「ふ―――――!」

ライダーは逃げ回るアサシンに向けて何度も釘剣を投げつける。

「キキ――――!」

対するアサシンは、木々を小刻みにかいくぐり相手の放つ攻撃の軌道から逃れる。あわよくばそのまま逃走しきる腹づもりだが、ライダー相手にそれを実行しきるのは骨が折れる。

「騎乗兵が・・・!」

反転。逃げ回るのを一旦止め、都合4本のダークをライダーに向けて投擲する。

「く―――!」

既に己の得物を手元に戻していたライダーは、その内の1本を鎖で、別の2本を両手に持つ釘剣で弾き、残る顔面めがけて放つ1本は上体を反らして回避する。一見容易く見える行動だが、先制攻撃スキルを持ったアサシンの投擲はライダーにとって冷や汗ものと言うレベルを軽く越えている。中る、中る、中る、中る・・・という強迫観念がライダーの神経と筋肉を緊張させ、回避動作のタイミングを鈍らせる。が、それを踏まえての全弾回避。想像以上に精神力を使いはしたが、ライダーはそれを成し遂げる。

「貰い受ける―――――!」

このまま逃げるより仕留める方が得策と考えたのか、そのまま更に投擲を続けようとするアサシン。・・・だが、そんな事はさせない!

「『脱力』!」

既に詠唱は完了しているこのカードをアサシンに対して発動させる。

「な・・・・・・ぐっ!?」

文字通り気力が削がれ、身体も硬直し、地に伏せるようにアサシンは崩れ落ちる。
如何に英霊であろうと、対魔力スキルの無いアサシンならばオレの魔術の効果はほぼ100%通用する。

「今だ、ライダー!」

動きを封じたのを見計らって、ライダーにトドメを刺して貰うべく叫びかける。通用するとはいえ、脱力の効果は一時的なもの。直ぐに復帰されてしまう。その前に、何としてでも・・・!

「・・・せぇっ!」

再度釘剣を投げつける。今度は目標が動く事はない。鉛の蛇は一撃で滅さんと言うかのように、暗殺者の顔面に向かって只ひたすら直進する!

「やった・・・!」

確実だ。これ以上はないって位に確実。果たして、ライダーの得物は・・・・・・



ドグッ!



アサシンの背後にあった木に突き刺さった。

「え?」

一瞬呆然とした。顔面を穿たれるはずだったアサシンの姿は、何の前触れも無く一瞬にして消えてしまった。気配遮断とかじゃない、霊体化でもない。存在そのものがその場から消失してしまった。

「・・・恐らく令呪による送還ですね」

舌打ちをしながら蛇を引き戻し、口惜しそうにライダーは呟く。

「このままアサシンが斃されてしまうのを怖れたゾウケンが、やむを得ず1つ消費してアサシンを自分の元へ帰らせたのでしょう」

失念していた。サーヴァントならば当然存在する令呪の存在を。アサシンのマスターである臓硯も当然それを三回分行使出来る。だけど、当面の危機は去ったし相手の令呪を一回使わせた。ついさっきまでの絶望的な状況からすれば、雲泥の差なんだ。これで不満なわけがない。・・・尤も、斃せるならそれに越した事はないんだけど。

「そうか、まぁ撃退出来たしコレで一旦収束しよう。・・・・・・で、コレは一体どういう事なのか説明して貰えるよね?」

ちらりと慎二を見て問う。学校では生徒全員を皆殺しにしかねなかった。だけど今はオレを助ける行為をする。やる事が正反対で滅茶苦茶だ。何かを狙っているのだろうか。

「う・・・・・・」

ばつが悪そうに、顔を引きつらせて慎二は黙ってしまった。ライダーがいるから無駄に等しいが、いつでも魔術を使えるように油断なく動向を見守る。

「シンジ、ジンが警戒しています。貴方からちゃんと言うのでしょう?」

「う、五月蠅いな!分かってるよ!ちゃんと言うさ、ちゃんと!」

渋々と苦い顔をして、だがゆっくりと口を開いた。

「七枷、虫のいい話なのは分かってる。だけど頼みがあるんだ」

「頼み・・・?」

「あぁ、頼みって言うのはお前だけじゃなくて全員に対してなんだ。だから、まずは衛宮達に取り次いでくれないか」

「・・・・・・助けてくれたのには本当に感謝してる。でも、それは出来ない」

もし、助けたのが油断させる為の罠だったとしたら。そう思ったらとても連れて行く事は出来ない。そして、これでコイツがオレを人質に取ろうとするなら、その疑惑は確定だ。

「頼む七枷・・・・・・!」

左腕を両手で掴まれ、

「ちょっ、おい慎二―――」

「―――――助けて、くれ」

「―――――へ?」

その言葉を聞かされ、オレは目が点になった。






『Fate/The impossible world』






「・・・で?これは一体どういう事なのかしら七枷君?」

「その・・・どういう事、と申しますと?」

「あらあら、心当たりありすぎて分かりませんか?確かに勝手に先行した事とかそのせいでアサシンに襲われて怪我して死にかけた事とか色々ありますが、今私が問い詰めてる事はたった1つだけだと理解出来るわよねこのへっぽこ」

「あ・・・え、っと」

ゴゴゴゴゴ・・・と活火山の噴火直前な感じでにこりと笑いを浮かべている遠坂。久々に見るそのあくまっぷりに懐かしさを感じてしまう。お久〜。

「・・・なんでアンタがライダーやおまけの慎二と一緒に戻って来たかを聞いてんのよ!」

とか現実逃避じみた感想を抱いていると、急に噴火して胸倉を掴まれた。

「リ、凛。あまりカッとならずに落ち着いて。ジンが酷く怯えてま」

「・・・セイバー?ちょ〜っと黙っててくれるかな?」

「う・・・あ・・・。は、はい」

キレてる憤怒の笑み状態な遠坂には、騎士王すらアウトオブ眼中。カリスマスキルをはね除けて、逆に黙らせてしまった。

「七枷君?納得の行く回答は勿論用意しておいてくれてるわよね?」

そ、そんなこと言われても、オレだって今も困惑してるんだってば。アサシンを撃退した後、慎二に助けてくれとか言われて何が何やらでしてね!?

「大体、アンタよく寝首を掻かれなかったわね。コイツならライダーで後ろからブスリ、くらいやりかねないと思ったけど」

「そ、それは大丈夫。ほらこれ・・・・・・」

と、ずっと手にしているそれを掲げて遠坂に見せる。

「な・・・・・・!」

遠坂も衛宮も、無論セイバー達も見た事のあるその本。偽臣の書だった。

「ライダーのマスター権も一旦オレに移譲させる事を条件にしたんだ」

そして、その条件を提案したのは他でもない、この慎二からだったのだ。

「・・・・・・慎二、アンタ一体何が目的な訳?」

普段の慎二を知っている遠坂なだけに、偽臣の書を渡す行為に不信感全開になったのだろう。睨むように・・・と言うか完璧に射殺すように睨み付ける。

「こ、こうでもしなきゃ信じて貰えないだろう?僕は騙し討ちをするつもりはない、話がしたいだけっていう事をさ」

それに、本は衛宮達に会うまで預けるっていう事になってるし・・・と、威圧されながらも慎二は遠坂に答える。

「・・・アンタ馬鹿?返して貰えると思ってるの?」

視線をオレに移して、『返しちゃダメよ』と目で語る。その返答は、首を横に振る事で返した。

「な・・・・・・陣!」

「一応約束だからさ。それに大丈夫だよ遠坂さん」

そう言って、オレは本を握りしめライダーに命令を与える。

「ライダー、武器を床に置いて。そして2〜3歩下がって動かないように」

「分かりました」

ライダーは言われた通りに釘剣を床に置き、数歩下がって直立不動になる。

「セイバー、アーチャー。ライダーの両脇に陣取って欲しい。武器を持つかどうかは好きにしてくれ。・・・と言っても、当然持つだろうけどね」

「当然です」

「言うまでもない事だな」

言われた通りにライダーの両脇へ移動し、方や聖剣を、方や双剣を取り出しいつでも攻勢に移れるようにする剣士と弓兵の2人。

「ほら、これで返しても大丈夫でしょ?不審な事しようとしたら即命を落とす事になるし」

「なぁ遠坂、七枷もここまでやってくれてるんだし、渡しても大丈夫じゃないのか?」

「し、士郎アンタまで陣の肩を持つつもり?コイツが学校でやった事を忘れたの!」

「忘れるわけ無いさ。あれは許し難い事だけど、慎二がここまでやってオレ達に会いに来たって事は、相当切羽詰まってるんだと思う。セイバー達もいるんだし、話を聞くだけ聞いてもいいんじゃないか?」

「〜〜〜っ!・・・分かったわよ、好きにしなさい」

全くもう・・・と、溜め息と共にこめかみを押さえて渋々承諾してくれた。いやその、頭痛くなることばっかりで申し訳ないです、はい。

「それじゃあほら、返すよ」

「あぁ・・・確かに」

そして、偽臣の書を慎二に返す。慎二の手に渡る瞬間、僅かばかりにセイバーとアーチャーの雰囲気が重苦しくなる。と言っても、何が起こるわけでもなかったのだが。

「それで、話ってのは何?」

一同が注目する中、慎二は神妙な顔つきで語り出す。

「その・・・単刀直入に言わせて貰うよ。衛宮、遠坂、七枷・・・・・・頼む、助けてくれ!」

「な・・・」

「・・・ん、だって?」

遠坂も衛宮も、慎二が急に助けを求める発言に動揺を隠せないでいる。そりゃそうだ、あのプライドの高いこの男が、よりにもよってこの2人に助けを求める事などまず無いと知っている人は思うだろう。それは、本人達が一番理解している所でもある。

「どういうつもり?私達が他のマスターと組みだして、自分が不利になりだしたから命乞いってわけ?」

「ち、違う!僕の事じゃない!僕の事じゃなくて・・・・・・」

何かを思い出したのか、慎二は青ざめた表情で視線を下に向け俯いてしまう。

「・・・もう、僕じゃどうにも出来ないんだ。だから、頼む・・・あいつを・・・さ―――」

「っ!?これは・・・!」

慎二の言葉を遮るかのように、今まで静観していたキャスターが突如立ち上がる。と同時に、厳しい表情で明後日の方向を睨んでいた。

「キャ、キャスター・・・さん?」

「黙って」

ぴしゃり、と声を掛ける事すら認めてもらえずに遮断。一体どうしたっていうんだ・・・。

「・・・・・・話の途中で申し訳ないのだけれど、一旦打ち切りね」

「へ?」

「何者かが私の神殿(寺の結界内)に侵入してきたわ」

まぁ十中八九、その間桐臓硯という蠱使いでしょうけど。と、付け加える。

「・・・え?」

直後、何か・・・得体の知れないナニカを見つけたようにキャスターがぽつりと呟く。徐々に表情が凍り付き・・・・・・

「ちょっ・・・と、何これ・・・」

そして、その貌はいつの間にか、完全に青ざめていた。

「・・・・・・逃げるわよ、早く!」

「へ?」

「早くなさい!死にたいの!?」

「ま、待って下さいキャスターさん!一体どうしたって言うんですか!」

「説明は後よ陣君!宗一郎様、七海さんをお願いします」

「・・・分かった」

すぅ・・・っと、葛木は音もなく立ち上がり母さんに近付くと、

「七枷さん、失礼する」

「へ、葛木センセ・・・わひゃあっ?」

背中と足へ手を伸ばし、抱き上げる。俗に言うお姫様だっこ。だが、憮然としている葛木がそれを実行すると何とも言えないシュールな光景に見える。

「不快でしょうが、暫くの間我慢していただきたい。こうして移動する方が楽ですので」

「べ、別に不快やないですけど・・・」

「さぁ兎に角ここから早く出るわよ!アレが来たら・・・多分、私達は全滅するわ」

キャスターにそこまで言わせる存在など、限られている。臓硯が襲撃してきた時から、薄々感じていた事だ。・・・でも、認めたくない。そんな予感は。

「・・・いや、今は考えて足を止める時じゃないか」

今は行動に移す事を優先しよう。衛宮達も既に準備は終えている。・・・現実逃避だと知りつつも、オレはキャスターの言う通りここから逃げ出す事に専念する。



部屋を飛び出て中庭へ飛び込み、そのまま突っ切ろうとしたその時―――――

「―――――っ!」

鉢合わせる。いや、既に待ち構えていたと言った方が正しいのか・・・。ほぼ全身が皺くちゃになっている背丈の小さい老人が、慌てて出てくるこちらを侮蔑するかのように嗤いの貌を浮かばせている。

そして・・・・・・その傍らには。






良く見知った、でも・・・変わり果てた彼女が、深く暗い笑みを浮かべて佇んで・・・・・・いた。







Interlude

陣達がキャスターのいる柳洞寺へ向かっていった時間帯からは大分時間は前後し、場所はとある大きな屋敷へ移る。
何百年も前からあるその屋敷で囚われの生活を強いられているとある少女。

今回の舞台は、彼女に焦点を絞り、目の当たりする事になる。










―――――――彼女の、堕天の顛末を。






世界はどうしようもなく私に冷たくする。

私が望んだ訳じゃなかったのに、冷たくする。

私は悪くない筈なのに、無慈悲に苦しめる。

毎日願った。「誰かここから助けて」と。

そう願ったのに、何故誰も助けてくれないのだろう。

私の想うあの人も、何故気付いてくれないのだろう。

私がこんなにも酷い仕打ちを受けているのに、誰も気付いてくれないのなら。

救って欲しいと願う(わたし)を無視すると言うのなら。






―――世界(あなた)なんて、死んでしまえばいい。



―――出典:夕暮れの放課後に窓辺を見つめる、とある少女の回顧録より。









今日も一日が過ぎました。学校帰りにスーパーに寄って、急激に増えた家族・・・・・・と言えるのかな?とにかく、増えたメンバー分の食材を数日分買います。お米とか重い物は流石に先輩に任せっきりになっちゃうけど、それ以外の食材は大抵私が担当させて貰ってます。先輩は最初、「食材も自分が」と言ってましたが半分聞き捨て同然でやっているうちに根負けしてくれました。
人数もさることながら、一杯食べる人が多いので作りがいがあります。まぁ、大変じゃないって言えば嘘になりますけど。

さてさて、少し遅くなっちゃったけど先輩の家に到着です。今日も人数が多いから一杯作らないと。
今日はあえて先輩得意の和食・・・お刺身関係で攻めてみようと思います。ふふふ、見えないところで結構努力してたりするので、今日こそは先輩のお株を完全に奪っちゃうかもしれません。

「お帰り桜、いつも悪いな」

「そんなこと無いですよ先輩、私が好きでやってる事ですから」

「あ、お帰り桜ちゃん。・・・お?今日は魚系?焼き?煮魚・・・は個人的に微妙かもなんだけど」

新しく来た住人(?)の、七枷陣先輩。出会ったときから、先輩を経由して親しくしてくれている1人。多分、私の知る男の人で先輩の次に仲の良い人・・・だと思います。初対面から、

『へぇ・・・衛宮、こんな可愛い子と知り合いなんか。彼女?』

と、当時では赤面モノの発言をしてくれたりして少し苦手だったりはしましたけどね。・・・まぁ、その、こんな台詞今も言われたらもっと赤面すると思いますけど。

『じゃあ、衛宮経由でオレとも仲良くしてくれると嬉しいな。よろしく、桜ちゃん』

と、握手も求めてくれたんです。でもあの当時の私は、先輩以外の男の人には人見知り・・・というか、拒絶してた感が強かったので、表情に表れていたと思います。現に当時の七枷先輩は、少し困った笑顔で先輩に助けを求めていましたし。
今では、こんな風に先輩の家で一緒にご飯を食べたりしているのは少し妙な気分です。・・・・・・七枷先輩は魔術が使えるらしいと、お爺様のお話から聞きました。しかも、ここ最近で急に。聞いたときには少し驚いたけど、本人の目の前では驚いたりしないようにしています。

「お帰りなさいサクラ。待ちわびていましたよ。今日の当番は貴女でしたね?どんな献立か実に楽しみです」

同じく、新しい住人のセイバーさん。・・・・・・サーヴァント。剣の英霊。みんなは隠しているけど、私は知っている。
だって、お爺様から聞かされていたから。・・・私は、ライダーを召喚したから。聖杯戦争に、参加したから。

「おや、帰ってきたのかね間桐さん。ふむ・・・今日は刺身か。なるほど、ここ暫くは焼き物、肉物が多かったからな。選択としては必然と言ったところだね」

同じく、新しい住人のアーチャーさん。・・・・・・彼も、サーヴァント。弓の英霊。・・・でも、何となく弓の英霊には見えない。私としては、執事(バトラー)とかのクラスがあれば絶対に当てはまっているような気がしたりする。彼には絶対言えないけど。それに何というか、懐かしさというか親近感というか・・・・・・そんなものをこの人からたまに感じ取る。何故だろう?

「お帰り桜。今日はアンタが当番だったっけ?あ、早速良さげな食材が目白押しね〜、ハマチに寒ブリにマグロか。今日はお刺身?」

そして最後に出て来たのは、この人。遠坂凛。穂群原の学園の先輩。

そして、私の―――――



私、の―――――



・・・・・・。いや、止めておこう。これ以上言ってはいけない。
えっと、とにかく彼女は私の1つ上の先輩。それだけです。それ以上でも・・・・・・それ以下でも、ありません。

「えぇ、お待たせしました。じゃあ、早速作っちゃいますね」

にこり、と笑顔を―――外面用の虚実の笑顔を浮かべて、私は厨房へ向かう。

さぁ、今は考えるのは止めよう。



今は只、無心に。無心に―――――ひと欠片の日常(しあわせ)を謳歌しよう。料理を作って、みんなと他愛もない話で笑い合って、家に帰る(あくむにもどる)。・・・・・・その時まで。



いただきま〜す!

いつもと同じ食事風景。あれ?藤村先生がいない・・・?まぁいいか。そんな事もあります。滅多に見ることは無いんですけどね。

「ぱくぱくもぐもぐゴクゴクこくこく・・・」

「刺身ウマー!ハマチ、これ最強やね」

「むぅ、また一段と上達しているな桜・・・・・・喜ぶべきか悲しむべきか」

「中々良い感じだ間桐さん。そこの小僧を抜くのももはや時間の問題だな」

「へぇ、お刺身ってあまり食べないんだけど、これはこれで良いわね」

みんな満足してくれているようです。やはり、美味しいって言ってくれるのは凄く励みになるし、何より嬉しくなります。

「はい、おかわりもまだまだありますから、皆さんドンドン召し上がって下さ―――」






―――――そして、それは唐突に起こりました。






「あれ―――――?」

まずは、先輩が気付きます。

「どったの衛宮?」

「いや・・・何て言うかさ―――――」



「変な匂いしないか?」



匂い?・・・くんくんくん。先輩は訝しげに周りを嗅いでいます。私も嗅いでみます。くんくんくん。・・・・・・別に何も匂いません。ガス漏れとか思ったのですが、特にガスの匂いもありません。

「どれ・・・・・・?ん?確かに匂う・・・?」

「くんくんくん・・・・・・ふむ、私も匂いますね」

「なんだこの匂いは?どことなく不快感をもよおすな・・・」

「・・・・・・なんか段々と匂いが酷くなっていってる気がしない?」

みんながみんな、口々にそう言っています。・・・匂いに気付いていないのは私だけ。おかしいなぁ、別に風邪をひいて鼻づまりとかなってないのに。

「くんくんくん・・・・・・。あぁ、分かった」

七枷先輩が気付いたようです。一体何の匂いなんで―――











「蠱だよ、蠱。うわ、何かすっげぇ蠱臭いんやけど」











――――――――――え?











その言葉に、私は凍り付きました。蠱の匂い・・・それに、すごく心当たりがありました。そして、何故私がその匂いに気付けないのかも、分かりました。それは、




匂いの発生元が、私だから。




だから、気付けない。自分の汗臭さが他人には感じ取れるのに、自分では気付けないように。ほら、その証拠にみんながみんな、私の方を向いて匂いを嗅いでいます。くんくんくん・・・・・・くんくんくん・・・・・・って。

「うわ・・・もしかしなくても、桜ちゃんが匂い元なの?」

「コレは酷いですね、醜悪な匂いがプンプンと・・・」

「ふむ・・・・・・障気でも発しかねない匂いだな」

さっきまでの穏やかな雰囲気など、見る影もありませんでした。さっきまで笑い合っていたみんなが、完全な無表情で私を見ています。まるで―――先輩の家に来たばかりの、私みたいな。光の灯っていない、暗い瞳で、私を・・・・・・。

「あ、あの・・・皆さんどうし―――」

何か喋らないと。そういった強迫観念じみたものが身体を支配し、身を任せて喋ろうとした矢先に、遠坂先輩に―――■さんに遮られました。

「ねぇ、桜。ソレ、何?」

「―――え?」

ソレ、とは何の事なのだろう。たまに、遠坂先輩は要領を得ない言葉で問いかけてくるので困ってしまいます。

「ソレよ。アンタの身体から這い出てきている(・・・・・・・・)その変な生き物は何?って聞いてるの」

と、言われるまま自分の身体を見ると―――――





―――――身体から、汚らしい蠱が・・・・・・刻印虫と呼ばれる、私の身体に巣くっている無数の蠱が、カマキリの卵から幼虫が孵るように、わらわらと―――!

「きゃあああああああ!!!!」

それを隠すように、私は身体を両手で掻き抱きました。でも、そんな事しても無駄です。身体の至る所から、蠱は這い出てきているんですから。

違うんです・・・違うんです、違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです!!

皆さん!!わ、私はこんなの知りま

「嘘は言っちゃいけないな、桜ちゃん。ソレ、今まで桜ちゃんと共同生活を共にしてきたんでしょ?当然知ってる筈だ。その蠱・・・・・・刻印虫を。同居人を蔑ろにするなんて、いけない子だね」

その言葉に、私の身体は雷に打たれたかのようにびくん!と震え、顔は引きつり真っ青になりました。・・・いえ、もう既に蒼白も通り越していると思います。

「な・・・・・・何で、知って―――その名前、知って―――」

「知らないとでも思ったの桜?馬鹿な子・・・・・・みんな知っていたっていうのに」

「知っている上で、我々は君と共に嫌々ながらも食事をしてやったと言うのに・・・。我々を騙して、あわよくば隠し通そうとしていたとは。つくづく愚かで救われないな、間桐桜」

「その傲慢、不実、浅慮。許し難いですね、サクラ」

ごめんなさい、皆さんごめんなさい。許して下さい、私怖かったんです。知られたら嫌われるって思ってたから。謝ります、これからは良い子でいますから嫌わないで下さい。

「そう言われても、信用出来んしなぁ」

「そうね、もう嘘を言わないっていう保証なんて無いし」

「フン、その泣いている様も単なる演技の可能性は大きそうだしな」

「一度信用は失墜しました。それ以降は、その人物に対して全てを疑心暗鬼にしてかかるのが必定です」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてください。

一歩、私へ歩み寄ってくる人影がいた。今まで一言も喋らなかった人・・・衛宮士郎。私の大好きな・・・先輩。

「せんぱ・・・わた、わ、わわ私、今まで嘘ついて・・・許して下さい。何でも言うこと聞きます。だから―――だから―――――っ!」



ワタシヲ、ミステナイデクダサイ―――――。



先輩は、いつもの優しい笑顔でいてくれます。やっぱり、先輩だけは私を分かってくれました。嬉しいです。
そして、優しい声で言ってくれた次の一言で―――









「―――――汚い」









―――――私の世界は、ガラガラと音を立てて崩れ去りました。

「こんな醜悪なもの、正義の味方を目指すオレにとっては容認できる物じゃない」

そ、ん、な―――。先輩、待って・・・・・・待って下さい。私は、私は誰も傷付けたりなんてしてません。悪い事なんて何も―――

「嘘は悪いことなのに?」

それ―――は。

「いや、嘘とかを除けても、そもそも桜ちゃんの存在自体がダメダメなんだって。この世にいるだけで、それはれっきとした悪だって認識される物って、あるんだよ?現に、オレ達の目の前にいる。・・・・・・間桐桜、お前だよ」

「そうだな、七枷の言うとおりだ。悪は現れた。なら、正義の味方は悪を退治しないと」

「悪は滅びねばならぬ。私が今まで辿ってきた世界と同じく、貴様を『処理』する」

「せめて、元■のあたしの手に掛かることを光栄に思いなさい、桜」

「数ある悪の中でも、貴女は運が良い。この聖剣によって浄化されるのですから。悔い改めなさい、サクラ」

銃を、槍を、弓を、鉈を、そして剣を。みんながソレを持って、私を■そうと近寄ってきます。その顔は、無表情で。でも、瞳の奥ではたった一言、こう言ってました。








死ね。








と。







気付いたら、目の前は赤で埋まっていました。鉄の匂いも混じってました。私の知らない、私の影が、みんなを斬っていました。四肢を切断していました。達磨というやつです。それから、下半身から徐々になます切りにします。そして、首に到達した所で止めにします。人の尊厳も何もない死に方です。そうして、居間には5つの生首が完成しました。初めてにしては上出来です。先輩は褒めてくれるかなぁ?

気付けば、私は先輩の首を愛おしそうに持っていました。自分のことなのに、どこか他人然とした気分です。おかしいですね。クスクスクス。
そして、首だけになった先輩は、こう言いました。






"―――――人殺し"






「嫌あああああああああ!!!!」








「あぁっ!!!」

がばっ!!

気付けばそこは先輩の家ではなく、私の家。・・・とても息苦しい。大分うなされていたのだろう。

「―――――嫌な、夢」

でも、アレが夢でホッとした。・・・やはり、早い内に先輩に打ち明けるべきなのかな。七枷先輩が言ってくれたように、何でもないって言ってくれるのかな。それとも、今見た悪夢のように、私を拒絶して・・・・・・拒絶、し、て。

「・・・・・・っ!」

怖い。拒絶されるのが、怖い。やっぱり無理です七枷先輩。話せば手を差し伸べてくれるって、貴方は言ってくれました。でも私には、打ち明ける勇気がありません。拒絶されるのが怖くて、勇気を出せません。拒絶されずに済む方法も一緒に教えて下さい、七枷先輩。七枷先輩じゃなくても良い、誰でも良いから―――――教えて下さい。



・・・・・・もうすぐ学校へ行く時間です。憂鬱な気分で私は支度をします。






今日も一日が過ぎました。学校帰りにスーパーに寄って、急激に増えた家族・・・・・・と言えるのかな?とにかく、増えたメンバー分の食材を数日分買います。お米とか重い物は流石に先輩に任せっきりになっちゃうけど、それ以外の食材は大抵私が担当させて貰ってます。先輩は最初、「食材も自分が」と言ってましたが半分聞き捨て同然でやっているうちに根負けしてくれました。
人数もさることながら、一杯食べる人が多いので作りがいがあります。まぁ、大変じゃないって言えば嘘になりますけど。

さてさて、少し遅くなっちゃったけど先輩の家に到着です。今日も人数が多いから一杯作らないと。
今日はあえて先輩得意の和食・・・お刺身関係で攻めてみようとおもいます。ふふふ、見えないところで結構努力してたりするので、今日こそは先輩のお株を完全に奪っちゃうかもしれません。






って、アレ―――――?






この光景って、どこかで―――――。

そして、ビデオの早送りのように、あの悪夢の再生が始まります。罵倒され、私がみんなを■して、先輩に―――



"―――――人殺し"



「嫌あああああああああ!!!!」



―――リピート



"―――――人殺し"



「嫌あああああああああ!!!!」



―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺し"
「嫌あああああああああ!!!!」
―――リピート
"―――――人殺
「もう止めてぇぇぇぇ!!!!」



う・・・うぅ・・・。酷い・・・酷いよぉぉ・・・。私が何をしたって言うんですか?こんな仕打ち、酷すぎます。私―――私、何もしてない。悪い事なんて何もしてないのに、何で―――!?



「そう、君は何もしなかった。・・・何もしなかったからこそ(・・・・・・・・・・・)、こんな結末になったんだよ。桜ちゃん」

七枷・・・・・・先輩。

「ほら、あれを見てごらん。君が本当に何もしなかった結末。その先にある物を、見てみるんだ」

す・・・っと、私の横を指差す七枷先輩。そこには―――



生まれたままの姿で抱き合う先輩と、遠坂先輩がいました。

「大好きだよ、遠坂・・・・・・」

「私もよ、士郎・・・」

そして口づけを交わし、身体を密着させ、やがて徐々にではありますが肉と肉の擦り会いが始まります。淫靡な声も段々と漏れだしています。そして、擦り会いがぶつかりあいに変わって、嬌声が辺り一帯を覆い尽くします。

止めて・・・止めて下さい。私にそんな光景を見せないで下さい。

「見るんだ、桜ちゃん。君が衛宮達を殺さなかった場合、あいつらは桜ちゃんを平然と殺して、その後でああやって交わってるんだよ?はは、滑稽だよね。ようやく邪魔な間桐桜を消して、自分たちが楽しめるって喜んでいるんだぜ?」

言わないで・・・・・・それ以上言わないでください。もう、もう私、心が・・・砕け―――

「君は衛宮の傍でずっとアプローチしてたのに無視されて、自分の■に横からかすめ取られたんだ。君がずっと欲しかった衛宮のアレも、今は遠坂凛の中で暴れ回っているだけ。まるで猿だね、あの2人。ふふふ、今のあいつらを見た感想を聞かせて欲しいな。どんな心境?」

―――――ぷつり。
もう、考えるのを止めます。もう、手遅れです。なら、無駄です。何をしたって、無駄―――



「それで良いの?このまま指を咥えて見守るだけで―――――良いの?」

「―――――か」

「ん?」

「―――――ですか」

「ゴメン、良く聞こえない。もう一度言って欲しいな」

「―――――じゃないですか」

「ダメダメ、全然聞〜こえ〜ませ〜ん。もっとハッキリと大きな声で言」

「そんなの良いわけないじゃないですか!!!」

やけくそでした。七枷先輩がしつこいから、まだ少しだけ残ってた糸を使って、私は激昂して睨みました。でも、七枷先輩は怯むどころか、逆に満足そうに微笑んでます。・・・・・・その笑顔が、憎らしい。

「そう、その通り。良いわけないよね。じゃあここで簡単な問題を1つ。手に入れようとしたモノを横取りされた。じゃあ、君はどうするべきだろうか?」

どうするって・・・・・・そんなの、もうどうにもならないじゃないですか。遠坂先輩も先輩も相思相愛。私の入り込む余地なんて、もう無いというのに。

「何言ってるの?ホント、桜ちゃんは馬鹿だなぁ・・・・・・」

呆れたように、七枷先輩は溜め息をつきます。・・・■してしまいたいくらい、憎らしい。

「お?今の表情イイねぇ・・・凄くイイ。・・・っと、それはさておき。良いかい?欲しいモノが手に入らない、モノ自体は横取りされた。そんな状況での答えは、たった1つ―――――」





"―――――奪えば良い"





奪―――う。

「そう、取られたのなら取り返す。道理だろう?」

でも、そんなこと、許されるわけがありません。

「何故?君は欲しいんだろう、衛宮士郎を。ならば、取り返さないと。君の中にある下らない道徳観念なんて、この際邪魔なだけだ。君には、取り返せるだけの力があるんだよ?だけど君は、一歩を踏み出せないでいる」

でも・・・・・・でも・・・・・・

「迷うな!」

・・・・・・っ!

「君は今まで真っ当な人生を送らなかった。いや、送れなかった。それは不幸だ。だが君は、衛宮士郎という幸福をようやく見つけた。しかしその慎ましい幸福を、近しい者は無自覚に奪った。憎いだろう?自分が衛宮の隣にあるべきだと思ったろう?ならば取り返せ!横からかすめ取ったあの遠坂凛を■して、衛宮を取り戻せ!君になら出来る、頑張れ!」

と、七枷先輩が、右手を私のお腹に当てて、そして、ずぶずぶとめり込ませてきます。

「あ―――――は・・・・・・ぁ・・・・・・っ!」

ぐりぐりと、お腹の中をかき回されます。それは、苦痛であり、快楽であり、目覚めでもありました。

「力の使い方なら、オレが教えてあげる。・・・さぁ、自分を解き放って。力を引き出すから、何も考えずに、あるがままを―――受け入れるんだ」

「あ・・・あ・・・・・・あが・・・・・・あぁ・・・っは」

「大丈夫だよ、ゆっくり深呼吸して。・・・そう、そのまま。じゃあもっと深くイくよ?・・・良いね?」

ぐぶ・・・ずぐ・・・ずり・・・ぶづっ!

「あ、あああ・・・うああああああああ・・・・・・っ!」

私のナカに挿さって・・・入って、溢れ、て、くる。黒くて重くて、でも、身を任せれば凄く軽くなる、その根源を。

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・・」

「そう・・・そうだよ、桜ちゃん。そのまま、その杯の源を受け入れて。そして、身体に馴染ませるんだ。頑張れ、頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ・・・・・・」

・・・・・・はい、七枷先輩。このまま、馴染ませれば良いんですね?

「そう・・・それで良いんだよ。そのままそのまま・・・あはは、上手上手。さぁ、次は実践編だ。オレが導くから、桜ちゃんはオレのあるがままを感じ取ってね」

そして、私と七枷先輩は、今もケダモノのように肉を貪り合う2人に向き合います。
・・・・・・許せない。

「そう、許せないよね?それで良いんだ、その感情のままで・・・良く見ておくんだよ?」

七枷先輩がそう言った刹那。



―――――ブシュッ。



七枷先輩は私の身体を通して、私の持つ影を少しだけ操り遠坂先輩の片腕を、刎ね飛ばしていました。遠坂先輩からみっともない悲鳴が聞こえます。豚のように醜い、下劣な雄叫び。

あぁ・・・・・・なんて―――――






―――――なんて、心地良い響きなんだろう。






あまりの甘美な悲鳴に、私は軽く達してしまいそうな感覚を覚えました。

「そう、その快感を忘れないで。さぁ、今度は桜ちゃんの番だよ。もう、1人で出来るよね?」

はい、勿論です七枷先輩。というか、こんな甘美な行為をもう横取りされたくありません。後は私1人で殺りますので、そこで見ていて下さい。

黒い黒い緋色が・・・私を包み込む。深淵・・・暗黒・・・奈落・・・。その全てが、心地良くて。私はようやく理解したのです。



解放されたのだと。この、煉獄から。



遠坂先輩が、『桜助けて!許して!』って叫んでます。

「勿論助けてあげますよ姉さん。私は淫売な貴女と違って、優しいですから」

と、私はそう返しました。そして、もう片方の腕を斬り飛ばします。また、遠坂凛から悲鳴が聞こえます。・・・気持ち良い。
先輩は恐怖で固まっているようです。いつもの優しい笑顔も素敵ですけど、恐怖に引きつる顔はもっと素敵です先輩。もっともっと見せて下さいね、クスクスクス。

『なんで!?どうしてよ桜!』って、姉さんが叫びます。

「豚みたいに喧しく叫ばないで下さい姉さん。ちゃんと助けてあげますよ・・・・・・死んじゃえばその苦痛だらけの現在(いま)から、貴女を助けられますよね?クスクスクス

極上の笑みと共に、私は答えてあげました。予想通り、姉さんからは更に恐怖に引きつる顔を引き出しました。快感です♪でも足りません。もっとです。

もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!!

足を裂き、斬り落ちた腕を口や膣へ突っ込み、考え得る限りの外道を駆使して姉さんを苦しめました。でも、ちょっとやりすぎたみたいです。もっと楽しむつもりだったのに、姉さんは数時間もしない内に狂い死んでしまったようです。失敗失敗。てへり☆

「さぁ先輩、お待たせしました。今度は、私を姉さんみたいに愛して下さいね。ううん、違いました。姉さんよりもっともっともっとも〜〜〜〜っと、愛して下さい。・・・出来ますよね?先輩?



最初はされるがままの先輩でしたが、次第に抵抗をし始めました。鬱陶しくなったので、姉さんと同じように達磨さんにして悲鳴を聞くことにしました。姉さんは死んだ後で顔も原型を留めないくらいに破壊し尽くしましたが、先輩の綺麗な顔は傷付けたくありません。なので、最初の夢でやったことと同じく、首だけ残して他は細切れにしました。

「ふ、ふふふ・・・・・・うふふふふふ・・・・・・あははははははははは!先輩、先輩を独り占めにするのって、凄く気持ちいいですね。うふふ、先〜輩♪大好きですよ〜。言葉に表せないくらい好きです、稲妻が走ったくらいに好きです、死ぬほど好きです、殺しちゃいたいくらいに・・・好きです。あ、もう殺しちゃったんでしたっけ?あはははははははははは!」

もう光を失った先輩の瞳。その中に写る私は、何か大切なモノを失い、迷子になって途方に暮れた子供みたいな顔でくしゃくしゃになっていました。涙も出ていました。

・・・これは、きっと、弱い私です。そして、この弱い私はもうすぐ消えるでしょう。これからは、解放された、自由な私が表舞台へ立ちます。だから、こんな顔をするのは、コレで最後です。






さぁ、おやすみなさい、そしてさようなら間桐桜(よわいわたし)。おはようございます、そして初めまして間桐桜(つよいわたし)






深い深い暗闇の中で―――――






私は延々と―――――延々と―――――






―――――笑い続けていました・・・・・・。















一部始終を、七枷陣は―――いや、七枷陣の皮を被った何か(・・・・・・・)は静かに見守っていた。

「(これで良い。半分以上は賭の要素が強かったのだが・・・・・・どうやら上手く行ったようだの)」

その何かは、いつでもこうやって少女の精神へ入り込み、心を壊し、再構築しようと思えば出来た。しかし、その際に彼女へかかる負担は未知数であり、一歩間違えれば折角育てた試作品をフイにする可能性もあった。故に、今まで強硬な手段には出なかった。じっくりと追い込んでいけば良いと思っていた。
しかし、今は違う。強硬な手段に出ざるを得なかった。サーヴァントは未だに1体も斃されてはいない。それは困る。非常に困る。前回の分が殆ど使われていないとは言え、1体も聖杯に取り込まれていないという状況は宜しくない。最悪の場合、顕現しても集めた魂が不足して、何かにとっての悲願を達成することが出来ない可能性もあるからだ。
・・・故に、強硬に出た。そして、それはからくも成功に終わった。何かは思う。こうなることが分かっていれば、もっと早く桜を追い込めば良かった・・・・・・と。

「(まぁ、それも結果論。後になってそう思っても、埒が明かぬ・・・か)」

まぁ、成功はしたのだ。今はそれで良し。それで満足するべきだ。と、自分に言い聞かせる。









「――――――――――呵々(カカ)









最後に、七枷陣の皮を被るナニカから発せられた声は、若者のそれではなく、老人のような、そして羽蠱の羽を擦り合わせたような、醜悪な笑い声だった・・・。



......Interlude out

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