※この幕間は、29話を読み終わってから読む事を強く推奨します。
「はい、ではそのままスカートを持ち上げて・・・そうそう、そんな感じで」
パシャ。パシャ。アングルや光加減を見つつ、慎重かつ大胆にシャッターを切るセーター姿の女カメラマン。
「も・・・もうこの格好はええやろキャスちゃん?」
顔を赤らめ、同じポーズのままもう十数枚は取られている被写体。着ている清楚な純白のドレスは胸元がはだけ・・・といっても、下着として着ている白のキャミソールは脱いでないから胸は見えないけどね・・・、スカートは両手で持ち上げられその先にあるその・・・なんつーか中身?がうっすらと見えてしまっている程度の状態だ。いや、勿論そこも下着は着けてますよ?と言うか、脱げてたら流石に止めに入らざるを得ない。
「・・・そうですね、ではこのポーズはこれで終わりにしましょう」
「・・・・・・ほっ」
「では、今度はこのワンピースを着て下さい。ポーズは・・・そうですね、左肩をキャミソール込みではだけさせて下さい。見えそうで見えないくらいに。で、こう・・・突き飛ばされて倒れ込んでしまったような感じで座って貰ってカメラ目線は恥じらいを含ませつつ切なそうな感じでお願いします。スカートはそうですね・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ようやく終わったと思い安堵の息を吐くが、また新たな注文を迫られ泣きそうになっている被写体。まぁ、自業自得なわけだが。
この話は聖杯戦争が集結して、色々ゴタゴタして、ようやくそれなりに元の日々が戻ってきた矢先・・・とある春から初夏に差し掛かろうかという辺りの土曜日に起きた出来事である。
オレは半ドンで学園から戻り、居間で吉本新喜劇とたかじんの胸いっぱいを交互に見つつ昼飯を食ってる最中、突如キャスターが訪問し
「七海さん、あの日交わした約束を果たして貰いに来ました」
開口一番、こんな事を宣ってくれた。そう、協力する代わりにかーさんを思う存分撮影させろ!っていうアレ。・・・・・・ここだけの話でぶっちゃけるが、すっかり忘れてました。
「う・・・うん、分かった。そういう約束やったもんね」
かーさんの方は覚えていたようで、遂に来たかという何とも言えない表情でドナドナされて行こうとする。
結論から言ってしまうと、オレも一緒に柳洞寺へ赴く事にした。・・・そのままスルーしても良かったんだけど、何となく嫌な予感もしたから監視役を兼ねてって事で。
キャスターは失敬なとお怒りな様子だったけど、
「まぁ、それで陣君が納得できるなら構わないわ。付いてきなさい」
と、渋々許可してくれた。
そして、今に至る。当初感じていた嫌な予感は的中。撮影所と化していた居間には50枚撮り高画質フィルム(プロ用)が大量に積まれていた。・・・段ボール単位で。流石にこれはひどいとかーさんと共に説得。どうにかフィルム1個分で済ませて貰える事となった。えちぃく無いやつなら日を挟んでいくらでも撮らせて上げるというかーさんの言葉が、キャスターを自重させる決め手になった事は間違いないだろう。
で、色々な服を着せてはだけさせてポーズを決め、フィルムの数はドンドン消費されていく。意外な事に、モロに見えるような格好はかなり少なかった。カメラマン曰く、
「時代はエロなんて求められてない。エロ可愛いこそが求められているのよ陣君。只の裸を撮るだけなんて萌えないわ。見えそうで見えない。あれ、でもちらっとだけ見えちゃってないコレ?っていうこの何とも言えないモノこそ真の萌えなのよ。分かるかしら?」
と、熱く語られていた。当然、
「・・・・・・あ、そっすか」
としか返せない。特殊な嗜好を持つ一部の男子諸兄には興奮してハァハァしてしまうのかもしれないのだろうが、オレにとってその被写体はその対象に成り得ない。只の母親で30ピー歳な事実の前では興奮もへったくれもない。萎えるってレベルじゃねーぞ。寧ろこんな恥ずかしいポーズで写真撮られてる母親を目の前にしてると、痛々しくて泣けてくる。
そうこうする内に、キャスターの持つカメラからキュルキュルとフィルムの巻き取り音が響く。フィルムを使い切ったようだ。撮影会はようやく終了となった。
「ふぅ・・・これで終わりやねキャスちゃん。うぅ・・・めっちゃ恥ずかしかった・・・」
かーさんは今度こそ安堵し、はだけた服を整えようとする。
その刹那。
「何勘違いしているの?」
「「――――――――――は?」」
オレとかーさんの声がハモる。彼女の冷たく響くその声と、フィルムの無神経な巻き取り音が妙にマッチしていた。
「まだ私の撮影フェイズは終了してないWA」
ちょwwwいきなり何をwwwバトルってwww!?
「さぁ行くわよ!まず1枚目!ロックオン、シャッターチャンス!」
パシャッ!神懸かった速さでカメラのカバーを開きフィルムを回収、2つ目のフィルムをセットしてかーさんを撮影。・・・ここまでの動作、確実に2秒を切っていた。
「2枚目ロックオン!シャッターチャンス!」
パシャッ!
「あ・・・あの、キャスちゃ」
「ロックオン!シャッターチャンス!」
パシャッ!
「ひゃあっ!?」
何とか静止しようとかーさんが声を掛けるが、バーサーカー魂が発動中でパターン入った!なキャス子に届く筈もなかった。
「ロックオン!シャッターチャンス!」
パシャッ!
「ロックオン!シャッターチャンス!」
パシャッ!
「ロックオン!シャッターチャンス!」
パシャッ!
そして、それは2つ目のフィルムを使い切っても終わる事が無かった。
「ロックオン!シャッターチャ・・・」
キュルキュルとフィルムの巻き取り音が鳴っているにも関わらず、キャスターは更にシャッターを切ろうとする。使い切ったのに気付いていないようだ。
「も・・・もう止めて下さい!キャスターさん!」
狂気じみて恐かったけど、このまま放置していたら無限ループに陥って話が終わりそうにない気がしたので、ガシッ!と、キャスターを羽交い締めにして抑えつける。
「HA NA SE!」
「と・・・とっくにフィルムの枚数は0ですよ!もう撮影会は終了したんですってば!」
「HA NA SE!」
「ちょ!・・・だ、だからとっくにフィルムの枚数は0なんですってば!」
「HA NA SE!」
このやり取りは夕方まで続き、外出から帰宅した一成と、珍しく一成と買い物に付き合い、ついでに柳洞寺にも顔を出しに来ていた衛宮と共に抑えつけてようやく終わりを迎える事になった。
ちなみに、我に返ったキャスターはその後一成に大目玉を食らい、折角撮った2つのわいせつ物はボッシュートされ焼却処分と相成ったのだが、それはまた別のお話である。
・・・・・・と言うか、もうやだ。こんな役回り。orz