「な・・・七海、さん?あの件は、恥ずかしいから出来ないって・・・」

「そ、そりゃあ恥ずかしいけど・・・うちに差し出せる代価てこんなんしかあらへんし・・・。そ、それで足らへんかったら」

す・・・っと、一枚の写真のようなモノをキャスターに見せる。

「キャスちゃんが希望してた、こ、こんなヤツ以上のポーズかて、す、するで?」

差し出されたそれをキャスターが確認した途端、ブッ!と鼻血が飛び散る。あのー七海さん?貴女は一体何をする気でおいでなのでしょうか?

「―――――」

ぷるぷるぷる、と顔を背け手で鼻を抑えて悶えている若奥様。

「・・・やっぱこんなんじゃ、アカンかな」

ぷるぷると震えて悶えているのを、言語道断と思って怒っていると思いこんだのか、かーさんはまたもしょんぼりと頭を項垂れる。

「―――アカンよね。ゴメンなキャスちゃん、不愉快にさせて。この条件はヤメにするから、うちは思いつかへんけど他の事で―――」

ぎゅぴーん。と、キャスターの目が光る。オレの想像ではあるけどそこには、『最後まで言わさん』とか、『アタックチャンスキタ━(゚∀゚)━!!!』とか、そう言った類の意志を感じ取った。
鼻血を拭いもせずにガシッ!と、かーさんの両肩を掴み、正面に向かい合わせる。

「―――ふぇ?」

「分かりました、陣君達に協力しましょう」

「「「「エエエェェ(゚д゚)ェェエエエ!?」」」」

ちょっっっっっおまっっっっっ!?今の今まで沈黙して協力渋ってたのに、何その態度の豹変っぷりは!?オレ、衛宮、遠坂だけでなく、アーチャーまでもが上のような顔で同じくハモって声を上げて驚いていた。

「えぇの?キャスちゃん」

「何を言ってるんですか七海さん。他でもない貴女のお願いを断るだなんてとんでもない!喜んで陣君達に協力させて頂きますわ。・・・・・・後、一段落したら約束通りコレを存分に撮らせて頂きますので、お忘れにならないようにお願いしますね」

さっきまでの台詞と全く正反対かつ後半部分に己の本音を全開にしてあっさりと快諾してくれやがったよこの人。

「か、かーさんちょっと!!」

キャスターから引き離して、部屋の隅っこに連行。

「な、何やの陣?恐い顔して・・・」

「何やの?じゃねーよ!一体キャスターさんに何を吹き込んだ!?」

「ふ、吹き込むて・・・」

ふと視線を下げると、かーさんの手には一枚の写真らしき物体。・・・思えば、コレを見せたらキャスターが壊れたんだよな確か。

「・・・あっ」

そして、その視線に気付くとこれ見よがしに背中に隠すこの幼女体型。・・・・・・ぁ ゃ ι ぃ。

「ちょっとそれ貸し」

「あ、アカンよ!?」

差し伸ばす手を必死に避けて見せようとしない。が、そんな柔い抵抗なんてものの数秒で瓦解する。

「えぇからとっとと貸さん・・・・・・かいっ!」

「あぁっ!?」

その手にある写真を引ったくられ、取り返そうと手を伸ばすかーさんであったが、如何せんオレとの身長差は約30cm。オレの左手で抑え込まれ、且つ写真をもつ右手を遠ざければもはやその写真に手が触れる事すら叶わない。彼女の身の丈の無さが悔やまれた。オレに好都合なのは言うまでもないけど。

「か、返して陣〜!それか返さんでもええから見たらアカーン!」

「はいはい、返す返す見ない見ない」

「思いっきり見ようとしてるやないの〜!アカンて〜!」

じたばた手を振る母親をスルーして、裏向きになっているその写真を表に返す。
キャスターの態度を一瞬で変えさせる程の代物だ。一体どんな内容が写―――――






( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシゴシゴシ

(;゚д゚)・・・。

(つд⊂)ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚)・・・!?

「あぅぅ・・・」

見てるモノの中身がシンジラレナイと目を擦り何度も見直す少年と、中身がバレてばつが悪そうに俯くその母親という構図に、士郎も凛も何事かと見守っていた。声を掛けようかとも思ったが、その異様さに気圧され躊躇わざるを得なかった。

「―――――――――――は」

と、唐突に陣から発せられたのは、失笑とも嘲笑とも苦笑とも取れない、笑い声らしきもの。

「は・・・はは、あはははははははははあはははははははは」

そして、全てが決壊したように壊れたような笑い声が響き渡る。

( ゚∀゚)アハハハ八八八ノ ヽノ ヽノ ヽ/ \/ \/ \と固まったまま笑うその様に、流石に士郎は心配になり近付いてきた。

「お、おい七枷・・・一体どうしたんだ。大丈夫か?」

衛宮が大丈夫かと声を掛けてきてくれたが大丈夫じゃねえ。見ろよ、この写真を・・・!
いや、厳密には写真じゃなくてアニメチックなラフ画みたいなものなんだけど、この格好が問題ありすぎなんだ。目の前にはゴスロリ服に身を固めた可愛らしい幼女のラフがある。そしてその格好は、口にスカートを軽く咥えて・・・ぱ、ぱ、ぱぱ・・・ぱん・・・・・・ちゅが、ぱんちゅが丸見、えなわけ・・・で。あ、あ・・・あはははははははこの構図見るだけでまた頭が痛くなってきましたよ笑うしかねーわけですよ真面目な話。
キャスターが可愛いモノ好きで色々弄くり回したい嗜好なのは理解してる。百歩・・・いや、百万歩譲ってまぁこんな絵を撮りたいのは仕方ない事だよなぁと納得もしてやろう。

だが、



オレ達の必死の懇願や土下座は、こんなエロラフ画のポーズ一枚に劣るという結論を下してくれやがるのは、幾ら何でもあんまりではなかろうか・・・・・・。orz



「一体何があったんだよ・・・・・・・って、ぶっ!?」

陣の視線を辿り、士郎もそこに行き当たった。その、えちぃポーズが描かれているラフ画に。

「え、あ、お。・・・・・・って事はつまり」

先程の会話から、差し出す対価の内容をものの数秒で推察する。つまりはここにいる友人の小さなお母さんが、こーんなフリフリの衣装を着て、あーんなえちぃポーズをして、それをキャスターが撮―――――

ガシ!

「うごっ!?」

と、そこまで思い至った辺りで急に視界が6割程消える。ついでに、頭部に軋む様な痛みを伴って。つまりはまぁ、アイアンクローされてるって事ですが。

「な・・・七枷?」

それをやってるのは、いつの間にか笑いを止めていた彼女の息子であった。

「な、何すんだ七枷。痛いから早く手を離―――――」

いきなりな横暴さに士郎は不満げに彼の顔を睨み、

「―――して頂けませんでしょうか?」

その顔を見た瞬間、何となく敬語で頼むべきだと、自身の第六感が告げていたので彼はその通りにしておいた。命って、大事だしね?

「あー、うん。アレだ、想像・・・するな?衛宮?」

コロスゾ?
その穏やかな微笑に合わない、殺伐としたオーラがその赤文字の言の葉を紡ぎ出していた。

「たった今忘れました!お前のか・・・・・・んぐっ!き、記憶から抹消したぞ!うん!」

揉める事もなく平和的に締結出来てオレも嬉しいよ衛宮。今飲み込んだ『お前の母さんがいかがわしい格好で秘密の撮影会をされている所とか全く想像すらしていない』的な思考、もし1/3でも言葉に出していれば頭蓋骨絞めで頭をガリガリしつつ、融合する武具で何度も装着&引き剥がしをする事も辞さない所存だった。
友達を手に掛けずに済み、オレも些か安堵する。別に怒るほどの事でもねーじゃねーかと思う諸兄もいるだろうが、これは理の怒りじゃない。魂の怒りなのだ。どうにもできない。我が家の恥を言葉に出されるのは我慢ならない。皆も憎しみで人を以下略な感情を持ちそうしてやると思ったら、気付けば既に行動は完了しているだろう?
誰だってそーする。オレもそーする。
コレを抑えつけたければ、あくま的な畏怖とか黒く反転した人の毒吐きとかを持ってくるしかないだろう、きっと。
衛宮を解放する。そして魂の怒りの矛先を、かーさん(我が家の恥)に向けた。

「かーさん・・・」

「じ、陣・・・?」

すぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・っと、息を吸い込み、チャージ

「―――――大っっっっ却下じゃボケ!!!」

完了する前に爆発した。本当はもっと大きく激昂するつもりだったので不満は残るが、まぁこれくらいでも一応充分だと無理矢理納得させる。

「何!?ねぇコレ何なんだよ!?こんな格好で写真撮らせるのかアンタは!我が家の恥を晒そうとすな!アンタには羞恥心ってモンがないわけ!?」

「は、恥ずかしくないわけ無いやろ!せやけど、陣達とキャスちゃんが殺し合いするのなんてうち見たないもん・・・。それにキャスちゃんもこの条件で協力するって言うてくれたやんか。うちが恥ずかしいの我慢すればそれで全部丸く収まるんやし・・・何が不満なん?」

「ぐ・・・。い、いやまぁ・・・戦って血を見ないで済むのは願ったり叶ったり・・・だけ、ど」

「せやったら、これでええよね?」

「ぐ・・・ぐぐ・・・ぐっ」

顔をかーさんから背けて手をこめかみに当てる。落ち着け、クルーにな・・・れっじゃない!何で乗務員なんだよ!そうじゃなくてクールになれ七枷陣。いいのか?本当にこれで全てが解決したのか?それでお前は納得出来るのか・・・?

「陣君?ブツブツと呟きながら考えてる所悪いのだけれど」

出口の見えない思考をバッサリと切り捨てるように、キャスターの声が割り込んできた。

「申し訳ないけど私、七海さんが提案してくれた条件じゃなければ協力はしないわよ。今決めたわ」

「なっ!」

そ、そそそんなご無体な!まだ慌てるような時間じゃない!暫しの猶予を!・・・そうだ、葛木に少し自重するよう呼びかけて貰えば何とかなるかも。

「く、葛木先生も何か言って下さいよ!」

「・・・アレが彼女の撮影を望むのならばそうすればいい。互いが合意の上で決まったのなら、私が横やりを入れる筋合いは無い」

・・・くっ!この無個性どマニュアル放任教師使えねぇ・・・っ!
そしてそんなオレの抵抗も虚しく、魔女は決定的な沙汰を下す。

「そう言えば陣君?貴方確か自分に出来る事なら何でもするって言ったわよね?」

「え、えぇそう言いまし・・・」

全てを言い切る前に、目の前の魔女は『にぃ・・・っ』っと底冷えのする笑みを浮かべる。例えるなら、「そう、その言葉が聞きたかった」という感情がこもっているような。あるいは、相手が対抗手段の入ってないデッキでこっちのステイシスロックが決まった直後の優越感にも似ている。

「た・・・け、ど・・・・・・」

ま・・・・・・

「そう、じゃあ早速だけど1つ言う事を聞いて貰おうかしら。特別にこの一回だけを聞いてくれれば、それで後はチャラにしてあげましょう」

ま     さ     か     !!!!






「七海さんで色々撮影する事を承諾なさい、陣君」






そして、魔女の願望は告げられた。






寺の境内をセイバーは駆け抜ける。己の主との繋がりは今現在でもはっきりと感じ取れるので、少なくとも死亡はしていない筈。重畳ではあるが、相手はあの裏切りの魔女である。死んではいないが追い詰められている可能性が無くはない。一刻も早く合流しなければ。
本堂を瞬く間に横切り、渡り廊下を飛び越えんばかりに駆け、離れを目指す。主との距離が一気に狭まって行くのを感じ取れる。もうすぐだ。

「(あそこか・・・っ)」

目測でおよそ10m弱。その襖の先に、士郎や陣達が居るはずだ。1秒程度で追いつく・・・・・・!
スパーン!と、勢い良く開け、

「遅くなりましたシロウ!皆無事で・・・・・・!」

と、そこまで語るが、

「―――――」

内部の状況に、絶句した。

「は・・・はは、は。そうだよ、これがベストなんじゃないか。無血で解決してしかも協力して貰えるんだから。第一何でも言う事聞くって言ったのオレだしね?・・・オレだしね?良いッスよ、こんなんで良ければ好きなだけ撮るがいいさ。は・・・はは・・・・・・う、うぐ・・・うおぉぉぁぁぁん・・・」

orzと膝をついてブツブツと何か呟いて泣き崩れている陣と、

「ふふふ、これでまた楽しみが増えたわ。聖杯戦争が済んだ後、日を改めてお願いしますね七海さん」

満足げなホクホク顔で語りかけているキャスター。

「あ、はは・・・。お、お手柔らかになキャスちゃん。その、出来るだけ頑張るけど・・・あの、全部見えるとかは流石にうちもちょっと・・・」

でも約束やから、キャスちゃんが望むなら。と、少しタジタジになりながら応えている女の子。・・・・・・誰?

「・・・・・・ずずっ」

と、メガネをかけている痩躯の男は茶を啜りながら能面の様な無表情で、

「「「――――――――――」」」

そして、可哀想な人を見るような何とも言えない面持ちで士郎、凛、アーチャーはその光景を見守っていた。

「え―――――と」

色々と突っ込みどころが満載ではあるが、今この場で語るべき相手と紡ぐべき言の葉は決まっている。
コレだ。・・・1、2、3(ワン、ツー、スリー)と、どっかで妙な女声が聞こえた気がしたが無視。



「―――シロウ、これは一体どういう状況なのか説明して貰えませんか?」



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